第513話 その一撃は



View of ナレア


一度不意を撃たれ怪我をした後のケイは......なんというか、凄まじいとしか表現できなかった。

少し前までの、攻めあぐねていた感じはなんじゃったと問いたいくらいに敵を圧倒している。

妾はずっと感じていた不安な気持ちが霧散していくのを感じた。

というか......まぁ......なんじゃ?

あのように雄々しく戦うケイが......なんというか......あれじゃ。

......格好いい......とか......?


「あはは、ナレアちゃんがすっかりケイ君に見惚れてるなー。」


「な、何を言っておるのじゃ!今はそのような時では無いのじゃ!」


「いやー大丈夫、大丈夫だよナレアちゃん。今のケイ君は物凄く安心して見ていられるし、すっごく格好いいよね!」


「ま、まぁ......先程までに比べたら、かなりマシじゃろうな?」


にやにやと厭らしい笑みを浮かべているリィリから視線を外し、死闘を繰り広げているケイを見る。

危なっかしさを一切感じさせず敵を圧倒していくケイ。

その表情は引き締まっておるが、焦燥は感じさせず......寧ろ余裕さえうかがえる。


「いいよねぇー、普段と全然違うっていうか......普段のケイ君は基本的に穏やかで可愛い感じだけど、あんな風にキリっとしてるっていうか、猛々しいっていうか、獰猛っていうか......。」


「......普段と違う様子なのは確かじゃな。まぁ、偶にはあんな感じも悪くないかもしれぬのう。」


キリっとしたというか......普段でも真面目な表情に急に変わったりすることはままあるが......あの目で見られると中々ドキっとするのじゃ。

ま、まぁ、今の感じも悪くはないがの?


「あー、なるほど。ナレアちゃんはあんな感じのケイ君に迫られたいのかー。」


「なんじゃそれは!?先程から頭の中どうなっておるのじゃ!?」


「普通だよー。」


「普通が異常じゃ!」


「いったー。」


色ボケが加速しておるリィリの額に一撃いれた妾はケイに視線を戻す。


「ケイの様子から安心する気持ちは分からないでもないが、ここはダンジョンだ。あまり油断するな。」


レギ殿の言う通りじゃ。

それにあのボスはそんなに油断出来る相手ではない。

いつでも飛び出せるようにしておかねば......そう思い気を引き締めたところで、ボスが途轍もなく巨大な一撃を放った。

しかし、それと対峙するケイの表情は何の問題も無い攻撃だとでも言っておるようで......そこから先はあっという間の出来事じゃった。

妾達の視線の先で二度目となる雷撃が走り、それを予想出来ていなかったら妾達は目が眩んでしまった。




View of ケイ


雷撃を放った後、俺は短剣を突き出したまま動きを止めていた。

強化魔法により光量調整をしっかりとしていたおかげで、電撃を喰らったボスが今度はどうなったかをちゃんと見ることが出来た。

俺が身体を貫いた短剣から電撃を放った瞬間、ボスの体の中に気泡の様な物が浮かんだかと思うと、ボスの身体が一気に破裂、さらに次の瞬間魔力の霧へと還っていった。

なんともあっさりとした幕引きだったように感じる。

そして、ボスを討伐したことによりダンジョン全体が鳴動するかのように震えだした。

これでダンジョン攻略は完了だ......変なことに使われてしまった母さんの魔力も......回収したわけでは無いけど、スッキリは出来た。

スッキリしたのはいいのだけど......問題がある。

これから俺は、確実に怒られる。

ナレアさんと......シャルに物凄く......レギさんからは軽く小言を言われたあと苦笑されるかな?

リィリさんは......心配そうな顔をした後、笑ってくれるだろう。

グルフとマナスからは甘えられて......ファラからは心配そうに見られるかもしれない。

俺はこちらに近づいてくる足音を聞きながらそんなことを考えていた。




View of ナレア


妾達の視界が元に戻ってすぐにダンジョンが震え始めた。

どうやらケイは無事にダンジョンの攻略を成し得たようじゃな。

単独でボスと戦うような阿呆は......世界広しと言えどもケイくらいのものじゃろうな。

まぁ、妾達であれば普通のダンジョンのボスくらいは単独撃破出来るやも知れぬが......。

そんなことを考えているとダンジョンの震えが大きくなって来た。

後はダンジョンの魔力が霧散して終わりという所じゃが......ふむ、このダンジョンからはどのくらい魔晶石が取れるものかのう?

キオルの奴は比較的若いダンジョンと言っておったが、ダンジョンが出来た直後にキオルが見つけたとは思えぬ......まぁ、それでも五年は経っておらぬじゃろうな。

本来であれば長い年月を掛けねば大した量の魔晶石は採れぬが......このダンジョンは異質じゃからな。

魔晶石が生成される条件が時間なのか、それともダンジョンに蔓延する魔力量なのかによって話は変わりそうじゃ。

妾の予想では......数は少ないが純度の高い魔晶石が得られるのではないか、といったところじゃな。

大規模ダンジョンの方が小規模ダンジョンよりもとれる魔晶石が多く、質が良い。

広さが違うのじゃから数は仕方ないにしても、質の良さは広さとは関係ない筈じゃ。

大規模ダンジョンは小規模ダンジョンに比べてボスや魔物が強い傾向にある。

そして今回の件を鑑みるに、魔物の強さはボスの持つ魔力の量に比例して強くなると推測でき、恐らく魔晶石の質はそこに比例するのじゃろう。

まぁ、大規模ダンジョンで得られる魔晶石の全てが高純度の魔晶石と言う訳ではないが、質が良い物が多いのは確かじゃ。

このダンジョンのボスや魔物の強さは大規模ダンジョンのそれを遥かに上回っておることから、魔晶石の質は期待してもいいじゃろう。

っと、今はそんな事どうでもいいのじゃ......それよりも今はケイじゃな。

妾は逸る気持ちを抑えながら、ゆっくりとケイの方に歩を進める。

いや、別に駆け寄っても良いのじゃが......リィリのニヤニヤ顔が頭をちらつくのじゃ。

そんな訳で、リィリ達と歩調を合わせてケイに近づいておったのじゃが......何故ケイは短剣を振り上げたままなのじゃ?

妾が疑問に思うとほぼ同時に、横にいたシャルがケイの元に飛び出した!

一瞬遅れて妾も駆け出し、レギ殿とリィリも異変に気付いたようで後に続いた。


「ケイ!どうしたのじゃ!?」


近づくまで気づかなかったのじゃが、ケイの身体から何やら煙のようなものが出ておる。

一体何があったのじゃ!?

妾が声を掛けるも、ケイからは返事がない......気絶しておるのか!?

ボスからの攻撃を受けた様子は無かった......だとすると原因は......。


「ナレアちゃん!この煙、多分あれだよ!応龍様の神域でケイ君が戦った時に!」


リィリの言葉で、以前応龍の所でやった模擬戦を思い出す。

確かにケイが雷で黒い龍を倒した後、身体から煙が出ておって慌ててケイが治療しておった......あれと同じということか!


「つまり自分自身も雷を浴びたと言う訳じゃな!?」


妾は急ぎケイを地面に寝かせると、全力で回復魔法を掛ける!

脈はまだある......!

まだ間に合うはずじゃ!


「すまん!ナレア。俺は回復魔法が上手く使えねぇ!」


「......大丈夫じゃ!妾が絶対に治してみせる!」


レギ殿の悲痛な声に妾は魔法を緩めることなく応える。

見た感じ、やけどの様な跡もある......雷による怪我のはずじゃが......どのような怪我なのかよく分からぬ。

もう少しケイに雷について聞いておくべきじゃったか......ケイ自身もそこまで詳しいわけでは無いと避けておったから......じゃが、あやふやな物でも強引に聞き出しておくべきじゃった!

それにしても、ケイが自身の攻撃でここまでの状態になるとは思っていなかったのじゃろうか?

それともこうして倒れることも織り込み済み......?

じゃとしたら、何らかの対策はしておるかの......?

まぁ......今の所何も効果は出ておらぬようじゃが......対策してこの損傷だとすると......笑えぬのう。

そんなことを考えながら治療を続けたところ、ケイの瞼がゆっくりと開かれた。


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