第447話 練習タイム



「ふむ......妖猫殿......多分ケイの考えは違うのじゃ。恐らくもっとえぐい事を考えておる。」


『えーそうなの?ケイ君って意外と......いや、天狼の神子だと思えば納得できるかな。』


ナレアさんと妖猫様がなにやらこちらを見ながらひそひそと話している。

いや、完全に聞こえていますけどね......?

まぁ、えぐいこと考えていたことには違いありませんが。

後、母さんの神子なら納得って......母さん、昔どんな事を......。


「いや......そんなことはないですよ?」


俺は二人から視線を外しつつ答える。

どうしてこう......気まずい時って視線を逸らしちゃうのだろうね?

視線を逸らした先にはシャルが居て、こちらを見返していた。

シャルの視線は......うん、気まずくないな。

シャルなら引かずに、寧ろ誉めてくれそうな気がするからかな?

例えば......頭だけを固定したら意識は失うし、呼吸も止まるから死ぬよね......とか、胴体だけ固定したら血流が止まって脳死するよね......とか......そもそも首の辺りを一瞬でも固定すれば気絶するよねとか......うん......固定は人体には絶対に使わないでおこう。

弱体魔法並みに即死魔法だけど、弱体魔法と違って手加減が出来ない。


「何やらホッとしたような様子じゃが......。」


『どんなえげつない方法を考えたのか気になるねぇ。』


「いや......何も考えていないですよ?さて、練習練習っと......。」


俺は二人から離れる様にしながら空間魔法を発動させようとする。

む......確かに難しい......と言うか、イメージが定まらない。

そんな風に試行錯誤しながら魔法を発動させると......両掌サイズの氷のキューブが出来てしまった。

これは......間違いなく天地魔法だね。

空間を固定するというより凍らせただけだ......。


『あはは、なるほどー天地魔法が発動しちゃったかー。』


「固定しようとしたのですが......想像が凍結になっていたみたいです。」


ちょっと考えを切り替えよう。

俺の空間魔法のイメージは......球体の......地球儀のジグソーパズルだ。

固定は糊付け、歪曲は間を抜いて強引に別のピースを繋げる感じ、接続は......ピースを重ねる感じ......。

糊付け......いや、あれって横のピースと離れない様にするものであって、土台に固定する物じゃないよな......?

余計な事を考えたせいか、再び発動しようとした魔法は上手くいかなかった。


「む......難しい。」


「うむ......上手くいかんのう。」


俺だけではなくナレアさんも苦戦しているようだ。

他の魔法と違ってイメージし辛いよね......。

俺とナレアさんが唸っていると、妖猫様がごろごろしながらアドバイスをくれる。


『そうだねー、こんな風にやってみたらどうかな?』


妖猫様が尻尾を使って石を空中に投げてから空間を固定する。


『何もない空間を固定化させるより、最初は分かりやすい目標がある方がやり易いと思うよ。』


「なるほど......やってみます。」


俺は足元の石を拾い、軽く投げてから魔法を発動させようとして......集中出来ずに魔法を発動させる前に石が地面に落ちてしまう。


「これはこれで、素早い集中が必要と言うか......難しいですね。」


「ふむ......ではケイよ。妾がケイに向かって石を投げるのじゃ。そしてケイが固定を試し、次はその石をケイが妾の方に投げ返してくれれば妾が試すのじゃ。」


俺が失敗する様子を見ていたナレアさんが提案してくれる。


「交互に試すってことですね。」


「うむ。」


真上に自分で高く投げるよりは、相手に放物線を描くように投げてもらった方が発動するまでの準備をしっかりと出来るだろう。

後、普段よりも思考加速を強めにしよう......。

ナレアさんが放るように石を投げたのを確認して、俺は思考加速を強め......こちらに向かってくる石を固定しようと集中する。

妖猫様のアドバイスの通り......目標となる石がある方が集中しやすい気がする。

俺は飛んでくる石をその周りの空気ごと、ぎゅっと押し固めるようなイメージで魔法を発動させる。

すると、こちらに迫ってきていた石がピタッと空中で動きを止めた。


「お、おぉ......出来ましたね。」


「ほほ、一発じゃったな。因みにそれは解除したらその場に落ちるのかの?それとも先程の続きを飛んで行くのかの?」


「恐らく後者だと思いますが......解除してみますね。」


俺が固定化を解除すると、動画の一時停止を解除したかのように先程と同じ速度と角度でこちらに向かって石が飛んでくる。

飛んできた石をキャッチ......する直前でもう一度固定してみる。

今度は先程とは違い、強めの思考加速は無しでやってみたが問題なく固定化に成功する。


「ほほ、面白い動きじゃ。空中で止まっておったのに、魔法を解除したら何事も無かったかのように続きを飛んで行くとはの。」


「魔法はどれも不思議な感じがしますけど......空間魔法は一際不思議な感じですね。」


「うむ。他の魔法は自然にあるものを強化した印象じゃったが......こんなものは見たことがないのう。妾が知らぬだけでこういった自然現象もあるじゃろうか......?」


「少なくとも僕はこういう自然現象は知りませんね......。」


状態とか運動エネルギーとかを残したまま停止......でも、外から固定化された空間に触れようとすると通過することを許さない......か。

後で実験が必要だけど、盾としては最強かもしれないな。

まぁ、鉾としては即死が過ぎるので使わないけど......。


「それはそうと、ケイは二回目も中々素早く発動させることが出来た様じゃな?もう慣れたのかの?」


「一度上手く出来たら二回目からは簡単でした。コツがわかったというか......何かがしっくり嵌ったというか。」


「ふむ......妾も早い所発動させてみたいものじゃな。ケイよ、妾の方にその石を投げてくれるかの?」


「了解です。」


俺は目の前で止まっている石の固定化を解いてキャッチすると、ナレアさんの方に軽く石を投げ返す。

ナレアさんは石を睨みつける様に見ていたが、魔法を発動させることは出来ずに飛んできた石をキャッチする。


「むぅ......まだ妾には無理じゃったか......ケイはあっさりと成功させたと言うのに。」


ナレアさんが悔し気に呟く。


「あ、ナレアさん。少し思考加速を強めにしましょうか?僕、一回目に発動させたとき結構強めに思考加速を掛けたら上手くいったので。」


「む、ずるしたのかの?」


ナレアさんが若干恨みがましげにこちらを見てくる。


「いや、ずる......ですかねぇ?」


「ほほ、すまぬのじゃ。ずるではないのう。ケイの持っておる力じゃからな、便利に使ってこそじゃ。それに、普段から使い慣れておかねば咄嗟の時に使えぬからのう。」


「あはは、思考加速は緊急時にこそ力を発揮しますからね。今回は空間魔法を使う感覚を得る為ですし、思考加速を掛けて集中するのは悪くないと思いますよ。多分、一回発動させられたら思考加速を解いても同じ感覚で魔法を使えると思うので。」


「ふむ......そうじゃな。では、思考加速を掛けてもらえるかの?」


ナレアさんが石を俺に投げ返しながら頼んでくる。


「了解です。ある程度思考に着いて行けるように、身体強化も強めにするので気を付けて下さいね。


「了解したのじゃ。」


ナレアさんがしっかりと頷いたのを確認してから俺は合図をだす。


「それでは石を投げてから加速させるので、頑張って下さい。」


「うむ、ではまた後での。」


ナレアさんの返事と同時に俺は石を投げ、すぐにナレアさんに思考加速を掛ける

それにしても、また後で、か。

思考加速を掛けると体感時間が物凄く引き伸ばされるからな......周りの物がゆっくりになるというか......不思議な感覚だよね。

今回は少し強めに思考加速を掛けているから、俺達にとっての数秒がナレアさんには数分くらいに感じられると思う。

ナレアさんが同じ時間軸に戻って来た時......空間魔法が成功しているといいなぁ。


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