第283話 幻惑魔法
『ケイ様!』
「大丈夫かケイ!?」
落下の勢いを殺しきれず、強かに背中を打った俺に慌てて声を掛けてくるレギさんとシャル。
落下の衝撃でレギさんの事を離してしまったが、見た感じ二人とも怪我はしていないみたいだ。
「だ、大丈夫です。ちょっと痛かったですが......。」
強化魔法による身体強化と天地魔法による減速おかげで九死に一生を得たけど......結構やばかったかな?
頭も思いっきり打ったし......このまま回復魔法をかけておこう。
レギさんの背中から放り出されていたシャルが凄い勢いで俺の顔を覗き込んでくる。
『ケイ様!申し訳ありません!お助けするどころか助けて頂き、あまつさえお怪我までさせてしまうとは!』
む......シャルが物凄い取り乱している......怪我もばれている......血の匂いとかしているのかもしれない。
俺は急いで回復魔法をかけて体を起こす。
「大丈夫だよ、シャル。怪我も大したことないし、シャルの事を助けることが出来て良かったよ。流石にこの高さから落ちたらシャルも危なかっただろうしね。」
『申し訳......いえ、ありがとうございます。』
謝ろうとしたシャルが途中で言葉を止めてお礼を言ってくる。
「うん、無事でよかった。シャルにはいつも助けてもらってばかりだったからね。初めて助けることが出来て良かったよ。」
俺を見上げているシャルの頭をゆっくりと撫でる。
シャルは体のサイズを本来の大きさに戻すと俺に頭を擦り付ける。
俺は体の大きさを変えたシャルを両手で抱きしめるように撫でた。
少しの間だけシャルの好きにさせていたらレギさんが声を掛けてくる。
「すまねぇ、ケイ。警戒していたつもりだったが、まさか本当に地面が無くなるとはな。」
「いえ、無事でよかったです。まさか僕が言った冗談のような仕掛けが本当にあるとは思いませんでした。」
しかもただの断崖絶壁ではなく、崖がネズミ返しみたいに抉れている。
恐らく普通に崖から落ちただけだったら、強化魔法の効果も助けになってレギさんだったら途中で止まることが出来たかもしれないけど、壁との距離があってどうすることも出来なかったみたいだね。
「しかし、神域が近づいてきた感じはあるな。」
「そうですね。ここに来てやっとといった感じですが......とりあえず、一度上に戻りましょう。この辺りを探索したいですが、上に戻って無事を知らせないと......レギさんが目の前から消えた時リィリさんが物凄く取り乱していましたし......僕もナレアさんの制止を振り切って飛び出しましたから......。」
「......そいつはまずいな。」
レギさんが崖の上を見上げている。
崖を降りてくる様子はないけど、二人の慌てようからそう遠くない内に降りてくるだろう。
打ち合わせをするなら安全確保が出来る上の方が良い。
ここはまだ何があるか分からないしね。
「じゃぁ、レギさん抱えますね。えっと......お姫様抱っこ......横抱きでいいですかね?」
「......いや、それは......ちょっとな。」
「......ですよね。」
自分よりも大きい男の人......いや、レギさんをお姫様抱っこ......相当シュールな光景だ。
「じゃぁ、おんぶですかね。」
「まぁ、その方がいいが......悪いな、頼りきりで。」
「いえ、偶には僕もレギさん達を助けることが出来て嬉しいですよ。」
俺はレギさんを背負いながら言う。
「......俺はずっとケイに助けられていると思ってる。だからまぁ、そう言ってもらえるのは......嬉しいな。」
レギさんにそう言われると胸の奥にじんとしたものが広がる。
助けられて恩を返したいと思っているのはお互い様ってことか......いつも助けられてばかりだと思っていたけど。
レギさんを背負い、マナスとシャルを肩に乗せた俺はゆっくりと上昇していく。
この谷底......谷っていうのかな?
ここにはまた戻ってくることになるだろうけど、とりあえず今は早い所離れたい。
何があるか分からないし、上の状況も気になる......。
徐々に速度を上げて崖の上へと俺達は戻っていく。
「上に戻ったら戻ったで、かなり大変ですけどね。」
「......今回、俺は文句を言えねぇなぁ。」
レギさんが俺の背中で恐々としながら呟いた。
「僕も緊急時だったとはいえ、ナレアさんが止めるのを振り切って来ちゃったので......。」
「......流石に今回は俺のせいだからな。助け舟は出させてもらうぜ?」
......やっぱりいつもは俺の事見捨てている自覚はあったのですね。
少しだけ背中に担いだ荷物を下ろしたくなった気もするけど、この荷物を下ろしたら上に戻った時に盾が零になるしな......。
俺は背中の盾をしっかりと背負って崖の上を目指す。
落ちれば即死レベルの高さではあったけど、登るのにそこまで時間はかからない......のだが。
「天井......?」
「天井だな。」
ここに登ってくるまで横穴のようなものは無かった......というかあの大空洞を見落とすなんてありえない......。
「あぁ......そっか。レギさんが落ちた地面ですね、これ。」
「こうなっていたのか......ってことはこれが幻惑魔法か。幻だと分かって見ても全く分からないな......。」
俺はゆっくりと天井に近づく。
「土の匂いもしますね......。」
俺はゆっくりと手を伸ばす。
延ばした手はしっかりと天井に触れてしまった。
「......触れました。多分実体があると思います。」
「一方通行だったってことか?」
「それだと実体を作ることが出来る魔法ってことになりますけど......。」
確かに母さんは何でもありって言っていたけど......そのレベル?
ってそれはもう幻でも何でもないよね?
「確かにそれなら幻惑魔法とは呼ばれないか......俺も少し触らせてくれ。」
そう言ってレギさんが天井に向かって手を伸ばした。
「な、なんだこりゃ?」
延ばしたレギさんの手が手首まですっぽりと天井の中に埋まってしまっている。
もしかして、こっちは本物の土でレギさんが触ろうとしたところが幻だったのかな?
「ここが丁度現実と幻の境目だったってことですね。」
「いや、そうなんだろうが......俺が驚いたのはそこじゃない。手は突き抜けちまっているが......天井を触った感触......今は手が埋まっている感触があるんだ。」
「感触が?」
驚いた俺はレギさんの手が埋まっている傍に手を伸ばしてみる。
......手は確かに天井を貫通しているのだが、土を触った感触は今もある......。
こわ......。
感触はあるのに触れない......どういうこと......?
「めちゃくちゃ気持ち悪いですね......。」
「あぁ......でも思い返せば確か落ちる直前、地面の感触はあった気がする。すり抜ける時に顔に何か当たった感じもあったな。」
「......僕はちょっと慌てていたのであまり覚えていませんが......そういえばナレアさんの声が不自然に途切れた気がします。音も遮断しているのかもしれませんね。」
「......確かに幻によって惑わす魔法だな。それに天狼様の言っていた何でもありって片鱗が見えた気がするぜ。」
「そうですね......正直便利過ぎる気がしますし、敵に回すのは恐ろしいどころじゃないですね。」
聴覚、視覚、触覚......土の匂いが本当の土からしているのか幻からしているのか分からないから嗅覚は確信がないけど、少なくとも三つの感覚は騙さされているってことだ。
「シャルは何か違和感とか分かる?」
『......いえ、こうして目の前にしても全くわかりません。』
やはりシャルでも普通にしていたら気付くのは不可能か。
「じゃぁ母さんに教えてもらったコツってのを試してみます。シャルも出来る?」
『はい。出来ます。』
「レギさん、すみません。早く戻った方が良いとは思うのですが......。」
「いや、やってくれ。ここでケイ達がそのコツって奴で見分けられるのかを試しておくのは必須だ。」
「ありがとうございます。落ちたりはしませんが、ちょっと集中するので反応できないと思います。」
俺はレギさんに断りを入れた後、弱体魔法と強化魔法を行使する。
対象は自分、効果は魔力視と五感の弱体。
当然、暗視も全て切る。
視力は零だが魔力視の効果だけが発揮された。
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