第130話 仲良くしようではないか
「一体どういう意味じゃ?そのお主が応龍ではないというのは。」
『そのままだ、私は応龍様ではない。応龍様の眷属のクレイドラゴンだ。』
自分を応龍様ではないと宣言したクレイドラゴンさんはそのまま説明を続ける。
何があって自分が応龍様の名前を騙ることになったのか。
龍王国の成り立ちや自分がここにいる理由、そして神獣という存在について。
『以上だ。今まで騙していてすまなかった。』
「いや、気にしないでくれ。それにお主自身が龍王国で信仰されている応龍であることに違いはない。妾が口を挟むことではないし、そこに敬意は持っておる。」
そこまで言ったナレアさんは考え込むように目を瞑る。
ナレアさんとしてはクレイドラゴンさんが何者であるかは大した問題ではないのだろう。
龍王国の人達にとっては大問題だろうが、俺とナレアさんだけしか知らないのであれば秘密が漏れる心配はほぼ皆無だし、そもそもそんなことに疑いを持つものがいるだろうか?
一般的には存在すると言われていても直接会うことが出来るのは巫女と龍王国の国王くらいなものだ。
会える、会ったことがあると言うだけで大問題だ。
「妾が加護を貰うことが出来ない理由は分かった。しかし何故妾にそれを話した?加護を与えることは出来ないと言うだけで良かったのではないか?」
『うむ......それについては......。』
クレイドラゴンさんがこちらに顔を向ける。
「僕から説明させてもらいます......いや、弁明ですかね?」
「ふむ?聞こう。」
ナレアさんがこちらに向きなおる。
俺がいなければナレアさんは魔法の事を知らなかっただろうが、今回クレイドラゴンさんが秘密を打ち明ける必要があったのは俺の為だ。
軽い秘密ではないし、何かしら恩返し出来ることはないか考えておこう。
「今回の依頼の件がとりあえず終わりを迎えたので、僕は近日中に応龍様の所に行くつもりです。その際に応龍様に加護を頂くようにお願いします。」
「......ふむ。」
「それで......その......。」
「うむ。」
改めて言おうとして気付いたけど......これってかなりかっこ悪いというか、酷い話じゃないだろうか?
嘘つくのが気まずいので国を揺るがしそうな秘密を暴露させましたって......今更ではあるが酷い話だ。
確かにナレアさんはこの事を言って回る様な人ではないが、巻き込んでしまっているのだ。
クレイドラゴンさんにもナレアさんにも思いっきり迷惑をかけている......本当に自分勝手で浅慮な行いだ。
......とはいえ、ここで言い淀むのもおかしいだろう、責めるのはナレアさんであり自責は意味のない行為だ。
「ナレアさんに不義理......いえ、嘘をつくのは気まずいので色々と無理を通してもらいました。ナレアさんが加護を貰えるかどうかは応龍様次第ですが、その場までナレアさんの話をもって行くことは僕の役目だと思います。魔法の事を教えたのも僕ですからね。」
「ほほ、自分が気まずいからと巻き込んだと?」
「えぇ、すみません。そうなります。」
「ほほ......少し調子が戻ったかの?うむ、そのくらいの方が小気味よいのじゃ。」
ナレアさんが嬉しそうに笑う。
「ケイは深く考えすぎじゃ。確かにこれは龍王国にとってはかなりの秘密ではある。じゃが妾にもケイにも関係なかろう。己の内に秘めておけばいいだけの話じゃ。そんなことよりも妾は魔法を使う可能性を残してもらえた方が嬉しいのじゃ。ありがとう、ケイ。」
「そう言ってもらえると助かります。」
「しかしこれで疑問に思っていたことが解けたのう。」
「疑問ですか?」
「うむ、実は応龍......いやクレイドラゴンか、その者の魔力についてな。」
「クレイドラゴンさんの魔力ですか?」
「妾がある程度魔力の量を計れるのは以前話したじゃろ?それでな......ケイやシャルに比べるとクレイドラゴンの魔力は少ないように感じてな。まぁ正確な量が分かるわけではないのじゃが多い少ないくらいはわかるのでな......それで、シャルは怒るかもしれないが、もしかしたらシャルが天狼なのではと思っていたくらいじゃ。」
あぁ、そういう事か。
眷属としてクレイドラゴンさんは下級で能力的にはファラと同じくらいってシャルが言っていたっけ。
下級の竜だったっけ......?
今神域の外にいる生物としてクレイドラゴンさんは破格なのだろうけど、それもシャルとは比べ物にならない感じみたいだ。
それを考えればナレアさんがシャルの事を母さんと間違えてもおかしくないのかな?
そういえば、シャルは影狼の族長の子供だったっけ?
それって眷属としてはどのくらいの序列なのだろう?
今まで気にしたこともなかったけど......母さんの所に戻る前に聞いてみるかな?
「なるほど。それはシャルとしては許しがたい誤解かもしれませんね......。」
肩に掴まっているシャルが物凄く不機嫌そうなので胸に抱きなおす。
シャルやクレイドラゴンさん達にとって、自分が仕える神獣様達は何よりも尊ぶものなのだと思う。
これを言ったのがナレアさんじゃなかったら、シャルが飛びかかっていただろうことは想像に難くない。
「うむ、だからシャルよ。思っただけとは言えすまぬ。お主の主を汚すつもりはなかったのじゃ。」
シャルに頭を下げるナレアさん。
『ケイ様、失礼いたします。』
そう言ったシャルが俺の腕から地面に飛び降りて少しだけ体を大きくする。
大型犬くらいかな......?
シャルはナレアさんを見上げ、ナレアさんはシャルに目を合わせる。
念話で会話をしているのだろう。
二人の邪魔をするわけにはいかないので少し後ろに下がり、クレイドラゴンさんに話しかける。
「ここから神域はそう遠くないと言っていましたけど、どのくらいかかるのですか?」
『神域までは私の背中に乗って頂ければすぐです。ここからでは見えませんがもう少し上の方にあります。』
「なるほど......今日すぐにと言うわけにはいきませんが、近いうちに連れて行ってもらいたいので宜しくお願いします。」
『はい!その時が来たら全身全霊を込めて送迎させて頂きます!』
そこまで気合込めなくてもいいのだけど......。
「あ、そうだ。クレイドラゴンさんに聞きたいことがあったのですが、ここから王都までヘネイさんに念話を届かせていますよね?ここまでの長距離の念話はどうやったら出来るのでしょうか?」
『これは魔道具の効果です。妖猫様の加護を込めた魔道具を使い彼我の距離を失くしているらしいです。妖猫様の加護ですので詳しい効果はわかりませんが、この魔道具を持っていると念話が届くので歴代の巫女に持たせています。』
そう言ってクレイドラゴンさんは口の中にある魔道具を見せてくれた。
胃収納......?
「なるほど......ありがとうございます。」
距離を失くすか......妖猫様の加護は優先して欲しいところだけど......応龍様なら妖猫様の神域の位置を知っているはずって母さんが言っていたし、次に向かうのは妖猫様の所にしよう。
俺が妖猫様の魔法に思いを馳せている間にナレアさん達の話は終わったようでこちらに近づいてくる。
「すまぬの。ついでにいい機会じゃったので、色々と話をさせてもらったのじゃ。」
『すみません、ケイ様。お時間を取らせました。』
「まぁ、これからはシャルとも話す機会が多くなるかもしれぬな。」
「そうなのですか?二人が仲良くなれたようで何よりです。」
俺がそう言うと二人は顔を見合わせる。
何となく二人とも不敵な雰囲気を醸し出している気がするけど......何か二人で企んでないよね?
『......神子様、アレはそういう感じなのでしょうか?』
二人の雰囲気に気圧されたのか、クレイドラゴンさんがどうやら俺だけに念話を飛ばしてきているようだ。
俺も何か不思議な感じは受けるけど......仲良きことは美しき哉、だよね?
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