第166話 ゾンビなのか?



『ケイの記憶を見ていたのでスマートフォンが危険ではないことは分かっていたのですが......一応筋として応龍に話を通しておいた方がいいだろうと考えました。ケイには苦労を掛けましたが、このことは知らせずに応龍の所に使いに行ってもらいました。ごめんなさい、ケイ。』


母さんが申し訳なさそうに謝ってくるけど......正直謝られるようなことは一つもないと思う。


「いえ、気にしないでください。異物である僕の為に色々と母さんが手を尽くしてくれたことは理解しています。過去にどんなことがあったかも聞きましたし......慎重にことを進めるのは当然だと思います。この世界に来て死ぬしかなかった僕を助けてくださり、様々な知識や技術、魔法を与えてくれました。本当に感謝しています。」


俺がそう言うと母さんは俺の頬に顔を摺り寄せる。

俺は母さんを軽く抱きしめると疑問に思ったことを聞いてみる。


「そう言えば母さん、僕のスマホがこの世界に来たのは四千年前ですよね?でも僕が来たのは三年くらい前のことで......僕以外の召喚されたものは全て四千年前にこの世界に来ているのだとしたら、随分と時間に開きがある気がしますが......それとも鳳凰様の召喚とは別に最近召喚魔法が行使されたということでしょうか?」


『いえ、鳳凰が消滅したことにより召喚魔法はこの世界から失われています。なのでケイをこの世界に連れてきたのは鳳凰の召喚魔法で間違いないと思います。この世界に出現するまでの時間に開きがある理由として考えられる要因は二つ、一つ目はケイの体から離れたスマートフォンがこの世界に来た瞬間に空間を固定したためケイがこちらの世界に来ることが出来なくなった。それでも召喚は行われていたため、場所も時間もずれてしまった。』


俺がこの世界に来た場所は死にかけていたし流石に覚えていないけど......おそらくこの場所ではなかったのだろう。

しかし......時間だ空間だってのはちょっと所じゃなく俺の手には余る話だ......。

そのずれに関しては......そんなものなのだろうか?くらいしか思えない。


『二つ目は......魔神による干渉です。ケイがこの世界に来た時その半身は魔人の魔力に侵されていました。鳳凰の魔法に対し何らかの介入をしたのか、妨害しようとしたのかは分かりませんが......その結果としてケイがこの世界にたどり着く時間がずれたのではないかと。』


「......この世界に来た直後、身体の左側が真っ黒だったのは魔神のせいですか?」


『えぇ、あの時ケイの体を黒く染め上げていたのは魔神の魔力です。私も懸命に治療を続けましたが完治と呼べるくらいまでに身体が回復したのは一年程時間が掛かりました。ただの召喚魔法でこの世界に呼ばれたのであったのならケイは死ぬこともなかったでしょう。』


あれめちゃくちゃ痛かったからな......そうか、あれは魔神のせいだったのか。

俺があの頃を思い出して顔を顰めていると皆がぎょっとしたような表情でこちらを見ていた。


「どうかしましたか?」


「......なんか今ケイが死んだと聞こえたのじゃが。」


......そういえば大怪我したところを助けられたって皆には説明していたっけ。


「えぇ......死んでいたらしいです。まぁ自覚はありませんでしたが。」


「ケイ君はゾンビだったの?」


「いや、ゾンビではない......ですよね?」


自覚がないだけでゾンビだったという可能性もあるので母さんに問いかけてしまう。

リィリさんのこともあるし生きているとしか思えない状態であってもアンデッドではないとは言い切れない。

ってかアンデッドとはって気もする......リィリさんは言うまでもないし、アースさんだって見た目以外は完全に普通の人として付き合える。

これ以上死なないという意味以上の物はない気がするな。


『ケイは蘇生しているのでゾンビではないですよ。腐る暇もなく蘇生を続けましたしね。』


「蘇生し続けたって......何回も死んだってことか?」


「二百回くらい死んだらしいです。」


『二百以上ですね......正確には数えていませんが。』


「「......。」」


皆が絶句している......まぁ気持ちは分かるけど。


「まぁそれはともかくとして、魔神によって召喚魔法が干渉されたって言うのは間違いないと思います。激痛を感じたのは向こうの世界で召喚される直前か同時だったと思います。」


「......自分が死んだことをあっさり流し過ぎじゃ。」


「......んー、今こうして無事に生きている以上そこまで気になりませんよ。思い出話の一つといった所です。」


「......それはそうだね。」


ナレアさんやレギさんは納得いってなさそうだったがリィリさんは同意してくれる。


「まぁそれに意識があまりなかったですし、実感はあまりないのですよ......最初の一回だけ、死の実感はあった気もしますけど。」


『そうですね。最初のケイの死......そんな時であっても貴方は普段通りというか......私に見惚れていたりしていましたね。』


「......あぁ、なんとなく覚えています。」


あの時見た母さんの姿はとても綺麗で神々しかったな。


「例え死を目前にしてもケイ君はケイ君ってことだね。」


「話を聞く限り、リィリさんもそうだったと思いますけど。」


朗らかに笑う俺とリィリさん、それを微妙な表情で見つめるレギさんとナレアさん。

リィリさんはともかく俺の方はそこまで壮絶な過去って感じじゃないのだけどな......。


「まぁ......本人たちが気にしておらんようじゃからのう。」


「そうだな......俺たちがおかしいだろって言うようなことじゃないな。」


レギさんたちの様子が苦笑するようなものに変わる。


『ケイが命を落とすようなった切っ掛けは私達神獣にありました、その事は大変申し訳なく思っています......いえ、そもそもこの世界に強制的に連れて来たのは私達です。謝っても許されるようなことではありませんが......本当に申し訳ありません。』


よく物語なんかである勇者として召喚して......みたいなのとは少し違うよね。

鳳凰様がどんな条件で召喚魔法を使ったか分からないけど......俺を呼びたくて呼んだわけじゃないのは間違いないだろう。

魔神との戦いで俺を呼んだところで意味がなさすぎるもんね......。


「大丈夫です母さん。確かに母さんの魔力を使い召喚魔法を使ったのは鳳凰様でしょうが、その戦いの中で鳳凰様が僕を呼ぶ意味はありません。おそらく魔神によって邪魔をされたせいで召喚の対象が僕になってしまったとかではないですかね?」


『......それは確かにそうかもしれませんが。』


「仮に鳳凰様の召喚魔法が正しく使用されてその対象が僕だったとしても、魔力を出しただけの母さんに文句を言うなんておかしいと思います。」


車の事故に会ってガソリンスタンドの店員さんに文句を言うものじゃないかな......?


『そうでしょうか?』


「少なくとも僕はそう思いますし、母さんには感謝しかありません。」


恐らくだけど、最初に母さんが死体同然の俺を助けたのは完全なる善意からだろう。

俺の記憶を覗き見たのは魔神のような危険がないかを探るため......危険な存在であれば恐らくそのまま蘇生はしてくれなかったに違いない。

そして母さんが安全だと調べて応龍様もそれを受け入れた......もしそうでなければ俺は応龍様に殺されていたかもしれないな......。

多分母さんは召喚してしまったことと、それを今まで話さなかったことについて罪悪感を抱いているのだろうけど......。


「先ほども言いましたが事情は理解しているつもりです。だからそんなに謝らないでください。折角の里帰りですしのんびりと過ごしましょう。」


そう言って俺は母さんに笑いかける。

母さんは暫く俺の顔を見つめていたがやがて雰囲気を柔らかくして頷いた。


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