第225話 これが手加減



「「......。」」


俺は今カザン君と二人でセンザの街を無言で歩いている。

俺達はそれぞれ食料や雑貨等を買い込み担いでいた。

ナレアさんの計画を基にアザル兵士長の部下をおびき出すためのカモフラージュとして旅の準備をしているのだけど......この荷物を馬に乗せるんだよね。

馬......馬である、馬車ではない。

計画を立てる段階で何故気づかなかったのだろう......俺は馬に乗ったことが無かったのだ。

当然だけど馬を操ることなんて出来ず......俺はナレアさん達の白い目を受けつつフロートボードを借りることになった。

隠れ蓑だなんてとんでもない......あれはいいものだ。

馬はね......生きているからね......背中に乗るくらいなら問題なかったけど......行きたい所に向かわせられないんだよね......。

シャルが馬に直接話をしたら......気絶せんばかりに震えて......いや、泡拭いて気絶していたか。

あれは可哀想なことをしてしまった......。

それはともかく、俺達は今荷物を抱えたままゆっくりと宿に向かっている。

センザの街に送り込まれたアザル兵士長の部下は三人。

距離をとって俺達を追跡しているが、その周囲はばっちりとネズミ君達に囲まれている。

カザン君とノーラちゃんに万が一のことがあってはいけないので、相当な動員数と聞いているけど......レギさんがやらなくてもネズミ君達に一斉に襲わせれば、死を偽装出来そうな気がする。

いや、相当壮絶な死に方だと思うけど......まぁネズミ君達はある意味切り札的存在だから、わざわざ相手に見せる必要は無い。

計画通りに二人は捕虜に、一人は上手いこと逃がしてアザル兵士長の所に情報を持ち帰らせる。

捕虜になる相手はレギさんが派手にぶっ飛ばしくれる。

俺の役目はわざと逃がす奴の相手と、レギさんがぶっ飛ばした相手が死なない様に回復。

......不自然にならないような戦い方をしなければならない......今回の俺の役目は不自然にならない様に演技をがんばるってのばかりだけど......まぁ相手を騙そうとしているわけだから演技がメインになるのは当然か。

ふと横をみるとカザン君が真剣な面持ちで歩いている。

フード付きのマントを羽織って、顔を隠す様にしていて歩く様は怪しいことこの上ないけど......カルナさんスタイルだとアザル兵士長の部下には気づかれないかもしれないしね......。

顔を隠しているカザン君ではあるけど、アザル兵士長の部下にはさりげなく顔を見せて気づかせてある......すごく自然にやってみせたよね。

俺も思わず素で驚いた声上げちゃったし......。

俺は今不自然じゃないかドキドキしているけど......カザン君は真剣な表情ではあるが緊張している感じはないな......。

いや、俺も緊張するのはまずい......自然に......自然に。


「ケイさん、大丈夫ですか?」


小声でカザン君が問いかけてくる。


「あはは、自然にしなきゃって考えちゃうね。」


「はは、あまり意識しない様にしたほうがいいですよ。」


「なるほど......。」


意識しない......意識しない......。

俺は意識しない様に心掛けながら宿に歩いて行った。




街を出た俺とカザン君は予定していた場所でレギさん、ノーラちゃんの二人と合流して襲撃を誘った。

ここにくる道中、偽の目的地の事やここでノーラちゃんと合流することを襲撃者にも聞こえるように話していたし仕込みは問題ない。

途中こちらを襲う素振りを見せたものの、ノーラちゃんの話をすると俺達から少し距離を開けたからね。

そして目的地でレギさん達と合流してすぐ、アザル兵士長の部下が襲い掛かってきたのだが......。


「おぉぉ!」


「っ!?」


レギさんの掛け声と共に、俺の真横を人間がものすごい勢いで飛んでいく。

強烈な一撃を受けた襲撃者が矢のような勢いで飛んでいき木の幹にぶつかる。

......え?

あれ生きているの?

一応俺の横を通った瞬間に致命傷になりそうな傷は治したけど......弱体魔法で取り押さえるまでもなく動けないと思うなぁ......。

一応弱体魔法もかけてあるけど......。

俺と相対している一人も物凄い形相で飛んで行った仲間を見ている。

相当隙だらけだけど......倒すのはまずいしな......。


「隙あり!」


俺は掛け声を出しながら相手に斬りかかる。

......わざとらしすぎただろうか?

俺の声を聞いて我に返った襲撃者が一瞬驚いた様子をみせたが、すぐに俺の事を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

いや、分かっていますよ?

わざと教えたのですよ?

っていうか戦闘中に呆けて隙を見せたお前が悪いんだからな!?

いや、台詞が臭すぎたのだろうか?

演技バレた?

表情を引き締めた襲撃者は少し武器を打ち合わせた後、後ろに下がり俺から距離をとる。

さらにレギさんの方を見て、表情を苦いものにする。

恐らく俺を倒した後、レギさんをどうやって倒すかを考えているのだろう。

まぁ......必要ないけどね。

俺も軽くレギさんの方に視線を向けると丁度レギさんと戦っていた襲撃者が止めを刺されたところだった。

いや、止めは刺していないはず......こっちに飛ばしてこないってことは致命傷ではないってことだろうし......この距離じゃ回復魔法は使えないからね。

レギさんに限ってうっかりってことは無いだろうけど......どこからどう見てもあの相手の人死んでしまっていると思う。

襲撃者も俺と同じように感じたようで舌打ちをした後、じりじりと俺から距離を取ろうとしている。

......よし、俺は顔をレギさんの方に顔を向けて叫ぶ。


「レギさん!そっち終わったならこっちを手伝ってください!こいつ結構強いです!」


俺は声を上げてレギさんに助けを求める。

この隙にしっかりと逃げてくれよ......?

レギさんは......苦笑しているな。

襲撃者のほうに顔を向けると、こちらに背を向けて走り去っていくところだった。

予定通り逃げ出してくれたみたいだね。


「ケイ!そいつを逃がすな!」


「え?あ!はい!」


見送ろうとしていた俺にレギさんから指示が飛ぶ。

そりゃそうだ、普通色々知られている相手をそのまま逃がすわけにはいかないよね。

俺は慌てて追いかける風を装って、逃げた襲撃者を追いかける。

相手は森に飛び込む直前だったのである程度追跡した後見失えばいいだろう。


「俺はこいつらを守る!絶対に逃がすなよ!」


「はい!」


走り出した俺に大音声でレギさんが声を掛けてくる。

この声量なら前を逃げる襲撃者にもばっちり聞こえた事だろう。

どのくらい追いかければいいものか......俺は森を走りながら切り上げ時について考えた。




「......何とか上手いこといきましたね。」


俺が森から出てくるとナレアさんとレギさん、カザン君が襲撃者二人の治療をしていた。

ノーラちゃんとリィリさんは......少し離れた位置でグルフと戯れているようだね。

森に逃げた最後の一人を暫く追跡した後、見失ったふりをして帰ってきたから相手も疑ってはいないはずだ。

これで彼が領都に戻ればアザル兵士長側はこちらの偽情報を信じてくれるだろう。

勿論今もネズミ君があの襲撃者を追いかけているし、領都での監視もばっちりだ。


「結構時間をかけて追跡したのじゃな。すまぬがこやつらを動け無くしてから治してくれるかの?」


「了解です。」


俺は気絶した襲撃者に近寄り弱体魔法で身動きが取れない様にしてから怪我を治療していく。

......ってかこれ本当にぼろぼろだな。

ナレアさんがある程度回復させたみたいだけど、装備や血の跡が物凄い......。

吹っ飛んできた方は軽く治療しておいたけど......二人ともよく生きていたよな......これがレギさん流の手加減だろうか......?

死ぬ寸前まで追い込んでいるみたいだけど......。

ってか回復魔法が無かったら死んでいるような......いや、死を偽装すると言う意味ではこれで完璧なのか。

......余計なこと考えていないで治してやるか。

俺は手をかざして襲撃者を治療していく。


「これがケイさんの回復魔法......みるみるうちに怪我が治っていきますね......。」


「うん。このくらいの怪我ならナレアさんでも治せるけどね。」


弱体魔法が使えないのでとりあえずの治療しかしていなかったのだろう。


「......ケイさん達と出会ってから本当に驚愕してばかりですが、今回のこれは......もう、神の御業と言われても納得できますよ。」


まぁ......確かにそうだよね......怪我に関しては病院要らずって便利とかそういうレベルの話じゃない。

神の御業って言うのもあながち間違っては無いしね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る