第365話 おや?街の様子が



ゴブリンのヘヌエス君、そしてワイアードさん達と別れた俺達は龍王国を出国し、そのまま西進。

そんなに時間をかける事無く、俺がこの世界で最初に辿り着いた街......レギさんと出会った街まで戻って来た。

あの二人の事は色々と心配ではあったけど、この先は二人の問題だ。

カザン君の時と同様、助けを求められれば手助けをするけど極力干渉はしない。

知り合いとして何か困っていれば助けるくらいは勿論するけどね。

まぁ、二人の事はさて置き、俺は街の様子に目を向けた。


「相変わらず活気がありますね。」


「あぁ、懐かしい感じだ。グラニダの活気に近いもんがあるな。」


「そうだねー龍王国の王都と比べると、なんかはしゃいだ感じって言うか......こっちも元気になるって言うかそんな感じ?」


リィリさんやレギさんの言う様に......猥雑、とまでは言わないけどあちらこちらから大きな客寄せの声や人々の話声、時には罵声のような物も飛び交う活気はこちらにまで活力を与えてくるといった雰囲気は龍王国の礼儀正しい活気よりグラニダに近いものがあるだろう。

ただ何かグラニダの領都とは違って......。


「うむ、リィリの言うことは分かる気がするのじゃ。ところで、活気の事はさて置き、何やら妙な雰囲気を感じるのじゃが......。」


うん、ナレアさんの言う通り......何か不思議な雰囲気というかなんか注目されている気がする?


「そうだな......何かすげぇ見られているな......。」


俺達......いや、レギさんが物凄く見られている。

レギさんはこの街ではそれなりに有名というか親しまれている感じだったとは言え、こんな道行く人が注目するほどの有名人ってわけでは無かったはずだ。


「こういう時は聞いてみるのが一番早いが......警戒されている感じでは無さそうだが、俺が行くのはあまりよくなさそうだな。」


自分が注目されているのが分かっているレギさんは、若干居心地悪そうに頭を掻いている。

そう、警戒されているって感じじゃない......なんか嬉しそうと言うかはしゃいでいると言うか......。

ファラに聞けばすぐに分かると思うけど。


「ナレアちゃん!大変!」


何か危険があってはまずいのでファラに確認しようとしていたところ、相変わらずいつの間にか俺達から離れて屋台で買い物をしていたリィリさんが慌てた様子で戻ってくる。

いや、情報収集を兼ねてってことだろうけど。


「どうしたのじゃ?何か分かったのかの?」


「それがね......。」


何故かリィリさんが俺達に聞こえない様にナレアさんの耳元でぽしょぽしょと喋る。

これは......何か企んでいる?


「......なんじゃと!?」


リィリさんの話を聞いたナレアさんが目を丸くして驚きの声を上げている。


「いや......しかし、それは......。」


そう言ってナレアさんがレギさんの方をちらりと見る。


「......?」


見られたレギさんは訝し気にしているが、ナレアさんはレギさんに何も言わずにリィリさんとの会話を続ける。


「......なるほど......して、どうするのじゃ?」


「ここは直接見に行くのがいいかと......。」


「なるほど......場所は分かっているのかの?」


「大丈夫。」


何やら悪だくみをしているような二人だけど......なんか......いつものように嫌な予感を覚えないと言うか......ナレアさんよりもリィリさんが楽しそうだからだろうか?

俺とは逆にレギさんの表情は引きつっているけど......口は挟まない様だ。


「レギにぃ、ちょっと行きたい所があるんだけど......。」


「おう、別に構わないぞ?俺はギルドの方に顔を出してからいつもの宿の方に部屋を取っておく。」


そう言ってレギさんがギルドの方へと足を向けようとする。

リィリさん達の方も気にならないと言えば嘘になるけど、ここは俺もレギさんに付いて行った方が良いだろう。


「あ、ちょっとまって!レギにぃ、一緒に来て欲しいんだ。」


「......なんでだよ?」


レギさんの腕を取ってリィリさんが一緒に行きたいと誘っている。

あからさまにレギさんは警戒をして腕を引こうとしているが、リィリさんはその腕をがっちりつかんで離さない。


「ほほ、レギ殿。リィリの誘いを怪しく思うのも分からぬではないが、ここは素直に行っておいた方が良いのじゃ。」


「......。」


胡散臭そうな表情をしながらレギさんがナレアさんを見る。


「なに、危険はないのじゃ。レギ殿もこの街の様子が気になるじゃろ?何故こんなことになっているかがリィリに着いて行けば分かるのじゃ。」


「......今ここで教えてくれてもいいだろ?」


「ほほ、見た方が早いのじゃ。自分の目で見る方が状況は理解しやすかろう。」


「まぁ、確かにそうかもしれねぇが......ケイ、どうする?」


「えっと、そうですね......状況を把握するためにも行った方が良いと思いす。」


......俺が悩むような素振りを見せた瞬間、レギさんの腕に掴まっているリィリさんからもの凄い視線を感じた。

触らぬ神に祟りなし、長い物には巻かれろ......生きていく上でこれ以上ない金言だと思う。

俺の言葉を聞いたレギさんは目を瞑り一瞬考えを巡らせたようだが、ため息をつくとリィリさんに手を放すように言った。


「とりあえず、案内してくれ。確かにこの状況は気になるというか......むず痒い。ギルドで話を聞こうと思っていたが、答えが分かるって言うならそっちの方が早いだろう。」


「うんうん、言葉で聞くよりも目で見た方が早いって言うからね。ささ、気が変わらない内にさっさと行こう!」


物凄い上機嫌なリィリさんがスキップしながら俺達を先導する。

レギさんの表情は晴れないけど......街の様子やリィリさんのテンションを見る限り、悪い事では無さそうだ。

......レギさんにとってはどうか分からないけど......少なくとも命の危険があったりするようなことはなさそうだね。

リィリさんがレギさんの身が危ないような状況を楽しむわけない......。

まぁ、何にせよリィリさんにとって面白いものが待ち構えているのだけは間違いないね。

俺は隣を歩くナレアさんの方を見たが......。


「ほほ、ついてからのお楽しみじゃ。」


「ですよね。」


やはり何も教えてくれる気は無さそうだ。

ファラに聞けば一発だろうけど、それは流石に無粋が過ぎるのでやめておく。

俺はうっきうきな様子で前を歩くリィリさんに黙ってついていくことにした。




とにかく楽しみで仕方ないと言った様子のリィリさんに連れてこられたのは、非常に大きな建物だった。

以前レギさんにこの街を案内してもらった時には来なかった場所だ。

外観は凄く立派で、装飾なんかも非常に繊細で建物自体が芸術品のようなたたずまいをしている。

しかし、その建物の中に入っていく人たちは一般市民と言った装いで、建物の外観とは裏腹に広く一般の方々にも開かれた場所のようだ。


「......劇場か。ここが目的地なのか?」


「うん、そうだよー。入場券買ってくるからここで待ってて!」


俺達が何かを聞く暇も止める暇も与えず、リィリさんはチケットを買いに走って行ってしまった。


「物凄くはしゃいでいますね。」


「あぁ......有名な楽団でも来ているのか?」


「ほほ、今この劇場でやっている演目は演奏ではないのじゃ、演劇じゃな。」


「演劇......入場券を買ってくるって言っていたが、観劇するのか?俺達が?」


「うむ、そうなるのう。」


「......観劇と街の様子を知るのと何の関係が......。」


レギさんが呟くように言うが、俺は何となく予想がついた。


「うーん、恐らく、レギさんに似た役者さんが出ているのではないですか?客入りもかなりいいみたいですし、人気のあるお芝居に出ている人と間違われたって感じじゃないかと。」


「あぁ、そういう事か。他人の空似ってやつで騒がれていたってことか。確かに、ここまでの客入りは俺も見たことが無かったし、相当人気のある演劇なんだろうな。しかし、俺そっくりの役者って、悪役とかか?」


確かに、レギさんはどちらかと言えば悪役だな。

ギルドで初めて会った時もそんな仕事していたし。


「あはは。でも、街の人達は好印象って感じでしたからいい人か、もしくは道化役とか笑われ役かもしれませんね。」


我ながら酷いことを言っている気もするが、レギさんは気にした様子はない。


「あーそっちか。悪者よりはそっちのほうがありそうだな。まぁ、馬鹿にされたくはないが......リィリのはしゃぎっぷりからするとその可能性が高そうだな。」


そんな話をしながら待っているとリィリさんがチケットを片手に戻って来た。

観劇の経験は元の世界でもなかったからな......ちょっと楽しみだ。


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