第330話 ダンジョンのお話
「とりあえず、到着して初日に調べられたのがこんな感じ。」
カザン君の依頼による謎の大型魔物を調査する依頼を終えた俺は、領都にある領主館に戻ってきていた。
「なるほど......まさかダンジョンが誕生する予兆だとは......今のが初日に調べられたことという事は、その後の調査でより具体的なものが分かったのですか?」
報告書はさておき、調べた内容を口頭でカザン君とレギさん、ナレアさんに報告しているのだが、予想通りカザン君は難しい顔をしている。
まぁ、一応通信用の魔道具で軽く説明してはあったのだけどね。
「具体的って程のことじゃないかもしれないけど......とりあえずそこから数日待機して件の魔物が現れるのを待ったんだ。ファラの部下の子達の協力もあって、かなり広範囲で索敵していたのだけど三日目の夜にようやく村の中に姿を現してね。それで色々調べた結果......ダンジョン発生の予兆で間違いないみたいって確信できた。」
「......確定ですか。」
「うん。まずは核......ダンジョンのボスだけど、人型で今の所身長は俺二人分より大きくて、三人よりは小さい。二足歩行で体つきは筋肉質、武器のような物は持っていなかったけど......まぁ見た感じ力は強そうだったね。」
「動きなんかはどうだ?」
ボスの外見について説明すると、レギさんから質問が飛んできた。
「それが、ネズミ君の目撃談の通り、何をするでもなく佇んでいるだけで......一応こちらから触れてみたのですが、幻のようにすり抜けるだけ......魔物自体に干渉することは出来ませんでした。」
「なるほど......今聞いた限りじゃ、俺の知らない魔物だが......。」
「シャルの推測ではありますが、あの魔物はまだ実体を持っていない......不確定の魔物とのことです。」
「不確定の魔物?」
「はい、実際にダンジョンのボスとし生まれるまでは、姿も大きさも変化する可能性があると......これは以前目撃していたネズミ君の話からも間違っていないと思います。先日見た時よりも体つきが太くなっているとのことでしたので......今後も姿が変わっていく可能性は高いと思います。」
「なるほどな......。」
レギさんが顎に手を当てて呟く。
現時点で魔物の種類なんかが分かっていれば、いざ攻略をするって段階で結構有利になっただろうしね。
まぁ勿論、攻略の際には事前調査を幾度も行うのだろうけど。
俺とレギさんのアレは例外中の例外だ。
「次に、現時点で観測出来たダンジョンの魔力の範囲ですが......村を中心にかなり広い範囲。村の敷地と畑なんかを合わせた範囲の三倍くらいの広さでした。」
「確かあの村は百五十人程度の村でしたが......開墾のしやすさもあり、かなり広い範囲で畑が広がっていたかと。それに入植者を追加で受け入れられるように、村の範囲にはかなり余裕をもっていたのでかなり広範囲といえるかもしれません。」
「百五十人規模の村、しかも追加の村人を入れる余裕を持たせた敷地に畑......それの三倍か......平地のダンジョンとして考えるなら大規模ダンジョンに相当するな。」
ボスの話をしていた時よりもさらに難しい顔になったレギさんが言う。
「......大規模ダンジョンですか。それはどのような物なのですか?」
「まぁ、そのままの意味だ。規模の大きいダンジョンってだけだが......それが相当厄介なんだ。」
「厄介というのは......?」
「あぁ......そうだな......。」
そう言ってレギさんは一呼吸置いた後、カザン君に向き直る。
「まず、ダンジョンには魔物が居て......ボスがいる。それは知っているな?」
カザン君が頷くのを確認したレギさんが話を続ける。
「そしてダンジョンには色々な種類がある。広さだったりダンジョンとなる地形だったり、生み出される魔物であったり、要因は様々だがそれらダンジョンに対して、攻略難易度ってのがギルドによって付けられるんだ。」
「冒険者ギルドはそのようなこともしているのですね。」
「あぁ。攻略難易度は日々更新されていくものだが、まず最初にギルドの調査が入って大まかな難易度設定がされる。ダンジョンの中に入って見ないと難易度は分からない。魔物の強さやダンジョンの広さなんかは特にな。その辺を調べるのも冒険者の仕事なわけだ、いつか来る攻略の日に備えてな。」
「なるほど......。」
「そしてさっき言った大規模ダンジョンは、とにかく広い。そして広さに比例するように魔物の数が非常に多い。さらにボスは強力であることが多い......いや、中小規模のダンジョンと比べると明らかに強い。」
レギさんの言葉を聞きカザン君も考え込んでしまっている。
「発生する魔物によっては難攻不落になることも珍しくはない。それが大規模ダンジョンだ。」
カザン君が目元を覆い、頭を抱えてしまった。
まぁ......グラニダを治める領主であるカザン君にとっては頭が痛い所の話ではないよね......。
「ほほ、レギ殿。脅すだけではカザンが心労で倒れてしまうのじゃ。今回のダンジョン、良い点もあるじゃろ?」
重くなった空気の中ナレアさんが軽い様子で笑い声を上げる。
その言葉を聞いてレギさんも苦笑を浮かべながら頭を掻く。
「......すまねぇ。ナレアの言う様に今回のダンジョンにおいては良い点も多い。」
「......そうなのですか?」
若干憔悴した様子のカザン君が、目元を覆っていた手を退けてレギさんに顔を向ける。
「あぁ、まず一つ。ダンジョンの発生が事前に分かったことだ。」
カザン君の様子が変わり真剣な表情でレギさんの言葉に耳を傾ける。
「当然だが......ダンジョンはいつ、どこで発生するか分からない。そして発生する場所によっては大惨事になることも少なくない。」
そう言ったレギさんは、一瞬苦み走った表情を浮かべた。
「......だが今回は被害をかぎりなく零にすることが出来る筈だ。しかも人知れず発生してしまって放置するわけでは無い。正確なダンジョンが動き出した日を把握出来れば、攻略の予定も立てやすいな。」
いつの間にか発生したダンジョンはいつ攻略すればいいか分からないよね。
すぐにでも攻略しなきゃいけないのか、生まれたてで魔晶石を全然取ることが出来ないダンジョンなのか......放置し過ぎるのは危険だし、すぐに攻略してしまっては旨みが少ない。
カザン君は頷きながらレギさんの話を聞いている。
「次に平地に生まれるダンジョンってことだ。カザンは領主という立場だから当然軍を動かすことが出来る。東方では基本的にダンジョンの攻略は軍や傭兵の仕事だと聞いているが......平地における戦いは、訓練されている軍であれば冒険者よりもお手の物だろう?」
なるほど......確かに狭所での戦闘となると個人の技量に左右されることが多いだろうけど、平地における戦闘であれば数がそのまま強さになる。
集団での戦闘の訓練をしている軍にとって理想的な場所ってわけだ。
「それに平地であれば、面倒だが詳細にやらなければならない地図作成も殆ど必要ないしな。」
「なるほど......確かに、以前父が指揮を執って攻略したダンジョンでは、狭所での戦闘でかなり被害が出たと聞いています。口惜しくはありますが......やつらの助けが無ければ被害はもっと出ていたでしょう。」
......アザル達のお陰とは言いたくないだろうけど......ダンジョン攻略という点だけを見れば助かったのは事実だろうね。
「......今回新しく生まれるダンジョンはその時とは逆で個の力は殆ど必要ない。そしてもう一つ、ダンジョンの魔物はダンジョンの外に出ることが出来ない。これはかなり有利な点だ。」
「魔物が外に出られないことがですか?」
カザン君が意味がよく分からないと言った表情でレギさんに聞き返す。
それを聞いたレギさんがにやりと笑った。
「ダンジョンの外から矢の雨を降らせることも出来るし、投石器なんかの攻城兵器を使うのもいいな。当然魔物も飛び道具で応戦してくるかもしれないが、それを防ぐ手立てを用意しておけばいい。」
「まるほど!遠距離からの攻撃が自由に可能というわけですね!」
先程までの重い空気が一変、カザン君の表情が明るくなった。
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