第184話 グラニダで起こっていること
ファラの自己紹介の後、集めてもらった情報を聞こうと思ったのだが......恐らくグラニダの情報も集めて来てくれているだろうし......あまりノーラちゃんに聞かせない方がいいかもしれないと思い直し翌日まで時間を空けることにした。
今ノーラちゃんはナレアさんとリィリさん、それからグルフとマナスと一緒に採取に行ってもらっている。
「それじゃぁ、ファラ、情報を聞かせてもらっていいかな?」
『承知いたしました。まずは黒土の森についてですが、現在のこの辺の地名としては使われていないようです。』
「そっか......一応黒土の森についてはカザン君から聞けた話があるから後で相談させてもらえるかな?」
『......そうでしたか。承知いたしました。』
少し......いや、かなりファラが悔しそうにしている気がするな。
『......続けさせていただきます。この辺りは東方では珍しく比較的安定した土地だったようです。』
......カザン君の話の裏付けが取れそうだね。
しかし......過去形か。
『軍事力もこの辺では頭一つ抜けて強かったようですが、領土欲はあまりなかったようで攻めに回ると言うことはなかったようです。』
「......。」
カザン君はファラの言葉を黙って聞いているが......色々なことが頭を駆け巡っているように見える。
そこから先......ファラはこの辺りで起こったことを淡々と説明してくれたが......それはカザン君から聞いたことと寸分の違いもない物であった。
「その、領主さんが村を襲ったっていう話については何か分かっている?」
『村が襲われた時に領主の指揮の下、軍の演習が行われていたのは間違いありません。ですが村を襲った軍にも領主はいたという話は捏造ではないようです。』
カザン君の表情が複雑なものになる。
「マナスじゃあるまいし、当然どちらかが偽物だろうけど......。」
『申し訳ありません。そこまでは確証が得られませんでした。』
「かなり前の話だしね、仕方ないと思う。でも......少し探ってみてくれるかな?」
『承知いたしました。』
無茶を承知でお願いすると打てば響くと言った感じで受けてくれるファラ。
ファラにはいつも負担を掛けちゃっているなぁ......皆に労う方法を相談してみよう。
それは今度やるとして......後は......そういえば昨日カザン君が追手の兵士に聞いていたことがあったな。
「領都の様子ってどんな感じかな?」
『民に大きな混乱はないようですが軍や商人、行政の方は動きが慌ただしいようです。特に行政の方はうまく回っていないようです。』
「誰がその辺り主導しているとかは分かる?」
『アザル=ナナエス兵士長です。』
「兵士長?」
なんかあまり上層部っぽい響きじゃない役職だけど......。
「兵士長は軍の指揮官です......しかし、アザル兵士長が......。」
「どんな人なの?」
俺がカザン君に聞いてみると少し悩む素振りを見せた様子だったが、その人物について説明をしてくれる。
「アザル兵士長は元々傭兵団として父に雇われていました。二十名程が所属する傭兵団を率いて領内の魔物狩り、そしてダンジョン攻略の指揮を執り見事に攻略を成し遂げてその功で兵士長へとなりました。」
「優秀、ということかな?」
「指揮能力は......普通でしょうか?どちらかと言うと個人の武勇に優れると言った感じです。ただ......。」
「ただ?」
「......あまりこういうことは言うべきではないと思うのですが......私はあまり好きじゃないと言いますか......。」
「......へぇ。」
付き合いは短いけど......カザン君はあまり人を悪く言うタイプではないと思うけど......。
「傭兵によくいる粗野と言った感じではないのですが......他人を見下しているというか......それでいて、常にイライラしている感じです。」
厄介そうなことこの上ないタイプだな......。
そんなのが現在軍のトップ?
いや......軍だけじゃなくって政治方面でも?
「あまり関わりたくない感じの人だね。」
「......そう、ですね。しかし......なぜ彼がそこまで権力を手に出来ているのか......。」
『領主に反旗を翻した時に主導権を取ったようです。』
「ダンジョン攻略の功もあり、軍に対しては発言力はかなりありましたが......。」
『グラニダでは不正を正すためと言う名目で粛清の嵐と言った感じです。』
「粛清......それで自分の権力を固めているということですか?」
カザン君が拳を握りしめながらファラに問いかける。
『恐らくはそうだと。不正と言うのも証拠は提示されているようですが、信憑性が薄かったり......そもそも関わり合いの無い罪であったりとしたものが殆ど......いえ、全てと言っても過言ではないですね。』
「......。」
カザン君の噛み締めた唇から血が出ている。
気持ちが分かるとは言えない。
俺にはそんな経験はないし、部下......とは違うかもしれないけれど、そう言った相手が居た事もない。
しかし、カザン君は煮えたぎるような思いを抱いているはずだ。
それはあの時自分を殺そうと追いかけてきた兵に抱いたものよりも強い物なのかもしれない。
だけど......。
カザン君が大きく息を吐き、胸に去来したであろう想いを飲み込み話を先に進める。
「......しかし、アザル兵士長が私達を殺すために懸賞金を掛けたと言うのは分かりませんね......そこまでする価値が私達にあるとは思えないのですが......。」
既に軍事力を掌握していて、それを背景に政敵を粛清して行っているわけで......わざわざ前領主の家族を根絶やしにする必要性がないってことか......。
『いえ、懸賞金は生け捕り時のみです。殺害時は逆に罰せられます。』
「あれ?そうなんだ?あの追手の人達ちゃんと確認していなかったってことかな?」
『恐らくそうだと思います。懸賞金が掛けられた当初から生け捕りが絶対条件と言われていたはずです。』
「生け捕り......なおさら理由が分からないですね......。」
握りしめた拳を解くことなく口元に手を当てて思考を回しているカザン君。
色々と力を籠め過ぎたのか、肩に巻いてある包帯に少し血が滲んで来ているようだ。
「......ファラさ......ファラ。センザの街の事は......いえ、すみません。少し考えたいことがあるので失礼します。」
そう言ったカザン君は俺たちに背を向けて歩き出した。
センザの街......あの追手が配置されていた街の名前だったはず......そして、恐らくだけどカザン君のお母さんの実家がある街なんじゃないかと思う。
カザン君の後ろ姿を見送った俺はレギさんに声を掛ける。
「これからどうしますか?」
「......あいつ次第だな。自分たちの安全を最優先にするのか、両親の無念を晴らしに行くのか......。」
「あるいは自分たちを裏切った民を救いにいくか、ですかね?」
「......武力を背景に政敵を粛清する奴がまともな統治をするとは思えねぇしな。」
「......僕達に手助けできることがあるのでしょうか?」
はっきり言って政治なんてこれっぽっちも理解していないし......悪者をぶっ飛ばすくらいしか役に立てないと思うんだよな。
「はっきり言って......政治だなんだは俺たちの手には余る。」
「そうですよね。」
「俺たちに出来るのは......護衛と......暗殺くらいか?」
「あ、暗殺ですか?」
「情報を聞いた感じ独裁って感じじゃねぇか?裏はあるかも知れねぇが......手っ取り早いだろ?」
「手っ取り早い......。」
手っ取り早さで殺人はしたくないなぁ......。
でも相手は相当ひどいことをやっているし......因果応報......いや、それ回り回って俺達も碌なことにならないってことだよね......?
「まぁ、ここで話をしていても仕方ねえよ。全てはあいつ次第だろ。」
「......カザン君、大丈夫でしょうか?」
「......大丈夫だろ。あいつには守らないといけない妹がいるからな。」
「そうですね。」
「その妹がいるから......俺達も見捨てるって選択肢は取れないだろうしな。」
「そんなことを口に出したら僕達の命が危ないかもしれないですね。」
ノーラちゃんに対する女性陣の溺愛っぷりをみるに見捨てるようなことを口にすれば......俺達は明日の朝日を拝むことはできないだろう。
「かもじゃなくて、確実に、だな。まぁ出来る限り力になってやろうや。」
「はい。」
あ、そうだ。
カザン君のお父さんの書斎に黒土の森の手がかりがあったことをファラに伝えて調べてもらおう。
後はカザン君の助けになるような情報を集めてもらう必要があるな......周辺勢力の動向にも目を向けておかないと混乱に乗じて攻め込んでこないとも限らない......。
まぁ攻め込まれたら俺達じゃどうすることも出来ないけど......情報は大事だ。
最悪の場合は二人を連れて逃げるって手段もとれるからね。
カザン君は納得してくれないかもしれないけど......。
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