第277話 最悪の未来



母さんと過ごした洞窟もそうだったけど、今回足を踏み入れた洞窟も少し気温が高いな。

森中は少しひんやりしていたけど......暖かい分、生物も多く生息しているかもしれないね。

レギさんを先頭にして歩いているが、今の所横幅は広く、俺とナレアさんは横並びでそれぞれ左右を警戒しながら進んでいる。


「......初めてレギさんと行ったダンジョンを思い出す感じですね。」


「あぁ、そう言えばこんな感じだったか。」


初めてレギさんと行ったダンジョン。

ここまで幅広い通路は無かったけど、自然洞窟の岩と土が混ざった感じの壁が続いていた。

もう随分と昔の事のようだけど......それだけ色々なことがあったってことかな。

まぁダンジョンと違って仄かな明るさがないのと、この中で魔物を倒しても魔力に還らないって違いはあるけど。


「あれから結構経っているからな、ギルドの調査も済んでいるだろうしダンジョンは解禁されているだろうな。今はあの村もにぎやかになっているだろうよ。」


「その内顔を出してみたいですね。」


「生まれたてのダンジョンなら今は地図作りが盛んじゃろうな。規模はどのくらいなのじゃ?」


「俺達もそんなに長いことダンジョンにいて調べたわけじゃないからな。」


レギさんがこちらを振り返らずに言う。


「そうですね、僕も広場を二つ行き来したくらいですし......まぁ、それだけしか移動していない割に戦闘回数は多かった気がしますけど。」


「確かコボルトのダンジョンだよね?あれは群れの規模が大きくなりがちだからね......。群れを統率するような個体がボスだとかなり厄介かもねー。」


「確か、コボルトとコボルトリーダー、後はコボルトジェネラルがいましたね。」


「ジェネラルか......洞窟型のダンジョンで良かったのう。平原型のダンジョンだったら相当厄介だったじゃろうな。」


平原型のダンジョンでコボルトの群れか......少人数での攻略は自殺行為だな。


「随分と浅い場所でジェネラルに遭遇したからな。生まれたてのダンジョンのわりに随分と強力な魔物がいたもんだ。」


「魔物が強力と言うことは魔晶石も品質の良いものが採れやすいということじゃからな。上手く攻略が出来ればその村は相当裕福になるじゃろうな。」


ハイリスクハイリターンの見本みたいな感じだね。

遺跡よりも確実性が高いからダンジョン攻略は組織立ってやられるのだろう。

逆に遺跡はギャンブル性が高いから公的機関よりも冒険者が個人的に挑むって感じかな?

そんなことを考えながらも決して油断することなく、周囲を警戒しながら洞窟の奥に進んでいく。

まぁ、皆も雑談をしながらではあるけど、油断は誰もしていない。

俺達の話声以外に音は聞こえず静かなものだけど......この洞窟には何かいそうな気がする。

そして、俺の考えを肯定するかのようにシャルから警告が飛んできた。


『ケイ様。この先に魔物の気配があります。ファラのような大きさの魔物が多数。それとは別に少し離れていますが、大きなものが一匹。小型の魔物と先に接触することになります。』


「わかった、ありがとう。この先に小型の魔物が多数いるみたいです。後その集団とは別に大きな魔物が一体。」


「小型の魔物ってのはどのくらいの大きさだ?」


「ファラくらいだそうです。」


「......それは厄介だな。数も多いようだし一気に襲い掛かられるとまずいかもしれないな。」


レギさんが渋い顔をしている。

でもレギさんの言うことももっともだ。

ファラのサイズの魔物......ナメクジみたいにゆっくり動いてくれるならともかく、素早かったり空を飛んでいたりすると戦うのはかなりきつそうだ。


「襲われるとも限らぬが......少し作戦を考えてから進んだ方が良さそうじゃな。ファラ、気づかぬように偵察は出来るかの?」


『問題ありません。』


ナレアさんの問いかけに即答するファラ......かっこいいなぁ。

すぐに駆け出していくファラを見送って俺達は話を続ける。


「ファラが偵察から戻ればどう動くかを決められるじゃろう。しかし洞窟でファラ程度の大きさの魔物というと......虫系かのう?」


「......。」


ナレアさんがこちらをちらりと見ながら言う。

む、虫系かぁ......。


「ファラが戻ってきたら火を放ってはどうでしょうか?」


「......こんな洞窟で火を放ったらこっちも死ぬぞ。」


俺の提案に半眼になりながらレギさんが返してくる。

わかってますけどぉ......。


「まぁだが、真面目な話。ファラくらいの大きさの魔物となると俺の武器だと厳しいな。」


そう言って手に持っていた斧を背中に戻したレギさんは、腰に差している予備武器の剣を抜く。

街中や狭い場所で使う予備の武器だけど......手のひらサイズの魔物に向かって振るうにはやはり大きすぎるだろう。


「小型の魔物ならケイとリィリが前衛を勤めるのがいいじゃろう。」


至極真面目な表情でナレアさんが言う。

他意はありませんって顔をしているが......かなりの高確率でこれは嫌がらせだ。

しかし正しいことを言っているのでノーとは言えない。


「まぁ......そうなりますよね......。」


「うーん、昆虫系か......いけなくはないけど......うーんどうしようかなぁ。」


......リィリさんが何やら不穏なことを呟いている気がする。

お願いします。

どうか哺乳類系......最悪、爬虫類系か両生類系でも我慢するので、お願いだからファラ......その辺りを発見して来てください。

いや、ファラにお願いしても意味はないんだけどさ......。

でもとりあえず節足動物系は勘弁してください。

百歩譲って、この際戦うことは受け入れましょう。

でも食す未来はノー!

断じてノー!

......その未来回避の為には......それ系の魔物だった場合、原型が残らないような感じにしてしまえばいいのでは?

飛ばない系なら落とし穴に落として地中奥深くで潰す。

問題は......翅系の奴だった場合だけど......飛び回る昆虫に石弾とか当てる自信はない。

風系の大規模な攻撃は......洞窟でやれば生き埋めになりかねないし......雷も使い勝手が悪い。

というか電撃は放電するか雷を落とすかくらいしか出来なくて、もう少し電気というものについて勉強しておけばよかったとかなり後悔している......。

まぁ、無い物ねだりをしていても仕方ない。

飛ぶ魔物相手ってどのくらいの風で飛べなくなるものなのだろうか?

......いや、やっぱり崩落が怖いな......崩落しない様に洞窟自体を補強してみるかな?


「ナレアさん、相手が飛んでいた場合......何かいい対処法ってありませんかね?」


一人で考えていても堂々巡りになるし、ナレアさんにアドバイスを求めることにした。


「ふむ、この洞窟内での戦闘ということじゃな?」


「はい。」


「そうじゃな......流石に妾も昆虫系をアレするのは流石に少しな......じゃから手を貸すのはやぶさかではないのじゃ。」


若干声を潜めた感じのナレアさんが協力を申し出てくれる。

流石にナレアさんも食すのは避けたいらしい、食べると言う表現すら避けたしな。


「風に砂を混ぜると言う手もあるが......狭所では使いにくいのう。」


「ナレアさんの魔力弾はどうですか?」


「威力を絞って速度を上げれば恐らく当てられるじゃろうが......倒すまではいかぬのじゃ。下手したらいい具合に撃ち落としてしまう可能性が......。」


それはまずい......いや、悪くないか?


「撃ち落とせるかどうかは分からないですよね?」


「まぁ、まだ相手の情報が無いからのう。じゃが、ケイの強化魔法のお陰で魔力弾を当てることは問題ないのじゃ。多少素早かったり変則的な動きであっても、ファラ程度の大きさであれば確実に当てられるじゃろう。」


「じゃぁナレアさんが魔力弾で撃ち落とす、もしくは動きを鈍らせた所を僕が岩を使って潰します。」


「なるほど、遠距離の連携じゃな。いきなり合わせるのは難しいと思うが、出来るかの?」


「石弾ではなくって......こう、挟んで潰す的な感じにやろうと思います。ナレアさんが一瞬でも相手の自由を奪ってくれればやれると思います。」


「なるほど、それならばなんとかなりそうじゃな。では相手が飛ぶ場合はそのように処理をするかの。ではそれ以外の相手は......。」


俺とナレアさんで上手く処理する方法を相談していく。

最悪の未来を回避する為に、俺達は未だかつてない程真剣に打ち合わせをしていた。


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