第522話 とある冒険者の誓い
View of レギ
「一年前は......まさか自分が人間を止めるとは思わなかったな。」
「私はこうしていられるなんて思えなかったなぁ。」
「......あぁ、そうだな。」
リィリは軽く笑みを浮かべた後、傍らにいるグルフにもたれかかる。
「......だが、あの調子で頑張っていれば、いずれリィリは一人でボスを討伐出来ていたんじゃないか?」
あのダンジョンで一人戦い続け、ダンジョンの魔物を狩り尽くさんばかりに暴れていたリィリだ。
俺達がダンジョンに行かなかったとしても、そう遠くないうちに一人でボスを倒していたとしてもおかしくない。
「そうだねぇ......もう少し時間はかかったかもしれないけど、ボスは倒せていたかもしれないね。」
そう言ってリィリはスープを一口飲んだ後、言葉を続ける。
「でも......あの時レギにぃ達が......レギにぃがあそこに居なかったら。私はあのまま消えていたんじゃないかなって思うんだ。」
「......。」
「レギにぃがいたから、私はあの時想いを伝えることが出来た。でもだからこそ、未練が残っちゃったんだよね。まだ消えたくない、レギにぃと一緒に居たいって。」
「......。」
こういう時、何かを言いたいんだが何を言えばいいか分からねぇ。
リィリは俺が言葉に詰まっていることに気付いたようだが、少し笑みを浮かべた後言葉を続ける。
「本当はさ、あのダンジョンで......ヘイルにぃとエリアねぇの形見を回収出来たらそれで満足だったんだ。ダンジョンは隅々までしっかり探索して......レギにぃが無事に外に出られたことは確信してたからさ。」
「......そうか。」
やっとのことで絞り出した言葉がこれだ。
いや、ただの相槌で意味のある言葉でも何でもないな。
「シャルちゃんの推測だと......ダンジョンの魔力を大量に取り込んで、私の願いが形を成したってことだったし......私が一人で戦って目的を成し遂げていたら、多分満足してそのまま消えちゃってたと思うんだよね。」
「......どうだろうな?結局お前はダンジョンとは関係のない魔物だったわけだし、意外とそのまま残っていたんじゃないか?もしかしたら......消える前に飯が食いたいとか考えて、今と同じような体を得ていたかもしれないぞ?」
「あはは、確かにそうかもねー。スケルトンだとご飯食べられなかったしー。」
飲んでいたスープの器を地面に置いて立ち上がり、リィリが光る花畑へと向き直る。
「こんな綺麗な光景は、今まで見た事が無かった。きっとこの世界には私達が見た事のない素敵な物がたくさんあるんだと思う。」
「あぁ、間違いない。」
「今回の事でケイ君の目的は殆ど果たした感じだよね?」
リィリが振り返りながら問いかけてくる。
「あぁ、そうなるな。残っているのは......一番難しそうな元の世界への連絡だが......何か案があるみたいだったからな。」
急に話が変わったような気がするが......いや、そうでもないか。
俺達は基本的にケイの手伝いという名目で旅をしていたわけだからな。
「これから何をするのか分からないけど、まぁ退屈はしないよねぇ。」
「その心配はないだろうな。」
ケイと一緒に居れば、きっとまた色々なことに出くわすだろう事は想像に難くない。
「レギにぃは......冒険者......というか街の依頼以外にやりたいことってないの?」
「やりたい事か......あまり考えた事が無かったな。」
「レギにぃはもう少し欲を持ってもいいんじゃないかな?」
「そうは言ってもな......一番やりたかった事は終わらせちまったし、ケイの手伝いをするって言うのも一段落って感じだしな......。」
「枯れてるなぁ。」
ため息交じりにリィリは言うが......あまりそういう事は考えた事が無かったからな。
いきなり聞かれても何も思いつかない。
ならばと思い、リィリに尋ねることにする。
「そう言うリィリは、何かやりたいことがあるのか?」
「勿論!私は世界中の美味しい料理を食べるっていう目的があるからね。」
「......そうか。」
リィリらしくはあるが......中々難しい目標だろうな。
「なんか馬鹿にしてる?」
「いや、そんなことはないぞ?難しい目標だと思ってな。」
「そうかな?」
「そりゃそうだろ?仮にだが、お前が魔道国で美味しい物を探している間に東の果てで新しい料理が開発されるだろうし、お前が東に行けば魔道国で新しい店がひらかれるだろう?」
「なるほど!最高だね!」
心底嬉しそうにリィリが笑う。
人が存在する限り、リィリの目標は達成されることはないだろうが......達成されないからこそ嬉しい目標か。
目標......やりたい事、成したい事か。
「......俺は世界中を見て回りてぇな。」
「あはは、それもいいねー。ケイ君やナレアちゃんも喜びそう。」
「ナレアの遺跡探索もあるからな......ケイも恐らくその辺りを優先しそうだ。」
「そうだね。そう言えば昨日ナレアちゃんから聞いたけど、とりあえず一回天狼様の神域に帰るみたいだよ?」
「なるほど。一段落の報告か。」
「それもあるだろうけど、ナレアちゃんの事を報告するんじゃないかな?」
「......あぁ、それもあるのか。」
「家族だからねぇ......。」
そう言いながらリィリは俺の傍に来て座る。
「レギにぃは......家族に話すことってある?」
「家族って......村の連中にか?」
「うん。」
「いや......特に必要ないな。」
「そっかー。」
「......一度だけ、村に帰ったことはあるんだ。」
「そうなの?」
「あぁ......お前たちの事があったからな。」
「あー、そっかー。ごめんね、面倒な事やらせちゃって。」
「いや、生き残った者の義務だからな。」
あのダンジョンで全滅した後、遺品すら渡すことは出来なかったがヘイル達の家族に詫びに行った。
「えっと......大丈夫だった?」
「おう。思いっきり殴られたが、そのくらいだ。」
「あー、ごめんね?」
「いや、そのくらいしてもらった方が良かった。ヘイルとエリアの家族からは感謝されちまったからな。」
リィリの家族からは......顔を見せた瞬間殴られ、リィリの事を伝えてさらに殴られたが......当時の心境としてはその対応の方が助かった気がする。
「うーん......でも、ごめん。」
「ははっ。本当に気にするな。それより、リィリこそ会いに行かなくていいのか?」
「うん。死んだことになっているなら、もうそれでいいと思う。それに、家出娘っていうか......最初から戻る気は無かったしね。」
「すまん。」
リィリの家は、村の中でも裕福なほうだったからな......俺達を追いかけて村を出なくても安定した生活を送ることが出来たはずだ。
「あはは、別にレギにぃのせいじゃないでしょ?村の生活は苦しい物だったし、私がいない方が生活は楽になる。それに皆を追いかけたのは私なんだし、レギにぃが罪悪感を覚える必要は無いよ。」
隣に座ったリィリが俺にもたれかかってくる。
「それに、もし私が村を出て無かったら......レギにぃは死んでいたかもしれないし、本当に追いかけて良かったって思うよ。」
「それは......確かに。」
リィリが一緒に居なければ......あのダンジョンで俺もヘイル達と一緒に死んでいた可能性が高い。
「あの時、村を飛び出したからこそ今に繋がっているんだから......勿論悲しい事もあったけど、私は間違ってなかったって思ってる。」
「そうだな。俺も村を出たこと自体は良かったと思っている。」
俺は食事の後片付けをしながらリィリに同意する。
辛い別れはあった、だが良い出会いと何よりも大切な再会があった。
その道程を、良かったと言えなければ......俺はヘイルとエリアに顔向けが出来ない。
俺にもたれかかっていたリィリも俺に倣うように片付けを始めた。
二人分という事もあってすぐに片付けが終わった俺達は光る花へと向き直る。
「さて、じゃぁ頑張って依頼の品を探しましょー。」
雰囲気を変える様に、リィリが明るく言い放つ。
「おう。見つかるといいんだが......ん?」
先程の続きから調べようとしたのだが、ふと足元に生えていた花が気になって屈みこむ。
「どうしたのー?もしかしていきなり見つけちゃった?」
冗談めかしながらリィリが近づいてくるが......。
「ちょっと、確認してくれるか?この花なんだが......。」
俺が両手で覆うようにしている一輪の花をリィリが覗き込む。
「んー?って、うわ!?レギにぃすごっ!?紫だよ!この花、紫に光ってるよ!」
「やっぱり紫だよな?」
「うん!間違いないよ!流石レギにぃ!依頼達成率の高さは伊達じゃないね!」
「いや、偶然だからな。でもまぁ、見つかって良かったぜ。」
「うんうん。採取は土ごとだから、鉢を持ってくるね。」
「あぁ、頼んだ。」
俺は折角見つけた花を見失わないようにしながらリィリが戻ってくるのを待つ。
この花、摘んだら光らなくなったりするのだろうか?
そんなことを考えているとリィリが鉢と土を掘る道具を持ってきた。
「ねぇ、レギにぃ。」
リィリが花を傷つけないように丁寧に土を掘りながら話しかけてくる。
「どうした?」
「これから先、私達はずっと一緒にいるよね?」
「あぁ。その当然だ。」
「......この紫色に光る花が出て来る舞台ってさ。一緒に居ることが出来ない二人が、いつか必ず一緒になろうって約束をする話なんだ。」
「なるほど......そこはもう俺達は乗り越えた後だな。」
「あはは。そうだね。」
リィリは死を乗り越え......俺は......他力本願ではあるが、寿命をある程度乗り越えたと言っても過言ではない。
俺達の間に障害は特になく、共に生きていくことに問題は何もない。
......いや、そう理解していても言葉にしなければいけないことがあるか。
「リィリ。例え種族......いや、何が違っていたとしても、俺はリィリとずっと一緒に生きる。それを邪魔するものがあれば、必ず俺がそれをぶち壊す。」
「......うん。」
リィリが作業の手を止めてこちらを見上げてくる。
俺はそんなリィリを抱き寄せた。
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