第345話 ならばこちらでも



クレイドラゴンさんのいる聖域を訪れてから数日後、俺達は龍王国の王都を出発し、応龍様の神域に来ていた。


『無事、仙狐の加護を得られたようだな。』


「はい、応龍様に教えて頂いた黒土の森を首尾よく見つけることが出来まして......仙狐様にお会いすることが出来ました。」


相変わらず空からゆっくりと登場した応龍様が開口一番、無事に目的が果たせたことを見抜いて来た。

見ただけで他の神獣様の加護を受けたとかが分かるのだろうか?


『仙狐はどうであった?流石に天狼の子供にまでおかしなことを言ったりはしなかったとは思うが。』


「はい、仙狐様はとてもよくしてくれました。それに母や応龍様がおっしゃられていたような雰囲気の方ではありませんでしたよ?」


これ以上ないくらい言葉は端的で、曲解のしようがないくらいだった。

まぁ、常にこちらの思考を読んで会話をしていたので、若干失礼なことを考えてしまったこともあったけど......寛大な心で許してもらえた。

というか、そんなことは一々気にしないって感じだったかな?


『ほう?それは興味深いな。神域に篭っている間に心境の変化でもあったか......?』


自分の真似をする眷属の子達の姿を見て居たたまれなくなったみたいです......とは言えないよね。


「神域が出来て四千年ですし、色々と考える事があったのだと思います。」


『そうか。一度会ってみたいものだが......まぁ難しいな。』


会うのは難しいけど......通信用の魔道具を神域に配置したらどうだろうか?


「そうしてやりたいのはやまやまじゃが......まだ無理じゃのう。神域の結界を超えての通信はまだ出来ぬのじゃ。」


「そうでしたか......。」


『ふむ?何やら他の神獣に会う手立てがあるのか?』


俺とナレアさんの会話を聞いていた応龍様が尋ねてくる。

いや、会話......だろうか?

会話......まぁ、相槌を打ったから会話......か?


「会う、と言う訳ではないのですが......遠方の人と会話をするための魔道具がありまして、それを使えば連絡が取り合えると思ったのですが......まだ無理みたいです。」


『そうか......それは残念だが......まだ、ということはいずれ可能にするつもりということだな?』


「うむ。結界に干渉されずに通信出来る手立ては、妾達も必要としておるのでな。」


『なるほどな。完成した暁には我らにも使用させてもらえるとありがたいな。』


「うむ。その際は各神域に配置させてもらおう。じゃが、少し時間がかかりそうじゃな。実験するにしても神域の中でないと出来ぬからのう。」


『それは当然だな。よければ私の神域に暫く滞在するか?』


「いや、申し出はありがたいのじゃがまだ基礎実験の段階でな。もう少し開発を進めねば神域で実験しても意味が無いのじゃ。」


応龍様の誘いにナレアさんが難色を示す。

確かに神域の中での実験は必要なのだろうけど......まだその段階までは来ていないってことか......。

もし連絡が取れるようになれば母さんと話が出来るようになるし、他の神獣の方々にも色々と相談出来るだろう。

是非とも頑張って開発してもらいたい。

そういえばあまり聞いたことは無かったけど、今はアースさんとどんなものを開発したりしているのだろうか?

以前お願いした、お風呂を沸かす魔道具なんかあっという間にナレアさんは作っていたし、そう考えると本当に難しい物を二人で作っているのだろうな......何か手伝えればいいのだろうけど......魔術に関しては欠片も役に立たないし......何か元の世界にあった物で応用できそうなアイディアでもあればいいけど......元の世界で結界って言われてもな......。

いや、携帯の圏外とかって考えをすれば......。

って今は応龍様と話をしないと。

色々と考えを巡らせていた俺の事を応龍様は優し気な目で見ていた。


「すみません。余計な事を考えていました。」


『気にすることは無い。お前たちの発想はいつでも我等を楽しませてくれるからな、好きなだけ考えを巡らせてほしい。だがまぁ、今は話をしてくれる方が嬉しいかもしれないな。』


そう言って豪快に笑う応龍様。

うん......やっぱり話をしに来たのだからね、しっかり話そう。


『ところで仙狐は随分と様子が変わったようだが、加護もすぐに貰えたのか?』


「えっと、一つ頼み事をされましたが、加護自体はすんなりと貰えたと思います。」


『ほう?頼み事か......何を頼まれたのだ?』


興味深げに聞いてくる応龍様。

その雰囲気はなんとなく仙狐様や母さんにも似ているような......面白いことに飢えているというか......。

まぁ、これは別に教えてもいいよね?


「仙狐様の眷属の方と一戦を頼まれました。模擬戦という形でしたが仙狐様の眷属三名と私、ナレア、それと私の眷属のマナスで戦いました。」


『ほう、そのようなことを!それで、どうなったのだ?』


応龍様の目がキラキラしだして、身を乗り出す様に質問してくる。


「えっと......相手が下位の眷属だったこともあって......。」


『なるほど......ではあまりまともな戦闘にはならなかっただろうな。』


「えぇ、仙狐様も最初からそういう風に考えていたようです。」


『であろうな。仙狐には戦闘以外に目的があったということだな......それが何なのかは分からぬが......。』


「仙狐様の狙いについては......私からは......。」


『まぁ、そうだな。ナレアの研究が実を結んだ時に聞き出すとしよう。』


......後で俺仙狐様に怒られないだろうか......大丈夫かな......。


『しかし眷属との戦闘か......私の眷属とも戦わないか?』


「え?いや......それは......。」


出来れば戦いたくない。

というか積極的に戦いたくない。


『やりたく無さそうだな。いい経験になると思うが?』


う......確かに、応龍様の眷属と戦うのはいい経験になると思うけど......


「ふむ、妾は興味があるのう。天地魔法の扱いについて、妾達はお互いの物しか知らんからのう。参考にしたいのじゃ。」


「なるほど......それは確かに興味がありますね。」


他の人の魔法を見るのはいい勉強になるし......東方に比べれば治安がいいとは言え、西に向かうのだって危険が無いと言う訳ではない。

新しい技術や発想は取り入れられる時に取り入れるべきだろう。

まぁ、流石にこの世界にも慣れて来たので、俺達が集まっている所を害せる相手がそうそう居ないのは理解している。

それでも不測の事態は起こり得るわけだし、俺達も常に一緒に居るわけでは無い。

何かが起こった時に対抗できる手段は多ければ多い方が良いと思う。


「応龍様、先程はすみませんでした。眷属の方とお手合わせをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


『あぁ、私から言い出したことだからな。とはいえ、あまり好戦的なものがいないから......どの程度の者が手を上げるかは分からないがな。』


応龍様の指名じゃなくって眷属の方達の希望制ってことか。

どんな方と戦うか分からないけど......シャルクラスの相手は出てこないよね......?

対戦相手によっては参考にする以前に、一瞬で終わって話にならないって可能性は十分以上にある......。

確か以前来た時にシャルと同格が少しいるって言っていたし......出てきたらどうしよう......。


「妾達は天地魔法以外も使ってもいいのかの?」


『寧ろこちらから頼みたいくらいだ。神域が出来て以降、他の魔法を目にすることは無かったのでな。若い者たちは見た事も無いどころか、どのような魔法かさえ知らぬやもしれぬ。』


仙狐様の神域もそうだったけど、若い眷属は他の神獣様の加護の事は良く知らないみたいだね......まぁ四千年も交流が無ければ当然の事だとは思うけど。

......あれ?

そう言えば、シャルって母さんの所の眷属の族長の子供って聞いたけど、一体何歳くらいなのだろうか?

そんなことを考えながら傍らにいるシャルの方に目を向けると、未だかつて見たことが無いような目をしたシャルがこちらを見ていた。


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