第145話 そういう話じゃない!



先程の打合せの後になってから一つ安全に遺跡を探索する手段を思いついた。

しかし、問題がないわけではないのでそのことについてナレアさんに相談したかったのだが......一度解散しちゃったからな。

まぁナレアさんはゴーレムの所にいるだろうけど、レギさん達にはナレアさんの許可が貰えたら伝えればいいだろう。

そんな予定を立てつつゴーレムを運び込んだテントに行くと案の定ナレアさんがいた。


「ナレアさん。ちょっといいですか?相談があるのですが......。」


幸い集中し始める前だったようで、俺が声をかけるとすぐにナレアさんは顔を上げる。


「なんじゃ?人には言いにくいやつかの?お姉様に手ほどきして欲しいのかの?」


「......やっぱり相談せずにこっちで処理します。」


「なんと!ケイはお一人様派じゃったか......。」


突然、可哀相なものを見る様な顔で見られた。


「......っ!ちが!いや、そういう意味じゃないです!」


「ほほ、隠さなくても良いのじゃ。若いと大変じゃからのう。やはり妾が......。」


ナレアさんが言葉を続ける前に俺の肩からシャルが飛び降りた。

同時にシャルの足元に物凄い亀裂が入る。

何故かシャルが盛大に怒ってらっしゃる......。

ナレアさんとシャルが見つめ合って......いや、睨み合っているに近いような......。


「えっと......二人とも、そこまで本気にならなくても。シャルも、ナレアさんのいつもの冗談だからね?」


『......。』


「......いや、すまぬ。妾が悪かった。冗談が過ぎたようじゃな。」


そう言ってナレアさんはシャルに頭を下げる。

......ん?

そこは俺に謝るのではないのですか?


「それでケイよ。相談したい事とはなんじゃ?」


そしてナレアさんはあっさりと話題を最初に戻す。

......うん、まぁ......いいですけどね?

そこはかとなく釈然としないけれど......うん、蒸し返すと大変なことになりそうだし納得しておこう。


「......えー、先ほどファラに遺跡の魔道具を含めての防衛機構を調べてもらうように頼んだじゃないですか?」


「うむ、一つ残らず調べてくれそうで頼もしい限りじゃな。」


「そうですね。勿論、油断せずに僕たち自身も気を付ける必要はありますが......まぁ安心感はありますね......それで......見つけた魔道具ですが......ナレアさん、調べたいですよね......?」


「勿論じゃ!」


うん、やっぱり即答しますよね......。


「......安全を優先してマナスに処理してもらってはダメですか?」


「マナスは魔道具を処理出来るのかの?」


「えぇ......出来るのですが......。」


処理というか......初期化だよね。


「何か問題があるようじゃの?」


「問題と言いますか......完全に無力化してしまうので......魔術式も何も残りません。まぁ......魔力が空になった魔晶石は残りますが。」


「魔力が空......それはもうただの石じゃな。しかし、それでは魔道具を調べることは......。」


ナレアさんが非常に渋い顔をしている。

まぁナレアさんの目的は遺跡自体にもあるが、遺跡にあるナレアさんの知らない古代の魔道具の調査にもある。

遺跡そのものの調査と未知の魔道具の調査はどちらも同じくらい大事な事のはずだ。

マナスが処理した場合、少なくとも備え付けの魔道具は全部初期化してしまう......いや、マナスは魔道具の効果が分からないから、備え付けに限らず全部の魔道具をただの石に戻しちゃうしかないか?


「......うむむ......しかし安全の為には......うぐぅ......じゃがぁ......。」


物凄く葛藤しているな......まぁ当然だろうけど......。

両手で頭を抱えて悩む人って本当にいるんだなぁ......。


『......ケイ様。マナスが見せたいものがあると。』


シャルがそう言うと肩に乗っていたマナスが飛び降りた。

地面に降りたマナスの体が少し大きくなり、なんか体の中が光っている様な......。


「む......これは魔術式じゃな?しかし......初めて見る術式じゃな......。」


ナレアさんがマナスの中にある魔術式を凝視している。

......なんかあの魔術式見覚えがあるような気がするな。

いや、多分気のせいじゃない。


「うん?しかしこれは......何かおかしいのじゃ。ぎこちないというか......これでは発動しないような......マナスよ、これはお主が作ったのかの?」


「いや......これは、僕が描いた魔術式ですね。」


「なるほど、ぎこちなさはそのせいか......つまりこれはケイが描いた魔術式をマナスが覚えておって、それを体内で再現しておるという事かの?」


『ケイ様、マナスは以前処理した魔晶石に刻まれていた魔術式を再現しています。』


「以前処理したって言うと、俺が練習で作ったやつを初期化してくれた時の事だよね?」


『はい。効果を発動する事は出来ないようですが、その魔晶石に刻まれていた魔術式に関しては寸分の狂いもなく再現出来るようです。』


上手くいっていれば魔力を全て放出する魔術式な訳だし、うっかり発動しちゃうと大変なことになりそうだし効果を出せなくて良かったよ。


「吸収した魔道具の魔術式をそのまま再現できるけど、その効果までは発動させられないってことか。魔術式を形として表示させているだけ、見た目だけってことだよね?」


『その認識で合っているようです。』


「遺跡の魔道具でも可能なのかな?」


『そのようです。』


「なるほど......。」


「マナスよ、再現できる魔術式に限りはあるのかの?」


「シャルの話が聞こえていたのですか?」


「聞こえてはおらぬが、お主が聞き返しておる内容だけで大体把握できるじゃろ?」


『......二、三十なら問題ないそうです。』


「二、三十くらいなら大丈夫だそうです。」


「二、三十か......遺跡内で発見した魔道具も問題ないのじゃな?動いているゴーレムも行けるかの?」


マナスがナレアさんの問いに肯定するように弾む。

それを見たナレアさんの目が怪しく光り、しかし優し気な手つきでマナスを両手で抱える。

顔も非常に優しげに笑っているが......目がギラギラしているね。

マナスもそれを感じ取っているのか微妙に嫌そうにしているような......。

少しナレアさんに抱かれていたマナスだったが、体を小さくして逃げるように俺の肩に戻ってくる。

それを物欲しそうな目で追いかけたナレアさんであったが気を取り直したように言葉を続ける。


「マナスが魔術式を保存できると聞いてしまったからな......現金だとは思うが、ファラとマナスに魔道具を処理してもらう事にしよう。安全には変えられぬからな。」


......確かに本人が言うように先ほど盛大に悩んだ後では白々しい気もするが......嘘ではないだろう。

好奇心と安全を求める心がせめぎ合っていただけで、最終的には同じ判断をしたかもしれないしね。


「分かりました。マナス、ファラが戻ってきたら今度は二人で遺跡に向かってもらえるかな?勿論、危ないと思ったら二人ともすぐに引き返すんだよ?」


肩の上にいるマナスを撫でながら言い含める。

マナスは軽く弾むと俺の肩で軽く揺れている。


「マナスよ......ファラが戻ってくるまで妾の方に来てもいいんじゃよ?」


ナレアさんがマナスを見つめながら優しく声をかける。

でも目が完全に獲物を狙う目になっています。

マナスは暫く肩で悩む素振りを見せたがゆっくりと俺の背中に移動して張り付く。

懐かしい感じだね......デリータさんの時と同じ様な反応をしているけど......それよりマシかな?

デリータさんの時は即逃げてたもんな。

まぁマナス自身を調べたいっていうデリータさんとは方向性が違うし多分大丈夫だろう。


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