第118話 一夜明けて



昨夜、神殿と街で捕らえたすべての賊を引き渡した。

取り調べは王国が行ってくれるのだけど......人道的なものではないのだろうな......。

あまりそのことを考えると気が滅入ってくるので考えないようにする。

龍王国からすればこれは許されないことだろう。

神殿の魔道具を狙ったのだ。

その存在は巫女か歴代の王様しか知らない筈なのだ。

漏れるはずがないことが漏れている。

そういったことも徹底的に洗うのだろうが......実働部隊が知っていることなんてたかが知れているだろう。

裏にいる黒幕を吐かせることが出来れば御の字だとは思うが。

あの指揮官の持っていた魔道具の対となるものを持っていた相手を見つけることが出来ればいいのだけれど......ナレアさんが言うには神殿から街までぐらいの距離であれば効果が届くらしい。

しかしファラの配下でも怪しい動きをするものは見つけられなかった。

よっぽど擬態の上手い相手なのか......そもそも見ていなかった......それはあり得ないか。

その相手が分かれば、実行部隊よりもいい情報が取れそうだけどな......そいつが黒幕っていう可能性も十分あるだろう。

とは言えない物ねだりをしても仕方がない、ここから先は龍王国の人達に頑張ってもらう事になっているしね。

俺とナレアさんは神殿の警備を一先ず止めて街に戻ってきている。

昨夜襲撃があったことを受け今は森の周りを近衛が厳戒態勢で守ってくれている。

少なくともクレイドラゴンさんとヘネイさんが連絡を取れるようになるまではこの体制でいくつもりらしいが......人手が足りていないと言っていたけど大丈夫なのだろうか?

勿論、俺達も神殿で警備をしなくてもよくなったとは考えていない。

だが疲労も溜まってきているし一度ゆっくり休ませてもらう事になり、俺たちは昼過ぎまで宿で爆睡していたのだ。

勿論、レギさん達も街の方で頑張ってもらっていた為、同じくらい寝ていたようだ。

そんな訳で、今やっと全員が目を覚まして一階の食堂に集まった所だ。


「みんな、おはよー。私が一番最後かー。」


「おはようございます、リィリさん。」


「おはようなのじゃ、リィリ。」


「まぁ、欠片も早くはないがな。もう昼過ぎだ。夜寝られないんじゃないか?」


昼過ぎまで寝ていた俺達だが、朝まで賊の引き渡しや情報の引継ぎなんかをしていたのだ。

恐らく四時間も寝ていないのではないかと思う。

レギさんやリィリさんは大丈夫そうだが、ナレアさんはまだ疲労が見える。


「それは大丈夫じゃないですか?昼過ぎまで寝ていたと言っても完全に日が昇ってから寝た訳ですし、僕は今からでも寝られると思いますよ。」


「そうだねー特にケイ君とナレアちゃんは神殿でずっと警備しながらだったわけだし、かなり疲れてるでしょう?もう少し休んでおいたほうがいいんじゃない?」


リィリさんがこちらを気遣ってくれる。

まぁ神殿にはちゃんとした寝具もなかったし、昨日まで適当な感じでしか寝ていないから疲労は結構ある。

一応回復魔法で疲労回復もしているのだが、精神的な疲労はやっぱり残るのだ。


「ほほ、心配には及ばないのじゃ。神殿でもしっかり休んでいたからのう。ケイのぬくもりを感じつつ休ませてもらっていたのじゃ。」


「うわー、ケイ君やらしいー。」


何で俺なんですかね......。

既にこちらを労わってくれていたリィリさんはどこにもいない。


「いや、警備しているのに二人同時に休むわけないじゃないですか。」


「そこは、シャルちゃんとマナスちゃんがいるじゃない。」


まぁ確かにあの二人に任せておけば俺一人でやるよりも警備は完璧だろうけどさ......。


「そう言えば昨日はマナスが大活躍だったな。」


珍しくレギさんが俺の味方をするように話題を変えてくれる。

いつもはこういう話題になったら俺を攻撃する側に回るか無言になるかの二択なのに。


「そうだねーみんなの所に分かれてタイミングとかを教えてくれたんだよね。」


「妾達の所では更に賊を倒しておったぞ。」


俺の肩の上でマナスが弾む。

心なしか胸を張っている様な......いやどこが胸かって聞かれると困るんだけど、雰囲気的に......。


「マナスに上から奇襲されるとちょっと対処できないよな......突然顔を覆われたら一気にパニックになるぜ。」


「そうだねぇ......まぁマナスちゃんに限らず、ケイ君の所の子達はどの子にも勝てる気がしないけどね。」


「そうですね......僕も......鬼ごっこですら勝てたことがありませんね......グルフ以外。」


また今度みんなで鬼ごっこでもするかな?

ナレアさんはやったことないし、今ならファラもいるし丁度いいかもしれない。

依頼が落ち着いたらみんなでやってみよう。


「ところで、今日はどうするんだ?巫女さんの所に行かなくていいのか?」


「そうじゃな......恐らく昨日の今日であやつも大忙しじゃと思うが......一度顔を出しておいた方がいいじゃろうな。」


「では、僕も一緒に行きます。」


「うむ、会えるかどうかわからぬが。来てくれると助かるのじゃ。神殿の警備についても話さんといかんしのう。」


俺とナレアさんは神殿での防衛だったからヘネイさんも色々と気にしているはずだ。

一応報告はしているけど、ヘネイさんにしか伝えることが出来ない内容もあるしね。

魔道具の事とか、聖域の事とか。

まぁ問題はなかったことだけは伝えてあるけど。


「じゃぁ、俺たちはギルドの方にいくか。昨日の件で何か情報が入っているかもしれないしな。」


「スラムの方の話はギルドの情報が早そうだしね。了解だよ。」


「恐らく、魔道具の片割れを持った奴が最低でもあと一人いるはずじゃ。警戒は怠らぬようにして欲しいのじゃ。」


「了解だ。」


「うん、そっちも気を付けてね。」


レギさん達は冒険者ギルドに、俺たちはヘネイさんの所に行くことにした。

ちょっとヘネイさんの所に行く二人が疲労で注意力が落ちているかもしれないけれど......頼れる子達もいるので、申し訳ないけど頼りにさせてもらおう。




ヘネイさんの家に向かう途中の屋台で軽食を購入して食べながら歩いていたのだが、ふと思い出したことがある。


「そういえば、リィリさんがご飯の事を言わなかったのは珍しいですね。」


「問題なさそうに見えて、リィリも疲れていたのじゃろうな。まぁ今頃レギ殿を齧っておるかもしれぬが。」


「レギさんはあまりおいしそうには見えないですね。」


「リィリの好みであることは間違いないな。」


「リィリさんのそれは、そういうやつじゃないような......?」


食材として好きとか......そんな猟奇的な......。

というかレギさんとリィリさんってあのダンジョン以降何もないのだろうか......?


「まぁケイが冗談でもそんなこと言えば......骨折くらいで済めばいいのう。」


「言うつもりはないですけど......あれ?あそこにいるのはクルストさんかな?」


見覚えのある後ろ姿が見えたので足を速めて追いつく。


「クルストさん。仕事終わりですか?」


「お、ケイじゃないっスか。そうっスよ。今街に戻ってきた所っス。」


振り返ったクルストさんはボロボロだった。


「大丈夫ですか?怪我とか......。」


「あー大丈夫っス、怪我はないっス。一晩中薬草を探して山の中でごそごそやっていたんでドロドロっスけどね。」


そう言ってクルストさんは袋に入った草を掲げる。

これが薬草なのだろう。


「なんでわざわざ夜に薬草採取に行くのじゃ?」


「ナレアさんもいたっスか、相変わらずお美しいっス!この薬草なんスけど、夜にしか見つからないってことで真っ暗な中頑張るしかなかったんっス。」


「夜にしか......あぁ、夜蛍草じゃな。解熱剤の材料じゃな。」


「夜蛍草ですか?」


「うむ、夜になると淡く明滅するのじゃ。群生する物ではないから集めるのが大変でな。」


「そうなんスよ。あっちこち探し回ってめっちゃ疲れたっス!」


そう言って肩を落とすクルストさん、確かにかなりお疲れのようだ。


「そういえば二人も結構疲れてるみたいっスね?大丈夫っスか?」


「僕らも朝方まで色々あったもので。あまりちゃんと寝てないんですよ。」


「あぁ、そういえば今はレギさん達と別行動中なんスっけ?前情報交換を兼ねて飯食った時に聞いたっス。」


「僕も参加したかったのですけどね、タイミングが悪くて。」


「まぁまだ機会はあるっスよ。もうしばらくは俺も王都にいるっス。」


「じゃぁその時を楽しみにしときます。」


「あ、その時はナレアさんも是非!というか今度二人でデートでもどうっスか?」


クルストさんがナレアさんをデートに誘っている。

なるほど、クルストさんはナレアさんみたいな方が好みなのか......いや、リィリさんの事も誘っていたから微妙だな......。

二人とも綺麗......ナレアさんは可愛い感じでリィリさんとはちょっとタイプが違う。


「ほほ、嬉しい申し出じゃが妾は既に身も心もケイに捧げておるのじゃ。」


そんな覚えはないですね......。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る