第186話 受けよう



「どういうことですか?ケイさん。」


散々否定しておきながらその気持ちは分かりますって言われても、何言ってんだってなりますよね......。


「カザン君のやりたいことは二つ。ノーラちゃんの安全とお父さんの想いを継ぐこと。でもさ、ノーラちゃんの安全はカザン君的には俺たちに任せたら大丈夫って考えみたいだけど......お父さんの想いを継ぐ方は、カザン君一人で達成できるの?」


「......。」


「カザン君がどう動こうとしているか分からないけど......相手は奪った権力を固めているみたいだし......かなり難しいんじゃないかな?」


「......そう、ですね。」


「勢いだけでグラニダに帰れば......いい結果にはならないと思う。その辺はどう考えているのかな?」


「......。」


うん、ノープランっぽいね。


「ケイさんは妹と二人で逃げるべきだと、父の想いを継ぐことは諦めるべきだと言うのですか?」


カザン君が悔しそうに言う。


「いや?」


「ですが!......え?」


勢いこんで声を上げようとしたカザン君が一転して呆けたような表情になる。

......イケメンさんだとそんな顔でも綺麗だな。


「両方果たせばいいじゃん?」


「いや、ですが......。」


「うん、今のカザン君一人じゃ両方を叶えることは無理だよね?だから手数を増やすことを考えてみたらどうかな?」


「......手数ですか?それって、つまり。」


「ノーラちゃんの事だけを頼まれても困るけど......二人を守るって言うのなら出来るよ。とりあえず当面の安全を確保出来たら......その後はカザン君がノーラちゃんを守っていけるでしょ?」


「昨日今日あったばかりの皆さんに、命を懸けてくれなんて言えるわけないじゃないですか。」


「じゃぁ十日なら?一月ならいいのかな?」


「いえ......そういう問題では......。」


「うん、そうだね。他人に命を懸けてくれなんて軽々しく言えることじゃないよね。でもカザン君は形振り構っている余裕はないと思うな。」


先程までとは別の苦しさを見せるカザン君。


「例え俺達がノーラちゃんの面倒を責任持って見るって約束しても、二人は離れ離れになるのは確実だよね?それに俺達が本当にノーラちゃんの事を見捨てないって保証はどこにもないよ?それこそ昨日今日の間柄の俺達を信用するよりは、ノーラちゃんの傍にいながらお父さんの想いを継ぐ方法を考えた方がいいんじゃない?」


「それは非常に困難......いえ、困難というよりも無謀ではないでしょうか?確かに、追手を一瞬にして制圧した皆さんの力は凄いと思いますし......グルフさんの圧倒的な存在感は討伐の為に軍が出動しなければならないような......強大さを感じさせられます。それでも妹......ノーラを入れてもたった六人です。とても事を成せるとは思いません。」


「一人で行こうとしていた癖に......。」


「そ、それはそうですけど......。」


俺の突っ込みにたじろぐカザン君。


「俺達にはファラがいるからね。こういう時に一番必要であろう情報、その辺は正直かなり取り放題だよ。そしてファラの集めてくれた情報を基に作戦を立てる......以前も俺達はこの方法で結構大きな事件を解決しているからね。」


正確には龍王国の事件は情報を基に解決したわけじゃないけど......ナレアさんの頑張りで解決の目途が立ったのは間違っていないし、俺達が解決したと言ってもぎりぎり嘘ではない。


「それに俺達はこれでもそれなりに荒事に慣れている。よっぽどの事がない限りグラニダに行ったとしても、ノーラちゃんの安全は約束するよ。」


「......。」


「ただ、一つだけ。俺達が引き上げ時だと判断した場合、ノーラちゃんと二人で逃げて欲しいんだ。カザン君がお父さんの想いに殉ずるということが無いように......きっとそれはご両親も望まないだろうからね。勿論二人一緒に逃げる場合はちゃんと俺達が龍王国まで送り届けるよ。」


「......何故そこまでしてくれるのでしょうか?」


「折角知り合った相手が無為に......とは言わないけど、なんであれ命を落とそうとしているのを傍観できるほど達観していないだけだよ。」


「それで領民に被害が出てもですか?」


「言い方は悪いけど......カザン君が命を懸けるだけで救えるのなら、きっとこの状況にはなっていないんじゃないかな?だからまぁ、俺達の力も使ってやれるだけやろうよ。少なくとも一人よりは遥かに出来ることは多いからね。領民の為って言うなら少しでも利用出来るものは利用しないといけないんじゃないかな?」


「それはそうなのですが......。」


「俺達を頼るのが心苦しいっていうなら依頼って形でどうかな?冒険者は依頼を受けて仕事を請け負ったりするものなんだ。気兼ねなく依頼してくれていいよ。出来ないことはちゃんと断るからね。」


俺の言葉を聞いて初めてカザン君の表情が軽くなった。

俺は終始口調が深刻にならないように心掛けていたが......内容が内容だからな......レギさんだったらもっと上手く言えたのだろうな......。


「そうですね。確かに何度か断られていますし......出来ないことは出来ないってちゃんと言ってくれそうですね。」


「うん。俺から提案出来るのはこれで全部かな。少し考えておいてくれる?」


「......ありがとうございます。ですが時間は必要ありません、ここまで畳み掛けるように話されて散々意志を砕かれましたからね。」


......やっぱり言い過ぎた気がする。


「ですが、おかげでしっかりと意志が固まった気がします。ケイさん、レギさん。お力を貸していただけますか?生きて想いを成すために。ノーラを守る為に。よろしくお願いします。」


真っ直ぐと俺達の事を見据えながらカザン君が告げてくる。


「うん、任せて。全力で手助けさせてもらうよ。」


「あぁ、カザンの依頼受けよう。」


俺とレギさんが了承するとカザン君は微笑む。

よし、初めてクライアントとのやり取りを成功させることが出来た。

真っ当な交渉ってわけじゃないけど......達成感があるな。


「ところでケイ。やり切ったって顔をしているが......仕事として受けたならまず話すべきことが抜けているようだが?」


......早速ダメ出しをされてしまった。

話すべきこと......?


「細かい条件なんかはこの際置いておくとして、とりあえずこの話を決めておかないと雇用する方も不安で仕方ないと思うぞ?」


レギさんの言葉でようやく思い出した。

確かに先に決めておかないと依頼する側の不安を煽るだけのものがあったな。


「......あぁ、ごめん、カザン君。報酬についてだけど......。」


「あ、はい。最初にお話ししたように私にはお支払い出来るものがないのですが......。」


そうだよね......最初にそう聞いていたからこそ、報酬関係の話忘れていた......と思う。


「それは聞いていたけどな。だがまぁ、ギルドを通してはいないが、依頼として受けるのならば決めとかねぇとな。」


「......成果報酬でも大丈夫でしょうか?」


「条件は?」


「では......。」


レギさんとカザン君が報酬について話を始めた。

おかしいな......途中まで俺が主導でやっていたはずなのにすっかり蚊帳の外だ。

所詮は付け焼刃と言うことだね


「報酬は、領主館の書斎にある黒土の森に関する情報の全て。これでどうでしょうか?」


それを聞いた瞬間レギさんは一瞬目を丸くしていたが、やがてにやりと男臭い笑みを浮かべる。


「いい判断だ。しかし成功報酬じゃなくていいのか?」


「現状では何をもって成功とするかが決められません。なのでアザル兵士長に会って話をすることを第一目標に、それが叶ってかつ領主館の書斎が使えるようになればその時点で報酬はお渡しいたします。最終目標はこの事態を引き起こした相手を見つけ裁くところまで行きたいですね。」


「領主館はある程度状況が落ち着かないと調べられないだろうしな。思っていたよりも強かだな。」


報酬の確保がそもそも成果の先にあるからな......しかもその情報は俺達が欲しているものだから絶対にそこまで俺達も付き合う必要がある、と。

カザン君が少し強かな報酬の出し方をしてきたから、レギさんも嬉しそうなんだろうな。

まぁ、本当はファラに忍び込んでもらって調べて来てもらおうと思っていたけど......正面から堂々と調べられるのは悪くない提案だね。

カザン君にさっきまでの悲壮ともいえる決意の雰囲気はなく、穏やかながら静かな決意を感じさせる雰囲気だ。

随分といい雰囲気になった気がするね。


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