第81話 勝負になると思います?



翌日、グルフと合流して次の街に向かうことにしたのだが......。


「うーん、馬車で二、三日ですよね?今から出たら昼までに着くと思うんですけど。」


「着くだろうなぁ。」


「ナレアさんがどのくらい速く移動できるのか分からないですけど、シャル達より速いってありえますかね......?」


「ないだろうなぁ。」


「騙しているみたいで物凄く気まずいんですが。」


「向こうから持ちかけて来たんだから気にすることはねぇだろ。かなり速いってのは伝えているんだしな。」


「それはそうですけど......。」


「私としては賭けに勝った後、ケイ君がナレアちゃんに何をお願いするのかが気になるなー。」


「......別に僕がお願いする必要はないんじゃないですか?」


「ケイそれはない、それはないぜ......。」


「うん、ケイ君それは酷いよ......。」


「......。」


二人から物凄い呆れられたような目で見られた。

そんな間の抜けたこと言いましたかね......?

なんか想像の中のナレアさんも残念なものを見るような感じでこちらを見ている気がする......。

はぁ......わかりましたよ......わかっていますよ......。


「何を言ってもからかわれる未来しか見えないんですけど......。」


「気に入られているようで何よりじゃねぇか。まぁそれはさておき、とりあえず出発するとしようや。もしかしたら負けるかもしれないだろ?」


これっぽちも負けるとは思っていない様子でレギさんは出発を促してくる。

俺はシャルに乗りながらレギさんに反論する。


「シャル達が負けるとは思えませんけど......僕が何を言っても全員でからかってきますよね......こんなに次の街に行くのが憂鬱になったのは初めてですよ......。」


「旅は楽しい事ばかりじゃないってことだな。」


「凄く楽しそうに言われても......。」


レギさんもリィリさんも昨日からずっとニヤニヤしっぱなしだ。

まぁ、確かに女の人を誘うのなんて珍しいことしたけど......特に他意があったわけじゃない......よな?


「まぁいいです......それじゃぁシャル次の街までお願いね。」


『......承知いたしました。』


なんかシャルの返答に少し間があった気がするけど......何か考え事でもしてたのかな?

その日のシャルはそれはもう物凄いスピードで次の街まで駆け抜けた。

街の近くに着いた時、グルフが白目を剥いて倒れこむほどに頑張ってくれたのが印象的だった。




「当たり前だけど、ナレアちゃんは到着してないね。」


「そりゃぁ......馬車で二、三日の距離を四半日もかけずに移動してきたらな......。」


俺達はナレアさんが指定した宿屋におよそ三時間程で辿り着いていた。

今までは休憩を入れながら馬車で三日かかる距離を六時間程で走っていたのが休憩なしの半分だ。

シャル頑張りすぎじゃないかな......?


「グルフが完全に力尽きてしまいましたし......シャルに少し緩めるように言ったのですが、聞こえていなかったみたいで......。」


『......。』


肩に掴まっているシャルから何かしらの念話が届いているのだが......言葉ではないのか、明確には伝わってこない。

ただ何となく機嫌が悪いような......。


『グルフはちょっと気が抜けているようですね。時間があるときに鍛えなおしておきます。』


「う、うん。お手柔らかにね?」


何故かグルフに悲劇が降りかかるようだ。

助けてあげたいけど......ちょっとシャルがぴりぴりしているので今日は逆らうのはやめておこうと思う。

今度たっぷり甘やかすから不甲斐ない俺を許して欲しい......ごめんよ、グルフ。


「ところで、ナレアさんがいつ頃到着するか分からないですけど、これからどうしますか?」


「そうだな......普段通り分かれて情報収集でいいか。宿で食事をとるのは夜でいいのか?」


「うん。ここの食事は夜に食べるよ!昼は......ちょっと中途半端な時間だね。集合せずに各自でとるほうがいいかな?」


「了解です。僕はファラがいないか確認するのと、前の街でファラが伝言で残していた龍王国で起きている問題について確認してみます。」


「俺もギルドで確認してみよう。前の街では特に何かが起きているって話は聞かなかったが......ファラはどこから情報を仕入れたんだ......?」


ギルドでさえ把握してない情報か......。

手に入れられるとすれば......権力側......騎士とか貴族とか?

少し詳しく話を聞いておいた方がいいな......一番いいのはファラに会えることなんだけど......。


「その辺も確認出来たらしておきます。それじゃぁ行ってきますね。」


「おう、気をつけてな。あまり変なところに行くんじゃないぞ。」


「いってらっしゃい、ナレアちゃんと合流するまではナンパしちゃダメだよ。」


......レギさんの子供扱いはこの際いいとして......リィリさんのは......。

物凄く虚脱感を覚えながら、ナレアさんに指定された宿を出て一先ず路地裏に向かうことにした。




「ぢゅ!」


『ケイ様、申し訳ありません。ファラは既にこの街を発ったようです。ですがネズミ達を使い私たちがこのルートで動いていることは把握しているようです。王都までの道中に必ず配下を配置しておくのでこれまで通り情報を確認して欲しいとのことです。』


「そっか......ファラ何処まで行っちゃったんだろう......。」


『王都を目指しているようですし。途中で追いつけずとも王都では合流出来ると思われます。』


「ファラは流石にシャル達ほどの速さで移動できないよね?」


『そうですね......瞬間的にはグルフと同じくらいの速度は出せると思いますが、流石に持久力が無いので街から街への移動となると時間がかかると思います。』


「やっぱりそうだよね......どこかで追いつけるといいんだけど......あ、シャル龍王国で起こっている問題を確認してもらえるかな?」


『承知いたしました。少々お待ちください。』


シャルがネズミ君に情報を確認してくれている間は手持無沙汰になるね。

ファラの所在も気になるけど、ナレアさんも今どの辺なんだろう?

こういう時、携帯が凄く欲しくなるな......。

まぁ携帯があったとしても流石にファラが使うのは無理だと思うけど......。

そういえば俺のスマホは何処に行ったんだろう?

こっちの世界に飛ばされる前はポケットに入れていたはずだけど、意識を取り戻した時にはなかったんだよな......。

左側のポケットに入れてたから......消し飛んじゃったかな......。

まぁどうせ充電が出来ないから、あったとしても何もできないと思うけど。

電気流せば動くものじゃないよね......?

太陽光で動く充電器を持っていればよかったなぁ......そもそもスマホもないけどさ。


『ケイ様、お待たせいたしました。』


「うん、大丈夫だよ、ありがとう。それで問題について分かった?」


『はい、どうやら龍王国内部で魔物による襲撃事件が急増しているようです。』


「魔物の襲撃が......?」


『はい、しかも複数種類の魔物が一つの群れのように行動しているようです。』


「複数の種類の魔物の群れ......ダンジョン以外ではあまりないって言ってたよね?」


『そうですね。共生関係にある様なもの以外ではほぼ単一の種類の魔物で群れは構成されます。』


「だよね......?なんか最近こんな話を聞いたような......。」


『あの村に来た騎士が似たような質問をしていたかと......。』


「あぁ、あの時か......ワイアードさんはこの事を知っていたから他の魔物がいなかったか確認していたのかな......?」


『その可能性が考えられますね。しかし、そうすると国がこの問題を隠蔽しているという事でしょうか?』


「冒険者ギルドが把握していないってことはそうなのかな......?もしくはまだ情報が回り切っていないとか......ワイアードさんが知っていたのは本人がその襲撃の現場に遭遇したからって可能性もあるね。」


『現在ファラが把握している襲撃は五回、全て龍王国の南方で起きているようです。ただファラの考えでは他の地域でも魔物の襲撃が起きている可能性が高いとのことです。』


「今いるのが南側だからね......情報が出回っていないってことは比較的最近起こりだしたってことかな......。」


『そうかもしれません。ファラは引き続きこの件に関しても情報を集めるとのことです。』


「うん、分かった。ネズミ君、もしファラに連絡がつくようだったら決して無理はしないようにって伝えてもらえるかな?」


「ぢゅ!」


ネズミ君は了解と言うように鳴くと路地の向こうに消えていった。

なんとなくだけどファラに今の言葉はちゃんと伝わる気がする。


「まだレギさん達は戻ってこないと思うけど一度宿に戻ろう。少し情報を整理したい。」


『承知いたしました。他にもファラが集めた情報があるので宿でお話しいたします。』


「うん、よろしくね。明るい話題もあるといいなぁ。」


『明るい話題ですか......でしたら......。』


シャルと雑談をしながら宿へと引き返す。

そこまで離れていないので十分もあれば戻れるかな?

適当に屋台で軽食でも買って帰ろう。

そんなことを考えながら宿に向かっていると......。


「な、な、な、何故もうこの街におるのじゃ!」


誰かの叫び声が後ろから聞こえてきた。


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