第144話 バラバラにしてやりたい
何とか苦労して三体のゴーレムを遺跡の外まで引っ張り出すことが出来た。
ぐにゃぐにゃと曲がる部分の多い自分より大きな物の運びにくさと言ったら......途中で何度四肢をばらばらにしてやろうかと思ったほどだ。
その度にナレアさんから強烈な視線を受けて思い留まったのだが......。
遺跡の外に出た時点で警備をしていた騎士団の人達が手伝いを申し出てくれたのだけど......リィリさん達の運ぶ軽装のゴーレムも運ぶことが出来なかった。
お蔭でリィリさんとナレアさんは畏敬の念......いや畏怖かな......まぁそんな感じの何かが籠った視線を騎士団の人達から向けられることになった。
現在ナレアさんは運び出したゴーレムを調べているが、俺たちは遺跡の一階のあちこちにある先遣隊の遺品を回収していた。
ファラとマナスには階段前の見張りを、レギさんは俺達の側で周囲警戒、俺とリィリさんで遺品回収と言った役割だが......。
「殆ど何も残っていないですね。」
「そうだね......服の一部とか靴とか......。」
「武器や魔道具の類は一切見ていないですね。遺体もですが。」
「ゴーレムが回収したってことだと思うけど。」
何のために回収したのか......まぁこれもナレアさんに報告だな。
報告すべきことを考えつつ部屋を出て周囲を警戒していたレギさんに声をかける。
「この部屋は終わりました。」
「おう、ご苦労さん。」
「レギさんも、お疲れ様です。変わりはなかったですか?」
「あぁ、巡回するゴーレムもいなかったしな。階段前の奴は動いていないんだろ?」
「えぇ、ファラからは変わり無しと聞いています。」
「下の階から代わりが送り込まれなくて良かったぜ。まぁ何か変化があったらすぐに撤退だ。」
「了解です。」
レギさんと遺跡を移動しながらふと疑問に思ったことを話してみる。
「遺品があっちこっちにばらけすぎじゃないですかね?」
「調査に来ていたんだからおかしくないんじゃないか?」
そう言ってレギさんが首を傾げる。
見た目の割に愛嬌のある仕草だ。
「......レギにぃ、そういう仕草は気持ち悪いからやめた方がいいと思う。」
「......悪かったな。」
自覚がないわけではなかったのか素直にレギさんが謝る。
少し顔が赤いのは言わないでおこう。
一瞬睨まれた気もするしね。
「まぁ、レギさんの仕草はさておき。遺品の話ですが......。」
「......おう。」
「普通の遺跡探索がどんな手順で行われるか分からないですけど......僕なら先に安全を確保してから探索をします。」
「まぁ、そうだな。今回の俺達もそういう風に動いている。」
「恐らくですけど、護衛の騎士の方が安全確保のために戦いますよね?そして危険を排除してから探索開始って流れかと。それにしては巡回のゴーレムは残っていますし......でも遺品の位置はばらばらで調査を開始していた様にしか思えません。」
「なるほど......確かにそうだな。」
「それにもう一つ。巡回しているゴーレムに襲われたのなら、いくら何でも何人かは逃げられたんじゃないですかね?出入口で待ち構えられていたわけでもなさそうですし、これだけお互いの距離が離れていても何かしら異変を感じるくらいは出来たんじゃないでしょうか?一人や二人ならともかく三十人近い人がいた筈ですよね?」
「......元から調査隊が全滅ってのはおかしな話だとは思っていたが、状況的にもっとおかしくなってきたな。」
「第二陣もですからね......最初の調査団は遺跡調査が目的でしたけど第二陣は行方不明者の探索です......そこまで遺跡に深入りするとは思えません。」
「まぁ......状況から考えれば罠で一網打尽って感じだよね。」
「ですよね......。」
「......ぞっとしねぇな。」
罠だとしたら俺に感知する術はない......物理的なトラップだったらファラが調べてくれているし、魔術的なトラップだとしたらナレアさん頼りになるな。
どちらにせよ人頼りか......。
「とりあずこの辺の遺品は回収したから外に出よう。」
リィリさんの言葉に従い俺たちは遺跡を後にした。
自然発生するダンジョンに比べると人の意思が介在している分、遺跡の方が凶悪な感じがするな......。
回収した遺品を騎士団に渡した後ナレアさんの様子を見に来たのだが......。
「ダメじゃ......やはり活動停止したゴーレムからはロクな情報が得られんのう。」
ナレアさんが目に見えてがっくりした様子でボヤいている。
どうやらゴーレムの調査はあまりいい結果を得られなかったようだ。
「ん?おぉ、皆戻ってきていたのか。遺品は回収出来たかの?」
「まだ全てではありませんが。ある程度は回収出来ました。」
「ふむ、遺跡には何も変化は無かったかの?」
「えぇ、ですが色々と気になる事があったので一度相談に戻りました。」
俺達は疑問に感じたことをナレアさんに話していく。
話を聞いたナレアさんは顎に手を当てて悩む素振りを見せていたが、やがて何かに気づいたように話し始めた。
「恐らくじゃが、最初の調査団が遺跡に到着した時にはゴーレムの警備はなかったのではないじゃろうか?少なくとも一階にはいなかった。だから調査団は一階に散らばって調査していたのではないかの?」
「ゴーレムは後から現れたと?」
「まだ確信はないがのう。」
そう言ってナレアさんは目を瞑って考え込む。
「だとしたらやっぱり調査団は罠にやられたのかな?」
「遺跡全体に行き渡る様な毒とかならあり得るんじゃないか?」
「調査中に仕掛けを作動しちゃったとかですかね?」
「それはあり得そうだな。」
「色々なところを調べている内にうっかりって感じ?」
「......致死性の毒をうっかり作動させちゃうような場所に設置するって危険すぎませんか?」
「昔の人はそのくらいじゃ死ななかったとか。」
「いや、致死性じゃなくてもいいだろ。寝かせるとか動けなくするとかでいいんじゃないか?」
「動けなくして後はゴーレムってことですか。」
それなら少しはマシかもしれないけど......スプリンクラー気分で薬を散布するのもな......自分の家には設置したくない防犯設備だ。
レギさん達とあーだこーだと仮説を話していると、考えがまとまったのかナレアさんが目を開ける。
「恐らくじゃが......妾達が遺跡に足を踏み込んだ時に突然明かりがついたじゃろ?」
「あぁ、思わず身構えちまったぜ。」
「びっくりしたよね。」
「入り口の脇に魔道具が設置してあったのじゃ、あれで誰かが入ったことを感知したのじゃろう。それでもしかすると同時に許可があるかどうかも調べていた可能性はあるな。」
ナレアさんの言葉に神殿で吹き飛ばされた時の事を思い出す。
「許可って、神殿で作った魔道具みたいな奴ですか?」
「うむ。それを持たぬものが長時間中にいたらとか一定数以上いたら作動するみたいな物は作れるはずじゃ。」
「二度目の調査団の目的を考えると、人数と時間の両方かもしれませんね。一定人数が入った瞬間に動作だと許可を持っている人が巻き込まれる可能性が高いですしね。」
「なるほど......調査団があちこちにいたことを考えて一定人数が一定時間で罠が作動って感じっぽいね。」
「不意な来客が団体で来ない限り大丈夫そうだな。」
スイッチ一個で大惨事よりは安全かもしれないな。
「ファラに毒とかガスを出すような仕掛けがないか調べてもらいましょう。魔道具から発生する物じゃなければ何らかの痕跡を見つけられるかもしれません。」
「現代の魔術でも相手を昏倒させるものはあるからな......魔術的な物かもしれぬ。ファラに頼んで全ての魔道具の位置を調べてもらえるかの?」
「わかりました。」
ファラにトラップと魔道具の位置を探してもらうように頼んだけど......ファラがいなかったらこの遺跡を探索したものかと二の足を踏んでいただろうな。
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