第48話 状況説明



聴覚強化の効果を消して通路の先を監視し始めてから三十分程度経っただろうか?

後ろからこちらに近づいてくる足音が聞こえたので振り返ると、思っていたよりも近くにレギさん達がいてちょっとびっくりした。

身体強化魔法がないと音の聞こえる範囲が狭すぎるな......。


「どうした?ケイ。何かあったか?」


「いえ、すみません。聴覚強化を切っていて近づいてきたのに気付かなかったので少し驚いただけです。」


「聴覚強化を......?あぁ、そうか。すまねぇ、気を使わせたな。」


「いえ、ゆっくり話はできましたか?」


「あぁ、大丈夫だ。周りの様子はどうだ?」


「今は大丈夫です、シャルの探知の範囲内にはいません。」


「そうか......こいつを紹介したいんだが新しく魔物が生まれる可能性もあるしな......出来ればレストポイントに移動したいが......無理だよな......。」


「そうですね......レストポイントは不味いですよね......ここでいいんじゃないですか?」


流石にレストポイントにリィリさんは連れていけないだろうし、ダンジョンの中で安全の確保ってやっぱり難しいよな......。


「そうだな、ここは通路も一つで守りやすい。新たに生まれた時は......まぁ処理できるだろう。」


「なんでレストポイントがまずいの?レギにぃ。自己紹介だけってわけでも無いんだし、レストポイントの方がいいと思うのだけれど。」


「いや、お前レストポイント入れないだろ?」


「入れるけど?」


「......入れるのか?」


入れるんだ......。


「魔力が薄いからか、少しだけ息苦しい感じがするけれど他に問題はないわ。」


「無理はしてないか?」


「えぇ、大丈夫よ。」


そういえば他の魔物もレストポイントに絶対に入ってこないってわけじゃないらしいし、少し我慢すれば入れるってことかな......?


「じゃぁレストポイントに移動するか。シャル、頼めるか?」


レギさんの要請に頷いたシャルは先導を始める。


「レストポイントは近いの?」


『はい。道中魔物が生まれなければ十分程で辿り着きます。』


「そっか、ありがとうシャル。先導宜しくね。」


『承知いたしました。』


「レギさん、リィリさん。十分程でレストポイントに着くそうです。」


「意外と近くにあったんだな。まぁ魔物がいないってのもあるか......。」


「......今、この人誰にレストポイントの位置を聞いたの......?」


「どうした?リィリ?」


「いえ、ごめんなさい。何でもないわ。」


リィリさんが多分俺の事を疑問に思ったようだけど今はスルーしてくれるようだ。

まぁレストポイントに着けばお互い色々確認したいこともあるだろうし、それからでもいいだろう。

俺達はシャルの後を追いレストポイントに向かって出発した。




レストポイントに着いた俺たちはそろそろ昼時ということもあり、軽く食事をとりつつ自己紹介をしていた。

まぁリィリさんは食事取れないけれど......。


「改めて自己紹介させてもらうわね。私はリィリ、下級冒険者でスケルトンのリィリよ。」


「初めまして、私も下級冒険者でケイと申します。レギさんにはいつもお世話になっています。」


「ケイ、前に話したと思うがこいつが妹分のリィリだ。まぁちょっと様変わりしちまっているが中身は間違いなく俺の知っているリィリだ。少し......いや、かなりおかしな奴だがケイさえよければ一緒に行動したいと思っているんだが......。」


「えぇ、もちろんいいですよ。ダンジョンについても詳しそうですしこちらからお願いしたいくらいです。」


「そうか......助かる......それと、リィリ。こいつは今回このダンジョンに来るにあたって手伝ってくれているケイだ。冒険者になってから日は浅いが色々と頼りになるやつだ。」


「......まさか二人でダンジョンに?」


なんとなくリィリさんの機嫌が悪くなったような......。


「完全に二人ってわけじゃないが、基本は俺達だけだな。」


「......どういう意味かしら?まさかそちらの子犬やスライムを頭数として数えているわけじゃないわよね......?」


そう言われた瞬間、シャルの怒気......と言うよりも殺気が膨れ上がる。

慌ててシャルを後ろから抱き上げて腕の中に納める。

ついでに頭や耳の後ろを撫でておく。


『~~~~~っ!け、ケイ様~~~!』


一先ずシャルの怒りは抑えられたようだ。

このままシャルにはここにいてもらおう。


「まぁ、落ち着け。俺たちは自殺志願者じゃない。それなりに算段を付けてダンジョンに挑んでいる。」


「算段って?」


「あー、それはだなぁ......。」


レギさんが気まずそうにこちらを見る。

あぁ、うっかり口を滑らせたって思ってるのかな?


「大丈夫ですよ、レギさん。リィリさんにはちゃんと話すつもりでしたから。」


「すまねぇ、ちょっと気が緩んでいたようだ。ケイの事をとやかく言えねぇな......。」


そう言いながらレギさんは頭を掻いていた。

確かにレギさんにしては少しうかつだったのかもしれないけれど、状況的にもその相手も特に問題はない。

まぁレギさんからすれば、俺の秘密を漏らすような言い方をしてしまったという罪悪感があるのだろうけど......。


「大丈夫ですよ、リィリさんにはレギさんから説明して頂いて大丈夫です。僕が話すより納得できると思うので。」


「俺が話しちまっていいのか?」


「えぇ、初対面の人間から聞いて信じられる内容でもないんじゃないですか?」


「それはそうだな......分かった。リィリ、今から話させてもらうが他言無用だぜ?」


「約束するわ......とは言え、今の私と会話できる人がそうそういるとは思えないのだけれどね。」


そう言うとリィリさんはカラカラ笑う。

快活な方だと思う......スケルトンだけど。


「まぁ......それはそうだな。だが、そういった内容だとは理解しておいてくれ。」


そしてレギさんは俺たちの事をリィリさんに話し始めた。

俺との出会い、一緒に行った依頼や前のダンジョンの事、そして魔法やシャル、マナスの事を......。

リィリさんは途中で口を挟むことなく静かに聞いていた。

さして長くもない話は終わりしばしの間ダンジョンに静寂が訪れる。


「......中々信じ難い話ね......。」


「俺もそう思うが......全て事実だ。」


「そうね......慎重なレギにぃがこのダンジョンに二人でいるって時点で結構信じられるわ。それに、私自身の状態を考えれば......世の中には私たちでは理解の及ばないことがいくらでも起きるのだと思う......。」


「そうだな......まぁ、俺はケイと出会ってから驚きっぱなしだ。」


「話を聞く限りじゃとんでもない子のようね......レギにぃがほっとけないって言うのも分かる気がするわ。」


「まぁ......それ以上に助けられていると思うがな。」


二人にまじまじと見られるとむず痒いというか、気恥ずかしいというか......とりあえず居心地が悪い。


「ま、まぁ僕たちの話はこれくらいでいいんじゃないですか?」


俺の居心地の悪さに気づいたのか二人の雰囲気が柔らかくなり、レギさんに至っては苦笑しているようだ。


「そうだな......。とにかく、俺達の方はこんな感じだ。」


「分かったわ、魔法とかシャルって子の能力についてはまた後で実践してもらうとして納得は出来たわ。それにしてもレギにぃがダンジョンに入れなくなっていたなんて......。」


「それについては面目次第もねぇ......本当に情けないと思う。」


「......いいえ、そうなってしまったのは私達全員の責任だわ。レギにぃだけのせいじゃない。私達の力が足りなかったからダンジョンに対抗出来ずに倒れた......でもレギにぃだけはダンジョンから生きて帰ることが出来たの......それは私達全員の勝利よ。そして今こうして恐怖を乗り越えて私達を迎えに来てくれた。私はあの時の約束を完璧な形で果たすことは出来ないけれど、その手伝いはさせてもらうわ。」


リィリさんの約束......生きてダンジョンから帰り、ヘイルさん達を迎えに来るという誓い......。


「......俺に任せろ......必ず、全員連れて帰る......。」


「......ありがとう......レギにぃ......。」


薄暗いダンジョンが少しだけ明滅したような気がした。


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