第419話 戦慄の魔族
「本当に研究所内の見学をしなくて良かったのですか?」
「うむ。自慢に聞こえるかもしれぬが......妾は魔術の解析能力が高くてのう。研究途中の物を目にしただけである程度把握してしまったり、完成系を思いついてしまったりする可能性があるのじゃ。そうすると他人の功績を横から奪う感じになってしまうからの、あまり行かぬようにしておるのじゃよ。」
「なるほど......だから完成したものや、現在研究している話だけを聞いていたのですね。」
「うむ。面白そうな研究は妾も手を出したくなるが......いつか実現してくれるのを待つか、相談された時のお楽しみといったところじゃな。」
そう言って屈託なく笑うナレアさん。
ナレアさんなりの線引きということだろうけど......確かに一瞬ちらっと見られただけで模倣されたり発展されたりしたら、ずっと研究している人達の立場がないよね......。
「それにしても......ヘッケラン所長は凄い個性でしたね......。」
「素直に変人と言っていいのじゃ。」
「キオルさんもぱっと見普通の方っぽかったですけど......偶に言動がおかしかったです。」
「ふむ?それは気づかなかったが......そうじゃったかな?」
お世話になっているって言っていた人を実験台にし損ねて悔しそうにしていましたからね......。
まぁ、ナレアさんは昔馴染みっぽい人を実験台扱いしていましたが......。
「まぁ......あの場では比較的まともな方だったかもしれませんが......ちょっとねじが緩んでいる感じではありました。」
「ふむ......?まぁ、そもそもねじ穴すらない者が多いからな。緩んでいる程度なら問題なかろう......恐らくな。」
比較対象が酷すぎて、問題ないと言われても全く安心できないな......。
「......そういえば......ずっと雑談していただけのように感じましたが、檻について何か分かりましたか?」
「檻と誰がどの程度関わりがあるかは流石に分からぬが......やはりある程度研究内容が流出しておる気がするのう。ファラが到着したら重点的に魔術研究所を調べて貰った方が良いじゃろうな。」
「何か引っかかる所があったのですか?」
正直魔術とか魔道具の話、研究班の近況を聞いていただけのように思っていたのだけど。
「うむ。檻の魔術は確かに妾も知らないものじゃったが......今、魔術研究所で開発されている魔術は近しいものがあったのじゃ。当然、同じ物ではないのじゃが......発想、基礎......そして檻自身の独自技術に応用、それらの組み合わせによって実現可能と思えるのじゃ。それに、技術を盗んでそのまま使っているわけでは無いという事から考えても、優秀な魔術師が檻にいるのは確実じゃが......研究所に行く前に話したように、優秀な研究者の集まる環境と言うのはそのまま力になる。それを上手く利用する為に、魔術研究所内に協力者がいるのは間違いないと思うのじゃ。」
「なるほど......。」
「まぁ誰が協力者なのかはファラに調べて貰うのじゃ。余計な事をすれば警戒されるしのう。」
そう言って肩をすくめるナレアさん。
ナレアさんの推測が正しければ、ファラが調べることによって一気に檻に近づけるかもしれないな。
「下手したら後数日で相手に迫れるかもしれませんね。」
「ほほ、ファラの手に掛かれば秘密なぞ丸裸も同然じゃからな。」
怖い怖いと笑うナレアさん。
「ファラに長距離通信用の魔道具を大量に渡したら無敵になると思いませんか?」
「なんじゃ......ケイは世界征服でもしたかったのかの?」
「......出来そうで怖いですね。」
ファラを使いこなす器量と頭脳が俺にあればだけどね。
いや、頭脳はファラが担当してくれそうだな。
「それはそうとヘッケラン所長は物凄く個性的でしたが、マルコスさんもかなり個性的でしたね。あれってどっちが素なのですか?」
俺は先程会ったギルド長を思い出す。
本性は紳士然とした方なのか粗野というか豪快と言った感じの方なのか......。
「アヤツはなぁ......妾もよく分からぬのじゃ。」
ナレアさんが考える様にしながら言う。
「かなり長い付き合いのように感じましたけど......。」
「うむ。あやつは妾が魔王だった頃からの知り合いじゃな。その頃はあんな感じではなかったのじゃが......。」
「因みにその頃はどちらのマルコスさんだったのですか?」
「すかしたほうじゃ。」
「いや、あれはすかしているって言うのですかね?」
紳士然とした態度のマルコスさんを思い出す。
アレは格好良かった......そう言えばナイスミドルな人って魔道国に来て既に三人も見ている気がするな。
魔族の方々は格好いいおじさんになるのだろうか......。
俺はヘッケラン所長の事は考えないようにしながらナイスミドルな人達の事を思い出す。
「まぁ、元々変な奴でな。騎士だったのじゃが、ダンジョンが好きでのう。」
「ダンジョンが好き?」
ダンジョンに好きになる要素なんてあっただろうか......?
魔晶石が採れるってこと以外、危険以外何もないと思うのだけど......。
「アレは戦闘狂じゃ。騎士でありながらとにかくダンジョン攻略に赴くのが好きでのう。魔道国は一応国主導ではなく冒険者主導でダンジョン攻略をしておるからの。最終的に騎士を辞めて冒険者になったのじゃ。」
「......魔道国の騎士って......貴族ですか?」
「まぁ、必ずしも貴族である必要は無いが、貴族がやることは多いのう。因みに、当時は五人が騎士についておったのじゃ。」
「随分と少ないのですね......。」
「そうかの......?あぁ、ケイは龍王国の騎士しか知らぬのじゃったな。」
「えぇ、ワイアードさん達とは役割が違うのですか?」
「うむ。魔道国において騎士とは身分ではなく役職なのじゃ。軍部の上役、最上位の者達じゃ。彼らに命令を出せるのは魔王しかおらぬ。」
「へぇ......確かに龍王国とは違った感じですね。龍王国は兵士を率いる人達って感じでした。」
魔道国の騎士は、俺の知る言葉で言うなら将軍とかなのかな?
「うむ、龍王国はそんな感じじゃな。じゃが、まぁ......そんな軍のお偉方がいきなり辞職して翌日から冒険者じゃ。意味が分からんじゃろ?ちなみに当時の妾はその報告を聞いて茶を吹き出したのじゃ。」
確かに、そんな報告をお茶を飲んでいる時にされたら吹き出しても仕方ないと思う。
っていうか引き継ぎとかちゃんとしなかったのだろうか......?
軍部のトップがそれって、大混乱じゃ済まない様な......。
「ナレアさんも振り回されることあるのですね......。」
「魔族は癖が強いからのぅ。妾も苦労したものじゃ。」
しみじみとナレアさんが言う。
他にも色々な人がいろんな問題を起こしたのだろうなぁ......。
今は自由奔放な様子を見せるナレアさんも苦労を重ねてきたのだろう。
「因みにあやつは現役時代上級冒険者として名を馳せたのじゃ。二つ名は、千の魔物を屠りし者じゃったか?」
「それはまた物凄い二つ名ですね。」
「まぁ、倒した数は間違いなく千では済まないと思うのじゃ。各地のダンジョンを渡り歩いておったからのぅ。ダンジョン攻略数なら歴代一位じゃろうなぁ。」
「それは物凄いですね......あれ?現役時代ってことは引退していますよね?」
「まぁ、ギルド長をやっておるくらいじゃしな。引退しておる。」
「さっきギルドで話をした時......確実にダンジョン攻略に自分で行きそうな感じじゃありませんでしたか?」
「......行きそうじゃな。」
「後方で指揮とかじゃなく、下手したら最前線で武器を振るってそうでしたけど......。」
「......傍迷惑なじじいじゃなぁ。」
ダンジョンの話をした時に獰猛な笑みを浮かべていたマルコスさんを思い出す。
やっぱり......魔族の人って自分の趣味というか欲望に忠実過ぎる気がするな......それが長生きの秘訣なのだろうか?
デリータさん、マルコスさん、ヘッケラン所長......そしてナレアさん。
知り合いの魔族の大半が、ちょっとアレな感じがするけど......俺は魔道国の街並みに目を向ける。
周囲を歩く魔族の方々、それから龍王国のオグレオさんや魔王であるルーシエルさん......他の人達も意外と似たような感じなのだろうか......。
俺は魔族の生き方について考えて......少しだけ、ほんの少しだけ戦慄した。
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