第329話 急変
俺がレギさん達との通信を終えると、丁度シャル達の方も一段落したのか俺の方に近づいて来た。
『お待たせいたしました、ケイ様。』
「お疲れ様。何か分かった?」
『魔物の正体についてはまだですが......私が感じていた覚えのある魔力についてマナスと精査した結果、ほぼ間違いないと確証を得ることが出来ました。』
「お、そうなんだ。それは良い情報だね。聞かせてもらってもいいかな?」
『はい。私が覚えのある魔力と感じた物は、ダンジョンの魔力です。』
「ダンジョンの魔力......?」
ダンジョンの魔力ってことは......魔神の魔力ってことだよね?
......え?
この足跡、魔神!?
『残された魔力量が少なかったので、すぐに思い至ることが出来ませんでしたが......足跡から直接魔力を読み取り、マナスもその魔力に触れることでお互いの意見を一致させることが出来ました。』
「......この足跡は魔神の物って事......?」
まずい......とんでもなくまずい......。
心臓に氷を叩き込まれたかのような......ゾッとするほどの何かが胸の中心に突き刺さったような感覚に陥る。
あの母さん達ですら倒すことが出来ずに、異世界からの召喚物によって鳳凰様がその命と引き換えにやっと倒せた魔神が......復活するのか?
すぐに母さんに連絡を......いや、距離的に一番近い仙狐様の所へ......!
いや待て、先にナレアさん達に連絡をして手分けをして母さんや応龍様にも連絡をするべきだ!
『ケイ様、違います!』
魔道具を取り出しながら、自分でも分からないどこかへ駆け出そうとした俺をシャルが慌てて止める。
『申し訳ありません!この足跡の主が彼の魔神と言うことではありません!』
「......え?そ、そうなの?」
魔神......ではないのか......?
『誤解させるような言い方をしてしまい、本当に申し訳ありません。私も初めてこのような状況に遭遇したので間違いなくそうだとは言えませんが、恐らくこれはダンジョンが生まれる予兆だと思います。』
「ダンジョンが......ここに?」
『はい。最初この村に来た時に覚えのある魔力の残滓を感じると申しましたが、逆だったようです。今まさにここの場所に魔力の淀み......魔神魔力が集まってきているのだと思います。』
魔力の淀み......一般的にダンジョン発生の原因と言われていることだけど......どういった条件で、いつそれが発生するかは今の人達でも解明できてはいない。
俺達はその魔力の淀みが魔神の魔力によるものだとは知っているけど......シャルやマナスのように魔力の感知に長けている子達だからこそ、予兆を感じられたってことだろう。
「なるほど......じゃぁこの足跡は......?」
ここはまだダンジョンではないのだから、まだ魔物は生まれないのではないかと思うのだけど......。
『恐らく、この足跡の主こそがダンジョンの核なのだと思います。』
ダンジョンの核......ボスか。
「なるほど......ダンジョンからボスが生まれるのではなく、ボスからダンジョンが生まれるってことか。」
『はい。恐らくそうだと思われます。』
「だからボスを倒せばダンジョンが消える......なるほど......。」
魔神の魔力が集まり、ボスが生まる。
そのボスを中心に魔神の魔力が拡散されてダンジョンが出来る。
そしてその魔神の魔力で満たされたダンジョンの中で魔物が生まれ......と言う訳か。
ってか、この考察ナレアさんに話したら凄く喜びそうな気がするな。
「とりあえず、差し当たりこの足跡の魔物は放置しても大丈夫そうかな?」
『恐らく魔神の魔力が一定量集まり、実体化するまでは何もしないかと。』
「逆に今の時点で魔力を吹き散らすようなことをしたら、ダンジョンも生まれないってことかな?」
『いえ......魔力の集まる条件が分からないので確実ではありません。』
「あーそっか。ダンジョンの発生を遅らせることは出来ても、同じ場所に魔力がまた溜まらないとは限らないか。」
まぁ、ダンジョン自体は厄介な代物ではあるけど、貴重な資源である魔晶石を取ることが出来る場所だしね......カザン君としてはここにダンジョンが生まれるのは悪い話ではないだろう。
どのくらいの範囲がダンジョンとなるか分からないけど......村や畑としては諦めるしかなさそうだけどね。
でも攻略した際の旨みは恐らくこの村を復興させるよりもあるのだと思う。
まぁ、魔晶石が採れるようになるまで数年以上はかかるのだろうけど......勿論攻略もしなきゃいけないし......維持費なんかも掛かるだろうから、良い事づくめってわけにもいかないのだろうけど......。
「ダンジョンがここに生まれるのは、良い事も悪い事もあると思うけど......今のカザン君にとっては頭の痛い話かもしれないな。」
『まだ推測ではありますが......。』
「うん。でもシャルとマナスが言うのであれば......俺はそう遠くない内にここがダンジョンになると思うなぁ。」
ある程度確信が無ければ、シャルは俺に伝えないだろうしね。
『恐縮です。』
シャルは今子犬サイズなので、俺はしゃがみこんでシャルの頭を撫でる。
「この足跡の魔物を確認出来ればもっと色々分かるかな?」
『調べてみない事には何とも言えませんが......ですがケイ様、あくまで推測ではありますが、ここはダンジョンが発生する可能性があります。ケイ様のお力であれば問題ないとは思いますが、わずかでも危険がある以上ケイ様はこの場を離れるべきだと思います。』
「あー、確かに今この瞬間にもここがダンジョンになるかも知れないけど......でもそれはシャル達だって一緒だからね?」
『......ケイ様が私達を慈しんで下さっているのは重々承知していますが......それでもケイ様以上に私達が優先する事はありません。調査は私達に任せて頂けないでしょうか?』
真剣な表情で俺を見上げながらシャルが言い切る。
シャルの立場......いや、その言い方は失礼......侮辱に近いか。
シャル達であれば俺の安全こそ最優先、俺の願いをかなえる事こそ至上命令って感じなのだろう......その上で俺がシャル達の事を本当に大事に思っている事も理解してくれている。
ある意味板挟み状態にしちゃっているわけだけど......まぁ、いつもの事ながら俺はわがままにやらせてもらおうと思う。
「シャル達の気持ちもよく分かる。シャルにとって俺はまだまだ弱っちいだろうしね。」
『いえ!決してそのようなことは......!』
顔色を変えて否定しようとするシャルをまぁまぁと抑える。
「実際、俺がシャルより弱いってことは、俺だけじゃなく皆が知っていることだからね。勿論、シャルが俺の事を弱いと思っているとは考えていないよ。そんな日が来るかは分からないけど......もし俺が、いつかシャルより強くなったとしてもシャルは俺の事を守ってくれるでしょ?」
『はい!勿論です!この命尽きようとも、未来永劫、ケイ様を守り抜く所存です!』
「ありがとう。でも、シャルに命は張ってもらいたくは無いのだけど......まぁ、何が言いたいかって言うと、シャルが俺の事を心配するのと同じくらい、俺はシャルの事が心配だ。」
『......ぁぅ。』
俺はシャルの事をゆっくりと撫でる。
「シャルは俺の方が強くなったとしても守ってくれるでしょ?俺はシャルの方が強いけどシャルの事を守りたいんだよ。」
そう口に出しながら、子犬サイズのシャルを抱き上げて腕の中に収める。
左手でシャルの体を支えながら胸の前で抱き、右手でシャルの体を優しく撫でると、一瞬体を硬直させたシャルが恐る恐るといった感じだけど、甘えるように俺の胸に顔を擦り付ける。
「だからね、この場に皆を残して俺は下がったりしないよ?調査の役には立たないと思うけど、シャルやマナス、ファラだけにこの場を預けたりはしない。万が一の時、ここから逃げる時は全員でだ。」
俺は少しだけ力を込めてシャルを抱きしめながら。その体に顔を擦り付ける。
もふもふしていてとても気持ちがいい。
「~~~~~っ!」
くすぐったかったのか、声にならない声をシャルが上げた気がする。
俺が少しだけ顔を離すと俺の頬をシャルが軽く舐める。
『ぜ、絶対に!じゅっと!ケイ様の事をお傍でお守りしましゅ!』
至近距離で俺の事を見ながらシャルが宣言する。
ちょっと噛んだけど、可愛かったので気にしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます