第242話 手分け
カザン君へのとりあえずの報告が終わり、少しげっそりした俺は昼まで休むことにした。
俺の迂闊な発言の後、カザン君には早々に逃げ切られ、ナレアさんには責め立てられた。
リィリさんは始めの内はニヤニヤししながら見ていたのだが、ナレアさんが泣き真似を始めた辺りで参戦してきて俺を責め始めた。
当然のごとくレギさんは窓の外から意地でも視線を外さず、カザン君は遠方の地にいる上に魔道具越しなので標的から逸れた瞬間からだんまりを決め込んだ。
味方戦力ゼロ......敵方余剰戦力アリ......ノーラちゃんがいなくて本当に良かったと思わないでもないけど......とにかく徹夜明けにさらに心身ともにごりごり削られることになるとは思わなかった。
いや、自業自得なのだろうけどね......。
俺が目を覚まし体を起こすとベッドの上にいたシャルが近づいてくる。
『おはようございます、ケイ様。お休みは足りましたでしょうか?』
「おはよう、シャル。少し寝足りない気もするけど......これ以上寝たら夜寝られなさそうだからね。もう起きるよ。」
『承知いたしました。先ほど......レギが外に出かけたようです。他の二人はまだ寝ているようですね。』
シャルが壁の方を見ながら教えてくれる。
その視線の先にはナレアさん達の部屋があったはずだ。
レギさんは出かけていて、ナレアさん達はまだ夢の中か。
太陽は真上ってところか......昼ご飯時って感じだけど軽食とは言え寝る直前に食べたからかあまりお腹は捨てないな。
まぁ一、二時間程したらお腹が空いてくるだろうけど。
......予定では俺達はこのまま領都で待機となっている。
カザン君達の予定は聞いていないが、アザル兵士長を捕まえた事だしコルキス卿の事もある。
近日中には動き始めるだろう。
ここから先俺達が力になれることは殆どない......せめて護衛くらいはと思わないでもないけど、護衛となるとカザン君の傍にいる事になる。
そうなると、余所者の俺達を傍に置くのは......って話になってしまう。
まぁ......カザン君とノーラちゃんの所にはマナスの分体がいるし、ネズミ君達が付近を見張っている。
おかしな空気を感じたらすぐに俺達に連絡が来るようになっているので大丈夫だろうけど......。
『ケイ様。ナレア達が起床したようです。』
「......ありがとう、シャル。」
教えてくれるのは嬉しいのだけど......なんか覗きでもしているような気がしてきたな。
とりあえず着替えて、下の食堂にいればナレアさん達も下りてくるかな?
俺は手早く準備を整えると、肩にシャルとマナスを乗せてから部屋を出る。
食事はまだいいのでとりあえず飲み物でも頼んでおくかな。
「おはようございます。ナレアさん、リィリさん。」
食堂でお茶を飲みながら二人が下りてくるのを待つこと暫く。
準備を整えた二人が食堂に降りて来た。
「うむ、おはようなのじゃ。」
「おはよー。ケイ君早いね。」
「僕もついさっき起きた所ですよ。レギさんはもう出かけたみたいですが。」
「まぁ、レギにぃはじっとしていると死ぬ呪いとかに掛かってるみたいだからねぇ。」
なるほど......確かにそうかもしれないな。
「あはは、レギさんを見ていると信じてしまいそうですね。」
二人が俺の座っている席に近づいてくるが......ふと気づいたことがある。
「お二人ともどこかへ出るのですか?外に出るような装いですが。」
そう、二人とも外に出る......というか旅装といった感じなのだ。
「うむ、妾とリィリは移動しようかと思ってな。」
「移動と言うと......センザですか?」
「うむ。」
声を潜めて聞く俺に頷いたナレアさんが周囲に目を配る。
「上で聞きましょうか。」
「そうじゃな。」
俺は残っていたお茶を飲み干してから席を立つ。
軽い様子で階段を上っていくリィリさんの後ろ姿を見て、そう深刻な内容ではなさそうだと感じていた。
「すまぬのう。寛いでいた所をわざわざ来てもらって。」
「ありがとう、ケイ君。」
「いえ、カザン君達の名前を誰が聞いているかもしれない場所で出すわけには行きませんからね。それで、お二人がセンザに向かいたいってことは、ノーラちゃんの事ですか?」
「うん、カザン君の護衛は立場上難しいけど......ノーラちゃんやレーアさんの護衛ならね。」
「あの二人は表立って外に出るわけではないからのう。それにカザン達ほど警備を厚くはできないじゃろうしな。妾達が守れば万が一の事態にも対応できるじゃろう。」
確かに、檻の構成員がアザル兵士長以外にもいないとは言い切れない。
ノーラちゃんの事はマナスの分体が守っているとは言え、数で押された場合、マナス本体であればいざ知らず分体だけでは守り切れない可能性もある。
そんな時にナレアさん達が護衛として傍にいれば問題なく対処出来るだろう。
「そうですね。ノーラちゃん達の事はカザン君やセラン卿も心配でしょうし、ナレアさん達が行ってあげた方がいいかもしれませんね。領都には僕達が残っていますので、どうぞ気にせずにノーラちゃん達の所に行ってきてください。」
「うむ、感謝するのじゃ。それと......すまぬがグルフを借りてもいいかのう?」
「えぇ、勿論です。グルフもノーラちゃんの為なら頑張ってくれると思います。まぁ、街には入ることは出来ませんが。」
今センザ付近でグルフの姿が目撃されるようなことがあったら、盛大にカザン君達の足を引っ張ることになるだろう。
「ほほ、領都までノーラを連れてくる時には張り切ってもらうとするのじゃ。」
「その恰好から見るに、すぐに出られますよね?レギさんには僕から伝えておけばいいですか?」
「一応寝る前に伝えてはあるから、出発した事だけ伝えておいてもらえるかな?」
「了解しました。」
なるほど......カザン君への報告の後、俺の部屋から自分たちの部屋に戻るときに軽く説明したとかかな?
「では行ってくるのじゃ。すまぬが領都の事は頼むのじゃ。」
「はい。気を付けてください。ノーラちゃん達の事はよろしくお願いします。領都で皆が来るのを待っていますね。」
「うむ。それと通信用の魔道具を渡しておくので用事があるときはこれで頼むのじゃ。魔道具の解析は向こうでやるので何か分かったら連絡を入れるからの。」
「了解です。よろしくお願いしますね。」
「うむ、任せるのじゃ。」
「行ってきます!」
リィリさんは元気に、ナレアさんはいつものように笑みを湛えながら部屋から出ていく。
これでノーラちゃん達は問題ないね。
俺とレギさんも領都ですることは殆ど無いけど......もしアザル兵士長達が逃げ出したりしたら忙しくなるかもだけどね。
まぁ、その場合はネズミ君の追跡を付けて泳がせるって手もあるかもしれないけど......。
「さて、俺達はどうしようか。」
『外に出られますか?』
「そうだね......宿に残っていてもやることはないし。街の雰囲気を見ておきたいかな?アザル兵士長がいなくなって一日で色々と変わったりはしないだろうけど......檻とは関係ないグラニダのアザル兵士長の部下に変化があるかもしれない。」
『承知いたしました。』
そう言ったシャルが俺の肩に登ってくる。
そう言えば最初の頃は俺の肩に乗ることにかなり抵抗があったみたいだけど......随分慣れたものだね。
反対側の肩にはマナスが飛び乗る......マナスは最初からそういうの気にしていなかったな。
俺は肩に乗った二人を一度撫でてから部屋を出る。
特に当てはないけど......フラフラしてみるかな。
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