第323話 依頼いっぱい



「あーケイ。お前も色々と魔物見て来ただろ?」


「お手伝いしたいのはやまやまですが......彫刻なんてしたことがありませんし、正直木材を無駄にするのが関の山だと思います。」


俺がそう答えるとレギさんが思いっきり舌打ちをする。

......ちょっと迫力があり過ぎて、初めて会った頃にやられていたら泣いて謝ったかもしれない。


「リィリは役に立たない......そう言えば、ナレアは魔道具の細工を作ったりしていたから出来るんじゃないか?」


そういえば、ナレアさんは指輪とかブローチとか魔晶石を嵌めるアクセサリーを作っていたっけ。

確かにナレアさんだったらレギさんを手伝えるかもしれない。

そう思い女性陣の方に目を向けるが......向こうは向こうで大盛り上がりだ。

あそこに突っ込んで行く勇気は俺にはない。

レギさんも同じ意見だったようで、ゆっくりと女性陣から顔をそむけると大きなため息をつく。


「......年単位の仕事になりそうだな。」


「あはは、すみません。流石にそこまで拘束するつもりはありませんが......とりあえずよく見かける魔物や偶に見かける程度でも危険度の高い魔物なんかを枚挙してもらって、期限は設けずにとりあえず二十体くらいでどうでしょうか?」


「まぁ......そのくらいであれば......。」


「それとまた、一般向けの依頼について助言をいただきたいなと。」


「......はぁ......ギルド職員辺りを連れてきたいところだが......グラニダはともかく、ここに至るまでの紛争地域がな......。」


「流石にシャル達に乗ってもらう訳にはいきませんしねぇ。」


討伐出来るかどうかは別として、間違いなく討伐対象にはされるだろうね。


「東に派遣されているギルド関係者を探すのもな......まぁ、手伝うって言ったのは俺だし......好きに使ってくれ。」


口ではそんな感じだが......どことなく嬉しそうだよな、レギさん。

これは木彫りが褒められて嬉しいって感じじゃなくって......純粋に仕事があることが嬉しいのだろうな。


「ありがとうございます、本当に助かります。勿論、手伝いの人員は手配いたしますので使ってください。」


「そりゃ助かるが......なるほど、教え込めってことか?まぁ、作業自体は教えられるが......魔物の姿の方はどうするんだ?俺が頼まれた二十体を量産することは出来るだろうが、新しい魔物はどうするんだ?流石にそれを教えるのは殆ど俺が作る事と変わらないぞ?」


「その辺はまだ話を聞いたばかりなので私もまだ固めきれていませんが、レギさんには特徴のとらえ方と言いますか......この人形のような......伝わりやすさのようなものを教えていただけますか?」


「コツってことか?そんな大層なものじゃねぇぞ?」


「いや、レギさん。この木彫りは凄いですよ?普通に工芸品として販売できると思いますけど。」


「ケイ、言い過ぎだぜ?精々子供向けの玩具がいい所だ。」


「いえ、正直母の提案を聞いていなければ、僕も工芸品として売りに出したいと考えていたとおもいます。そのくらいレギさんの作品はすばらしいです。」


「作品って......二人とも大げさだ。まぁ、こんなもんで良ければ作り方は教えるさ、依頼だしな。」


褒めまくっているせいか、レギさんが小虫を追い払う様に手を振って顔を顰める。

そんなレギさんの様子を見て軽く微笑んだカザン君が、今度は俺に視線を向けた。


「ケイさんは何か予定があるのですか?」


「ん?いや、特にないかな?なんか手伝うことある?」


「えっと......。」


俺が聞いてみると、若干気まずそうにしたカザン君が言葉を続ける。


「実は一つ、皆さんのお力を貸していただきたいことがありまして......レギさんには別の件をお願いしてしまったのですが......。」


「先に依頼を受けちまったからな......俺は手伝えないかもしれないが......。」


「どんな内容?」


「実は魔物関連なのですが......。」


「む......。」


レギさんがそわっとしているな......かなり興味があるようだ。

でもレギさんはプロ意識が高いからな......先に受けた依頼がある以上そちらを優先するはずだ。


「兄様!」


「カザン君!」


カザン君が依頼内容を続けようとしたタイミングで、ノーラちゃんとリィリさんがこちらに来た。

カザン君に一直線ってことは何か話があるのだろうけど。

二人とも満面の笑みを浮かべていて......俺だったらかなり警戒してしまうな。


「どうしたんだい?ノーラ。」


俺の小物感とは異なり、カザン君は爽やかな笑顔でノーラちゃんに返事をする。


「兄様!グルフさんを家に招待してもいいですか!?」


「......え?グルフを?」


「はい!グルフさんはいつも街の外で可哀想なのです!」


「う、うーん......気持ちは分かるけど......ちょっと難しいかなぁ......。」


先程までのイケメン爽やかな笑みから、若干引き攣ったような笑みに変わるカザン君。


「庭ならグルフさんが居ても大丈夫だと思うのです......駄目ですか?」


「う、うーん。外から見えない中庭の方なら居る分には大丈夫だけど......ここまで連れてこられないからなぁ。」


グルフが街中に入れば......それはそれは大変な事態になるよね......いくらカザン君が領都の最高権力者で、軍においてもトップだとしても流石に......いや、檻に入れて捕獲した風を装えばいけるか?

いやいや......流石にそれはちょっとな......領主館で飼いますって説明するわけにもいかないし......っていうか今この情勢でそんなことを言ったら、確実に突き上げを喰らうだろう。

夜中にこっそりと移動させる......?

いや......万が一誰かに見られたらかなり面倒な事態になるかも知れないな......。


「ここまでは連れてくるのは大丈夫だよー。」


ノーラちゃんの肩に手を置いたリィリさんがにこにこしながらカザン君に告げる


「リィリさん、どういうことでしょうか?」


「ナレアちゃんとケイ君が新しく使えるようになった魔法があるからね。グルフちゃんをここに誰にも気づかれない様に連れてくることは出来るよ!」


「新しい魔法ですか?」


「凄いのです!ナレア姉様は凄く凄いのです!綺麗だったり可愛かったり......凄いのです!」


「そ、そうなんだ......えっとケイさん?」


ノーラちゃんの大興奮っぷりに若干引き気味のカザン君が俺の方に顔を向ける。

うん......俺もすっかり失念していたけど、幻惑魔法を使えば簡単に街中に連れてこられるね。

そういえば以前幻惑魔法があれば、移動中も姿を隠しながら楽に移動出来るとか考えてなかったっけ......?

アイディアをどっかにメモったりしておかないとな......特に魔法関連。

っと、カザン君に返事しないと。


「えっと......こういう事が出来るようになってね?」


そう言って俺はテーブルの上に置いてあった狐の木彫りを手に取り、幻惑魔法を発動する。

手の上に乗せた人形が音もなく消えると、カザン君の目が驚愕に見開かれる。


「これは......どこかに移動させたのですか?」


カザン君が人形を探して辺りを見渡す。


「あ、ごめん。今回の魔法はそういうのじゃないんだ。人形はまだ俺の手の上に乗っているよ。」


俺は手をカザン君の前に出す。

身を乗り出して俺の手を色々な角度から見ながらカザン君が呟く。


「......全く見えません......本当にあるのですか?」


「触ってみてごらん?」


今回は幻を視覚のみに作用させているので、触ればそこに人形があることはすぐに分かるはずだ。

恐る恐ると言った感じでカザン君が手を伸ばす。

俺は掌に人形の感触があるからどの辺にあるのか分かるけど、カザン君はまさに手探りと言った感じだ。

掌の上なのだからそんなに探さなくても見つかると思うけど......何故かカザン君は俺の手の周りで両手をわさわさ動かすだけで人形に触れることは無い。


「......いや。手の上に乗っているんだよ?」


「す、すみません。えっと......この辺ですかね。」


そっと指を伸ばして人形がある辺りをつつくカザン君。


「なるほど......確かにありますね。」


そう言ってカザン君は人形をつまんで持ち上げる。


「うん。分かったよノーラ。ケイさん達が連れて来てくれるなら......グルフに来てもらおうか。でも中庭からは移動できないと思うけどいいかな?」


「えっと......。」


カザン君から連れてくる許可は貰ったものの、ちょっと困ったように俺の事を見るノーラちゃん。


「一度グルフを連れてきて、グルフが窮屈だって言うならまた外に連れて行こうか。いつも寂しい思いをしているだろうし、喜ぶと思うよ。」


「はい!ケイ兄様、グルフさんを連れて来てください!」


満面の笑みを浮かべるノーラちゃん。

うん、俺もずっとグルフを一人にさせていて心苦しかったから丁度いい機会だ。

ノーラちゃんには感謝だね。


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