第278話 君の足は......何本?



『お待たせいたしました。』


ナレアさんとこんな相手だったらこうしよう、あんな相手だったらあぁしようと念入りに打ち合わせをしていたらファラが偵察から戻ってきた。

さて......運命の瞬間だ。

魔物の......足の数はいくつだ!?


『この先にいた小型の魔物ですがケイブバットでした。数は十三。洞窟の天井にぶら下がっているので近接武器では届かないと思われます。』


ケイブバットってことは......蝙蝠か。

足は二本の哺乳類だね。

良かった良かった......飛行タイプだから先ほどの打ち合わせも無駄にならないし、蝙蝠は確か雑菌とか病原菌の関係で食べない方がいいはずだ。


「......蝙蝠か......。」


......その食へのあくなき探求心は凄いと思いますが......今回は抑えて頂きたいです。


「蝙蝠はやめとけ。ちゃんとした食用のやつじゃないと病気にかかるぞ。」


......食用蝙蝠っているのか......レギさんの言葉にリィリさんが少し残念そうにする。

しかし残念そうにした次の瞬間、リィリさんが俺の方を向いた。


「そう言えばケイ君って病気にかからないんじゃなかったっけ?」


「いやいやいや、罹りにくくはありますけど、罹るときはあっさりと罹りますよ!」


ちっと舌打ちをするリィリさん。

冗談の......いや、あわよくば的な感じが物凄くするけど、とりあえず諦めてくれたようだ。

これで後顧の憂いなく魔物を討伐できるね。

って、そう言えば......。


「ケイブバットって襲い掛かってきますかね?」


「好戦的な魔物ではないが、縄張りに入って行ったら流石に襲い掛かってくると思うぞ。」


「あーそれはそうですね。」


家に入り込まれて迎撃しない奴はいないよね......魔物に限らず。


「さっきからずっとナレアと二人で打ち合わせしていたみたいだし、任せていいか?」


「えぇ、大丈夫です。」


「うむ、いい練習相手になるじゃろう。」


レギさんの言葉に俺とナレアさんが頷く。

今まであまり連携しながら戦うってなかったからね。

遺跡で戦ったゴーレムくらいかな?

それ以外は基本的に各々が別々に戦う感じだったし、連携の練習は大事かもしれないな。


「ケイブバットって何か気を付ける事ってありますか?」


「爪や噛みつきには注意しとけ、病気になることが多い。まぁケイの魔法があれば大丈夫だと思うが......。」


解毒も出来るし、消毒も多分問題ないだろう。


「そうですね、多分治せるとは思いますが気を付けておきます。そのくらいですか?」


「そうだな。一匹一匹は大して強くないが、基本的に集団で襲い掛かってくる。だが慌てずに対処すれば問題ないはずだ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


いつも通り、油断せずに慌てない様に戦えば大丈夫そうだね。

ナレアさんも問題ないと言う様にこちらを見ている。


「よし、じゃぁ行きましょうか。僕とナレアさんが先頭。レギさん達は後ろをお願いします。」


「了解だ。」


「......。」


俺が出発を促すとレギさんは返事をしてくれたのだが、リィリさんの反応が何故か無く何かを考えこむようにしていた。


「リィリさん、どうしました?何か気になることでも......?」


「......うん。ケイ君の魔法で病気が治せるんだったら......。」


「さぁ!行きましょう!魔物は近いですよ!」


リィリさんに皆まで言わせずに俺は声を上げる。

そこまでして食べたいですかね!?


「ケイよ。気持ちは分かるが蝙蝠は耳がいいからのう、あまり大声を出すものではないのじゃ。」


「す、すみません。」


必死な声を上げてしまった俺をナレアさんが注意する。

油断しすぎだったな、気を引き締めないと。

何か言いたそうにしているリィリさんを尻目に俺達は再び洞窟を進み始める。


『ケイ様。よろしければ私が先行して処理をしますが......。』


俺の横を歩きながらファラが魔物の処理を申し出て来た。


「ありがとう、ファラ。でもこれからナレアさんと魔法の連携の練習がてら戦うつもりだから大丈夫だよ。」


『そうでしたか。差し出がましいことを言いました。申し訳ありません。』


「いやいや、そんなことないよ。ファラがそうやって色々やってくれるのは、いつも助かっているからね。」


近くにいればファラを撫でたい所だけど、地面を走っているファラを撫でるのはちょっと無理がある。


『もっとお役に立てるように頑張ります!』


何故かファラが気合を入れ直してくれた。

これ以上って一体ファラはどうなってしまうのだろうか......というかどうなりたいのだろう?

ファラの理想に戦々恐々としながら進むことしばし、ファラから止まるようにと警告が発せられた。


『この先の天井にケイブバットがぶら下がっています。それと下には蝙蝠の糞が山になっているのでお気を付けください。』


「了解。ありがとうファラ。」


うん、ここからなら俺達にも見えるね。

後あの山みたいになっているのは蝙蝠の糞か......突っ込まないように気を付けよう......。

数は......うん、聞いていたように十三匹視認出来るね。


「全部纏めて動きますよね?」


「うむ。流石に一気に全部を落とすのは無理じゃ。じゃがケイブバット程度であれば叩き落せるのじゃ。右側にいるものから落としていくから地面に落ちた奴の処理を任せるのじゃ。」


「了解です。」


ナレアさんの指示に頷く。

落ちて来た蝙蝠を手早く土で挟んで潰す......そのまま埋葬も兼ねていけるかな?


「ケイブバットの素材って必要だったりしますか?」


何か素材として使えるようならそのまま埋葬しちゃうのはまずいと思い、ナレアさん達に聞いてみる。


「妾は知らぬのう。」


「俺も何かに使えるって話は聞いたことがないな。」


「......素揚げかなぁ......。」


......どうやら使い道はないようだね。

全て潰して埋葬してしまいましょう。


「では、始めるのじゃ。準備は良いかの?」


「大丈夫です。」


「あぁ、こちらも大丈夫だ。」


「いつでもいいよー。」


ナレアさんが一歩踏み出し、魔力弾を放つ。

それと同時に天井にさかさまに張り付いていたケイブバットが一斉に飛び立つ。

その動きを読んでいたのか、ナレアさんの放った魔力弾は見事にケイブバットに命中して最初の一匹を地面に落とす。

同時に俺が発動した魔法で落ちて来たケイブバットを土で包み押しつぶす。

さらに続けてナレアさんが二匹のケイブバットを落としたところで、残りのケイブバットがこちらに押し寄せてきた。

ナレアさんは慌てずにさらに追加で三匹のケイブバットに魔力弾を当てる。


「左に壁を作ります!」


俺は口に出すと同時に洞窟の左側を塞ぐように泥の壁を作り出す。

突然現れた泥壁にケイブバットが四匹程突っ込んできた。

泥壁に突っ込んだケイブバットは泥を硬化させて壁の中で押しつぶす。


「壁に突っ込んだ四匹を倒しました!」


「了解じゃ!では、これで最後じゃな!」


ナレアさんが返事と同時に三匹のケイブバットを叩き落した。

すぐに俺は落ちて来たケイブバットを土に埋めて潰す。

これで終わりだね。

洞窟の左側を塞いでいた泥壁を消してケイブバットの死骸は土に埋めておく。


「見事なもんだな。ここまで一瞬で終わるとは思ってなかったぞ。」


「うん、近寄らせることなく十三匹も倒すって凄いよ!」


「ほほ、ケイの強化魔法のお陰で外す気がしなかったのじゃ。」


「飛んでるやつに当てるのは相当難しいだろうに、見事なもんだな。」


戦闘が終わり後ろに控えていたレギさん達が絶賛してくれる。

ナレアさんとの打ち合わせ通りに動くことが出来て良かったよ。


「ケイ君のあの壁も良かったよー。あれなら洞窟を崩さずに相手の動きを制限出来るから使い勝手が良さそうだね。」


「泥と思って油断して触れたら一気に硬化させて捕まえる防壁兼罠の魔法です。石壁よりも柔らかく見えるので人相手でも武器を奪ったり出来るかもしれませんね。」


「飛ばない相手なら地面を操作する方が早いんじゃないか?」


「......それもそうですね。」


落とし穴じゃなくって泥で捕らえて硬化か......うん、使い勝手は悪くなさそうだ。

まぁ、人数が少ない場合は弱体魔法が一番だけどね。

でももっと魔法の応用を色々考えた方が良さそうだな。

魔法は万能ではないとは言え、今回の対応はもう少し頭を捻ればもっと簡単になんとかなったと思うんだよね。


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