第234話 これは〇〇の分!
「今まで俺の周りをこそこそと嗅ぎまわろうとしていた奴らよりはまぁまぁマシな動きだ。クソ猿。」
......猿呼ばわりが増えて来たけど、俺の事はクソ猿と呼ぶことにしたのか?
まぁ、物凄くどうでもいいんだけどさ。
「そうですか。そういう貴方は聞いていた程ではありませんね。」
「......口が動けば手足はいらねぇよな?その無駄に回る舌は残しておいてやるから感謝して死ね。」
いや、流石に死んだら喋られませんけどね。
それはともかく、そろそろ思いっきりぶん殴ってマナスと交代しようかな?
完全に倒しちゃうとまずいから強化魔法は少なめに、思考速度と体幹や敏捷性だけは削らない様にして......。
「てめぇらクソド田舎の人間は大して能力もないくせに俺の邪魔ばかりしやがって......とっとと馬鹿ガキどもを引き渡しておけば無駄に死ぬ必要もなかったのによぉ。」
「......檻の狙いはなんでしょうか?何故領主の息子たちを狙うのですか?」
「......勘違いしているようだから一つだけ教示してやる。あのガキどもの所有権は俺達にある。俺達が俺達の持ち物をどうしようがてめえらには関係ねぇだろ?」
「所有権とはまた......彼らの所有権は彼らにあるに決まっていると思いますが......馬鹿なのですか?」
所有権、ね。
成功例とかその辺りの話かな?
しかしあの二人を物扱いか......。
「てめぇごときには分かり得ねぇ話だったな。俺としたことが博愛精神に過ぎたぜ。まぁ、あの無能領主に仕えるような能無しじゃ高尚な俺の話についてこられるはずもないか。」
もうこいつに喋らせたくなくなって来たな。
情報は吸い上げる必要があるけど......ちょくちょく知り合いやその関係者を罵倒してくるのにイライラさせられる。
よし、四発......いや、五発殴ってマナスと交代しよう。
レギさん達を待たせすぎるのも悪いしね。
殴る五発の内訳は俺、母さん、カザン君、ノーラちゃん、カザン君のお父さんの分って所だ。
俺はナイフを腰に着けている鞘に戻すと手首をぶらぶらさせてストレッチを始める。
武器を収めた俺を見てアザル兵士長が怪訝そうな表情になった。
「なんだ?諦めたのか?話す気になったなら切り刻みながら聞いてやるぞ?」
話す気になった相手を切り刻んでどうする......。
......まぁ別に話すことはないけどさっ!
俺は一息にアザル兵士長に近づくと左手を相手の顔の前で広げる。
俺の急接近と目の前に広げられた手に驚いたアザル兵士長が咄嗟に後ろに下がろうとした所を右手で打ち抜く。
「っ!?」
あまり力は込めていない。
頬を軽く叩いた程度なものだ。
アザル兵士長も一瞬驚いた後、憤怒の表情を見せるがダメージは感じられない。
これは俺の分。
おちょくる様な一撃が俺の仕返しには丁度いい。
「このクソ猿が......舐めた真似してくれるじゃねぇか。」
「貴方は覚えていないと思いますが......今のは数年前の俺の仕返し分です。ちょっと隙だらけだったんで軽く入れさせてもらいました。」
「数年前だ?何訳の分からないことを言ってやがる?イカレたか?」
「数年前、俺は西方にいたんでね。その時、貴方に酷い目に合わされているのですよ。」
「はっ!カラリトの手の者かと思ったが......わざわざ俺を追いかけてこんな辺境くんだりまできたってことかよ?」
「いえ?違いますよ?わざわざ貴方なんか探すわけないじゃないですか。偶々見かけたからついでに軽く殴っておいただけですよ。檻に見捨てられた貴方にそんな価値はないでしょう?ただの物のついでですよ。」
「この俺が!見捨てられるわけがないだろうが!」
檻に見捨てられたって口にした瞬間、今までにない形相になったアザル兵士長が叫び声を上げる。
「いやいや、いくら組織が寛容であっても無能に掛ける時間はありませんよ。」
「......もういい。お前は死ね。」
一欠けらも感情を感じさせない声で呟いたアザル兵士長が俺に急接近して......次の瞬間、腹を抑えて悶絶する。
まっすぐ突っ込んできたアザル兵士長の鳩尾にカウンターで俺の左拳がねじ込まれたのだ。
「いきなり突っ込んできたら危ないですよ?」
「っ!て、てめっ......!」
ちゃんと呼吸が出来ないらしいアザル兵士長だったが、変な呼吸音を出しながらこちらを見上げてくる。
倒れはしていないけど、身体をくの字に曲げて非常に苦しそうだ。
肩をすくめる俺を忌々し気に睨みながら取り落とさなかった剣を横薙ぎにしてくる。
その手首を左手で掴んで攻撃を止めた俺は今度は右拳を鳩尾に叩き込む。
「っ!?」
アザル兵士長が悲鳴を上げる暇もなく、さらにもう一撃、右拳を鳩尾にねじ込み今度は吹き飛ばす様に打ち抜く。
その勢いに押され後ろに下がったアザル兵士長が悶絶している。
これでカザン君達の分は完了、と。
呼吸も出来ていないアザル兵士長は口から涎を垂らしながら、しかし膝を折ることはせず、多少覚束ない足取りで俺か少し距離を取る。
まぁ、今は追撃しませんけどね?
やがて息を整えたアザル兵士長が忌々し気にこちらを睨んできた。
「何のつもりだ......なんで追撃を仕掛けてこなかった。」
最後の一発はしっかり回復してから入れないと、微妙に意識が朦朧としている所に叩き込んでもな......。
しっかりとその身に叩き込んでおかないとね。
......陰湿かなぁ?
陰湿だよねぇ。
残りの一発は母さんの分だけど......別に気にする必要はないって母さんは言っていた。
言ってはいたけど......うーん、そう考えるとこれは母さんの為って言うよりも俺の為ってことか......?
「うーん、我ながら性格悪いなぁとは思うけど......まぁそれだけの事をしたってことで、納得してもらいたいですね。」
因果応報ってやつだよね。
まぁ、その理屈で行くと俺も碌な目に合わないってことになるのだけどさ......。
「ちっ!そう言えばイカレてやがったか。話がかみ合わねぇ。クソ虫が。」
まぁそれは会話をする気が無いからだけど......猿から拙速動物になったな。
いや、何度か蠅とか言われていた気もするけど。
まぁ......俺が何と言われようと別にどうでもいい。
そんなことに意味はないのだから。
「檻についての質問に応えてくれるのであれば、ちゃんと会話しますけど?」
「俺が聞いて、てめぇが答える。それ以外は必要ねぇ。」
会話にならないのはお互い様だね。
それにしても、もうさっきのダメージから立ち直ったみたいだね。
手加減はしたけど、中々回復が早い。
それに先ほど殆ど抵抗できずに三発叩き込まれたにもかかわらず、もう元の態度に戻っている......メンタルの回復速度も驚異的だね。
まぁそれはいいか、後一発......もう一回鳩尾に叩き込んでマナスと交代しよう。
俺はかかってこいと言う様に手招きのジェスチャーをする。
先程までのアザル兵士長であれば激昂していたところだけど、今は少し離れた位置で......表情は非常に御立腹と言った感じではあるものの......慎重にこちらの動きを窺っている。
かなり拳を叩きこんだからな......随分警戒されたみたいだね。
とは言え、こっちは待っている人が沢山いるし、あまり時間をかけて心配させるのも悪いからな......私用はとっとと終わらせよう。
制限していた強化魔法を少しだけ解放して......同時に先ほどまでとは比べ物にならない速度でアザル兵士長に接近する。
「あ?」
突然目の前に現れた俺に呆気にとられたような呆けた声を上げるアザル兵士長。
その顎を掌底でかちあげてのけぞらせ、無防備にさらされる鳩尾に回し蹴りを叩きこむ!
吹き飛んでいくアザル兵士長を見送り、視線を自分の掌に向ける。
うっかりと言うか、ノリと言うか......勢い余って二発叩き込んじゃったけど......うん、度重なる罵倒への仕返しということで勘弁してもらおう。
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