第469話 レギの想い
「......ケイ。頼みがある。」
ナレアさんの調べてくれているレストポイント......研究室から出て暫く無言だったレギさんが声を掛けてくる。
「なんでしょうか?」
「俺を、お前の眷属にしてくれないか?」
「......え?」
今......眷属になりたいって言った?
「と......突然どうしたのですか?あ、いえ、拒否するわけではありませんが。」
「前々から少し考えていたことでもあるんだが......俺はお前たちに比べてかなり弱い。」
「いえ、そんなことは......。」
ないと続けようとした俺を止める様にレギさんが手を上げる。
「まぁ、聞いてくれ。お前たちが妖猫様の神域に行く前にも似たような話をしたと思うが......戦闘能力だけでなく、様々な対応能力を考えても俺はお前たちに一歩も二歩も劣る。」
色々と言いたいことはあるけれど、まずは聞いてくれと言われている俺は黙って話を聞く。
「全く役に立たないとは言わない。それは慕ってくれているケイにも悪いからな。」
そう言って苦笑するレギさんに俺は頷く。
「ケイやナレアは言うまでも無く、リィリも基本的な能力や魔力量はお前達と大差ない。魔法は使えないが、いざとなればケイ達の作った魔道具もあるしな。」
確かにリィリさんは身体能力も魔力も並外れている。
身体能力は強化魔法がなくても人間離れしているし、魔力は一つのダンジョンの魔力をその身に宿すわけで......流石に普通の人族であるレギさんとは比較できるものではないだろう。
ナレアさんは身体能力に関してはそこまでではないけど、魔族としての魔力と魔法......それに魔道具の知識と、俺達の中で一番万能という言葉がふさわしい人だ。
正直、俺に関しては人から貰った力しか無く、偉そうに出来るところは一つも無いのだけど......レギさんからすればそれは俺の力という事になるのだろう。
「引き換え俺は、ケイの用意してくれた魔道具を使ってようやくその足元に届くか言った程度だ。本来ならその魔道具を自分で用意するくらいはするべきなんだが......ちょっと魔術は苦手でな......。」
頬を掻きながら渇いた笑いを上げるレギさん。
「......するべき努力をせずに外の力に......ケイに頼るって言うのも情けない限りだとは思う。だが、今この状況で自分の矜持を優先する程愚かでいたくはない。」
レギさんが立ち止まり俺に向き直る。
「手前勝手なことを言っているのは十分理解している。だが、それでも......リィリを助けるために俺を眷属にして欲しい。」
俺に向けて深く頭を下げるレギさん。
「分かりました......でも最後に一つだけ確認させてください。眷属になるということは今までのレギさんとは別の存在になると言っても過言ではありません。特に......その、寿命ですね。どのくらいの長さになるかは定かではありませんが、百年や二百年では済まないみたいです。」
俺がそう言うと頭を上げたレギさんがニカっと笑う。
「あぁ、ちゃんと理解している。どのくらいの長さになるかは分からないが、お前達と一緒に世界を巡り、色々な経験をするのは悪くない......いや、純粋に楽しいと思っている。それに......まぁ......なんだ?」
ここまで自分の考えをきっぱりと言って来たレギさんが急に口籠る。
何か懸念......?
いや、言いづらい事がある感じだろうか?
「レギさん?」
「あぁ、いや......すまねぇ。まぁ、そんな訳だが......どうだ?」
「えっと......僕は問題ありませんが、先程何か言いかけていませんでした?」
俺がそう言うと、レギさんは額を掌で擦りながら言いにくそうにしている。
「あー、えっと言いづらい事でしたら......。」
「い、いや......大したことじゃねぇんだ。」
レギさんが大きく息を吐いて先程までの気まずそうな表情から一変、真剣な表情に変わる。
「俺は絶対にリィリを助ける。俺の全てを掛けてもだ。」
「はい。」
リィリさんを必ず助ける......それは俺もナレアさんも最優先で考えている事だが、その想いの強さは......負けると言うつもりはないけど、やはりレギさんが一番強いと思う。
「俺はあの時......あのダンジョンを攻略した後、ヘイル達に誓ったことがある。」
「......。」
ヘイルさんとエリアさん......レギさんの昔の仲間に。
「一つは......まぁ、今はいい。あの時、リィリが死を受け入れて......く、はは......俺も覚悟を決めて......二人してあっさりと裏切られた時......。」
裏切られた......まぁ、確かに二人の覚悟は裏切られたのだろう。
勿論、いい意味でだけど。
「俺の誓いは単純だ。二度もあいつを死なせはしない。二度と、あいつを手放したりはしない。あいつを二度も失うつもりはない。」
「......。」
二度目......。
あの、キオルの言葉を信じるのであれば......アイツによってもたらされた奇跡であろうと、一度は完全に失い、二度目は覚悟した上でそれを乗り越えて手にした奇跡。
「ケイ......俺は奇跡を十分味わった。だからもう奇跡を願わない。だが......奇跡を頼らず、この先に進むためには今の俺では力不足だ。」
レギさんが片膝をついて再び俺に頭を下げる。
「手前勝手な理由だ。俺はただ、あいつを、リィリを助けたい。そして、寿命を無くしてしまったアイツの傍に出来る限り長く居てやりたいと思っている。シャル達から、いや、ケイにとっても、こんな考えは侮辱と言われても仕方ないかもしれない......それでも、俺は力が欲しい。リィリを助ける為の力が、あいつの傍に居てやれるだけの時間が欲しい。」
その想いを吐露してくれるレギさん。
初めから断るつもりはなかったけれど、ここまで真摯な想いを聞かされて断る事なんて出来ない。
「レギさん。僕はその想いを侮辱だなんて感じません。寿命に関してだけ、一生の事ですし気にしていましたが......確かに、リィリさんの事もあるので寧ろその方が良さそうですね。レギさん、僕の眷属になって下さい。そして、一緒にリィリさんを助け出しましょう。」
「......ありがとう、ケイ。」
俺は膝をついているレギさんに手を差し出す。
「とりあえず、立ってください。僕はそんな傅かれるような人間じゃありませんよ。」
俺の手を掴みながらレギさんが立ち上がる。
「シャル達の様子を見る限り......それに、神子であるケイは傅かれるような存在じゃないか?」
「シャル達の方が特殊ですよ。眷属になったからと言って今までと態度を変えないでくださいね?その辺約束してくれないと、やっぱり眷属にする話を無かったことにしますよ?」
俺がそう言うと、レギさんが苦笑する。
「あぁ、約束する。俺は今まで通り、ケイと接していく。これから先もずっとな。」
「ありがとうございます。」
レギさんと握手をした状態のまま俺は笑うが......レギさんは若干首を傾げている。
「あーいつまで手を握っているんだ?」
「あはは、すみません。このままレギさんを眷属にしようと思います。」
......流石にナレアさんの時みたいに、レギさんを抱きしめるのはノーだ。
断固拒否したい、握手で十分だろう。
「なるほど、そういうことか。よろしく頼む。」
「はい。これから僕の魔力をレギさんに流し込みます。恐らく結構きついと思うので......座った方が良いかもしれませんね。」
立ったまま握手をしていたけど、ナレアさんの時みたいに俺が支える......よりも座り込んでやった方が多分、いや、絶対いいはずだ。
俺の提案を受けてレギさんが通路に座り込む。
「マナス、悪いけど暫く俺達の事を守ってくれるかな?」
魔物が全然現れないから忘れがちだけど、一応ここはダンジョンだ。
突然襲撃されてもおかしくはない。
マナスが俺の肩から飛び降りて警戒態勢に入ってくれる。
これでレギさんに魔力を流し込んでいる最中に突然襲われることはないだろう。
俺はレギさんの正面に座って手を差し出す。
「ナレアさんの時の事を思うに、恐らく痛みはないと思いますが、かなり苦しそうでした。もし耐えられない様な苦しさだったらすぐに教えて下さい。」
「分かった。大丈夫だ、よろしく頼む。」
「分かりました。それでは、いきます!」
レギさんの手を取り、俺は魔力をゆっくりとレギさんに流し込んでいく。
「......。」
ナレアさんの時よりも抵抗が少ない気がする。
これは......俺が慣れたというよりも......二人の魔力量の差だろうか?
ナレアさんに魔力を流し込んでいた時は、固めの粘土に指を突き入れていくような抵抗を感じたのだが、レギさんに対しては水の中に手を入れる程度の物しか感じない。
抵抗を殆ど感じなかったせいか、あっさりとレギさんの体が俺の魔力で満たされ、眷属化に成功する。
「終わりました。」
「お?確かに異物感は感じたが......苦しさは無かったな。寧ろなんか風呂に入っているような感じだったぞ?」
「もしかしたら、元々持っている魔力量の差かもしれませんね。ナレアさんはかなり苦しそうでした。」
「なるほど......魔力の少なさに感謝する日が来るとはな。」
レギさんが苦笑しながら立ち上がる。
その動作も全く問題は無さそうだ。
これで、レギさんも俺の眷属となってしまった......いや、なってくれた、かな?
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