第223話 麺料理



「そういえば、傭兵ギルドって言うのは無いのですかね?」


領都をぶらぶらしながら冒険者ギルドの事をレギさん達と話していたのだが、ふと傭兵について気になったので口に出した。


「西方には一応あるがな、こっちでは個人契約って前言っていたな。傭兵団も直接契約って言っていたし、ギルドはないんじゃないか?」


「こちらは戦争中ですし、傭兵をやっている人は多そうですよね。」


「まぁ西方よりは多いだろうな。」


「西方の傭兵ギルドってどんな感じなのですか?」


「そうだな......傭兵は対人間って感じで雇われることが多いな。盗賊の盗伐や警備、護衛なんかは冒険者より傭兵に頼むことも少なくない。まぁ......冒険者ギルドと傭兵ギルドは......あまり仲がいいとは言い難いな。」


「軽く聞いただけでも仕事が競合していますしねぇ......。」


仕事の取り合い......のような物もあるかも知れない。

というか、別に傭兵だからダンジョンや遺跡に行ってはいけないってこともないだろうし......そう考えると呼び方が違うだけでやることはほぼ一緒だ。

先程レギさんが傭兵は対人間って言っていたけど、別に冒険者ギルドに依頼としてそういう物がないわけじゃないしな......。

呼び方が違うだけなのではって感じがするけど......。

多分何かが違うのだろうな。


「まぁ、西方では傭兵はあまり多くは無いからな。そこまでギスギスした間柄じゃないぜ?」


「でも喧嘩になることは多いよねぇ。」


リィリさんが屋台の方を凝視しながら物騒なことを言う。


「そうなのですか?」


「うん。昔は都市国家にも傭兵がそこそこ護衛の仕事とかで来てたんだけど......酒場とかでよく冒険者の事を穴掘り屋って言って喧嘩になってるのをよく見た気がするよ。」


「あぁ、あの頃は北の方がキナ臭かったからな。傭兵も比較的多かったんだ。」


「なるほど......ところで穴掘り屋というのは?」


「ダンジョンとか遺跡とか......穴に潜っている印象が強かったんだろうね。ダンジョンは開けた場所も多いけど、遺跡は殆ど埋まってるものが多いからねぇ。」


それで穴掘りか......。


「冒険者は冒険者で傭兵の事を劣化版って言っていたけどな。」


......冒険者の方が酷いこと言っている気がするな。

劣化版って......冒険者の劣化版って意味でしょ......?


「そんな感じで酒場とかで顔を合わせるとかなり高確率で喧嘩が起こっていたんだよね。」


「それでギスギスしていたわけじゃないって言えるのですか?」


「まぁ......じゃれ合いみたいなもんだな。俺としては護衛として街に来ているにも拘らず、その最中に喧嘩をすることが信じられなかったが......血の気の多い奴らだと思って遠巻きにしていたな。」


「そんなじゃれ合いは遠慮したいですね......。」


流血するようなじゃれ合いは全力でお断りしたい。


「傭兵連中は東の方に流れて行ったって話も聞いたが......最近は向こうで傭兵を見ることは殆どなくなったな。」


「へぇ。まぁ仕事が無ければやめるか移動するかしますよね。でもギルドは東方にこなかったのですね。」


稼げそうなのにな。


「まぁこっちは情勢的に国を跨いだ組織っていうのは活動しにくいからな。西方の商人ギルドも殆ど手を出していないようだしな。輸出入はあるみたいだが......支部とかは置いてないようだな。」


「本当にギルドがないと色々不便ですね。」


何度このセリフを言っただろうか?

そのくらいギルドが無いことの不便さを感じている。

俺が行ったことのあるギルドと言えば、冒険者に魔術師、商人ギルドだ。

西方であれば大きめの街ならどのギルドもあったものだけど......。


「まぁない物をねだっても仕方ない......ひとまず武器屋にでも行ってみるか?領民がキナ臭さを感じているようなら繁盛しているだろ。」


「武器屋ですか。そういえば昔スリングショットをレギさんに進められたことありましたね。」


「あぁ、そんなこともあったな......だが、今更スリングショットはいらねぇだろ?」


「今スリングショットを下手に引いたら千切れそうですね......。」


「そもそも自分でもっと威力あるもの飛ばせるしな。っと、武器屋はこっちだ。」


レギさんが大通りから外れて路地に入る。

武器屋か......レギさんと会ったあの街くらいでしか行ったことないんだよな。

冒険者としてそこそこ仕事をこなしたけど、雑貨屋の方が行く機会は多かったな。




武器屋でレギさんが情報収集がてら買い物をした後、俺達は宿に戻りナレアさんを連れてリィリさんの案内で麺料理の美味しいお店に行ってきた。

流石リィリさんお勧めといった所だったが......リィリさんも初めて行くお店なのだからお勧めとは違うか?

まぁ、そんな感じで非常に満足度の高い食事だったのだが......何故かリィリさんは今屋台で焼き鳥を買っている。

あれだけ食べてもリィリさんは太る様子がない......って言うかリィリさんって太るのかな?


「んー?ケイ君、何か失礼なこと考えてるよね?」


屋台のおじさんと話していたはずのリィリさんが振り返りながら俺の事を軽く睨む。

表情を読む練習をノーラちゃんが頑張っていたけど......最終的に他の人と話し、背中を向けていても相手の考えが分かるようになるみたいだね......。


「そ、そんなことはにゃいです。」


「これ以上ないくらい動揺しておるのじゃ。」


ナレアさんが追撃を仕掛けてくる。

これはあれだ、リィリさん向けの話題を持ってくるのが吉だ


「あー、麺料理と言えばー。」


「あからさまに話題を変えようとしておるのじゃ。」


「......麺料理と言えば?」


話題を変えようとしている意図はバレたが料理の話題だったおかげで、若干憮然とした表情ながらもリィリさんが話に乗ってくれた。

その手には屋台手で買った焼き鳥が握られている。


「僕が好きな麺料理がありまして......ラーメンって言うのですけどね?」


「聞いたことが無い料理だね......。」


リィリさんの機嫌が一気に上向きになる。


「色々な食材でだしを取ったスープに茹でた麵を浸けて食べるのですが......麺にスープが絡んで口に含むとスープの旨みと麺の食感、一口ごとに様々な風味を感じられる一品です。」


「......。」


「また、スープも様々な種類がある上に、同じだしベースのスープであってもお店ごとに違った味を楽しめるという......まさに千変万化の料理と言えます。」


「......。」


「あっさりしたものからこってりしたものまであり、僕がいた所では老若男女問わず人気があった料理ですね。残念ながらこっちで見たことはありませんが......。」


「......こっちって言うのは東方って意味じゃないよね?」


リィリさんが真剣な表情でこちらを見てくる。


「......もっと広義な意味です。」


「......。」


リィリさんの目が険しくなってくる。


「麺があればなんちゃってラーメンくらいなら作れるかもしれませんが......醤油が欲しいですね。」


「醤油?」


「大豆から作る調味料なのですが......。」


「あぁ、黒いさらさらしたやつだ。見たことあるよ。」


む、醤油があるのか......。


「魔道国で作られておるのう。東方で手に入れるのは多分難しいじゃろうが......龍王国まで戻れば商人ギルドで採り寄せられると思うのじゃ。」


リィリさんの視線が東へと向けられる。

今にも東へ向かいそうな表情を見せるが......一瞬歯を食いしばり、視線を焼き鳥に向ける。

ノーラちゃん達の事を思って願望を口にすることも堪えたって感じかな?

そんなリィリさんが一瞬で焼き鳥を焼失させる瞬間を目撃した所で不意にファラの声が聞こえて来た。


『ケイ様、お話し中の所すみません。アザル兵士長に動きがありました。』


ここから見える位置には居ないみたいだけど、そう遠くない所にいるはずだ。

しかし、困った。

俺は念話は出来ないからファラに返事が出来ない......あ、シャルに中継してもらえばいいのか。


「シャル、ファラに続きを聞かせて欲しいって伝えてくれる?」


『承知いたしました。』


肩にいたシャルにお願いしたらすぐにファラが続きを話してくれる。


『カザン様とノーラ様がセンザにいる事に気付いたようです。』


っ!?

カザン君達の事がバレた!?

まずい......!

俺がレギさん達に視線を向けるとレギさん達も表情を引き締めてこちらを見る。


「急いで宿に戻りましょう。」


「おう。」


俺達は不自然にならない程度に急ぎ宿へと足を向けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る