第450話 旅の目的



神域を出てすぐ、ファラは大河の北側の情報網を構築するために旅立ち、俺達は王都に戻る為に南下を始めた。

まぁ、すぐ大河があるからこれを渡らないといけないのだけど......。


「帰りは渡し舟とかでのんびり大河を渡りましょうか?グルフは幻惑魔法で姿を隠して。」


「ふむ?別に構わぬが......。」


行きの時のようにシャルとナレアさんに詰め寄られる展開を避けたかった俺は、船を使う案で行こうと提案する。


「本当は空間魔法で帰りたかったのですけどね。」


「接続は難しいみたいじゃからのう。妾はとっかかりすら得られなんだが。」


加護を貰うまでは空間転移で行きたい場所へ自由自在、とか考えていたのだけど......そうは問屋が卸さなかった。


「難しいですね......時間をかければ辛うじて視界内への接続は出来るようになりましたが......流石に大河の向こう側までは行けそうにないです。最初は王都までスパッと転移出来れば......とか考えていたのですが。」


「ほほ、厳しそうじゃのう。」


「えぇ......とりあえず、視界内であれば一瞬で自在に接続できるようになることが目標ですね。視界外への接続はその次......これが出来る様になればグラニダにも簡単に遊びに行けるようになると思うのですが。」


「ふむ......妾は空間魔法と聞いてもあまりピンと来ておらなんだが......ケイはそんなことを考えておったのじゃな。空間を操るという概念を知っておったのかの?」


ナレアさんが興味深そうに聞いてくるけど......知っていたというか......。


「うーん、創作物の中でって感じですね。元居た世界にそういう技術とか魔法の創作物がよくあったのですよ。」


「なるほどのぅ。」


「まぁ、僕の想像していた物とは少し違いましたが......空間を操るという事を考えれば、習熟すればいつか創作物の内容を現実に出来るかもしれませんし、頑張ってみたいと思います。」


「ほほ、新しい使い方を発見出来れば妖猫殿も喜ぶじゃろうな。」


「そうですね。頑張ってみます。」


一個、魔法ではないけど......魔道具の案で思いついた物がある。

空間接続を魔道具で出来ないだろうか、というものだ。

空間接続の対になる魔道具でもいいし、接続先だけ魔道具で補助して魔法で接続するのでもいい気がする。

接続先の把握というか起点となる場所を魔道具に補助してもらえば今の俺でも遠距離の空間接続も出来そうな気がする。

まぁ、遺跡から発掘された魔道具でありそうな気はするけどね。


「しかし、これでケイの旅も終わりかのう?」


「え?」


「ん?」


旅は終わりと言われて思わずナレアさんを見てしまったら、ナレアさんもこちらをキョトンとした表情で見返してきた。


「何かおかしい事を言ったかの?」


「あ、いえ......そういえば、母さんのお使いと、神獣様から加護を貰うという目的は両方とも果たしたので終わりと言えなくもないですね。」


そうか......今まで旅をしてきた目的自体は果たしてしまったのか。

俺はシャルの背中に揺られながら少しぼーっとしてしまう。

残っているのは元の世界にいる両親への連絡......これには今よりもレベルの高い魔法......空間魔法の習熟が必須だけど、必要なのは練習であって旅をする必要は無い。

まぁ、今考えている方法が上手くいかなかった場合、別の手段を考えないといけないし......今の所何も思いつかないけど......。

でも、何にせよ......今の旅の目的は果たしたと言える。


「えっと......ナレアさん。」


「どうかしたかの?随分と変な顔をしておるが。」


変な顔......なのだろうか?

いや、多分そうなのだろう。

分かっていたことのはずなのに、旅の終わりを告げられて動揺しているのだ。

突然でも何でもない......旅の目的は最初から皆に言っていたし、妖猫様の所が最後の訪問地だと理解していた。

それにもかかわらず俺が動揺しているのは......。


「あー、ナレアさんはこれからどうするとか決めていますか?」


「ほほ、特に決めておらぬが......ケイよ。」


「なんでしょうか?」


ナレアさんが複雑な表情でこちらを見て来ている。

ニヤニヤしているような、呆れているような、それでいて優しくこちらを見ているような......若干拗ねているような。


「少し卑屈が過ぎるのではないかの?あの時ケイは妾になんと言ったかの?」


「あの時と言うと......。」


「城での話じゃ。」


城......っていうと......あ......。


「妾を一人にしないと言っておきながら、どういう了見かのう?」


「う......。」


俺が何を考えていたのか完全にばれている......。

旅の終わり......俺が旅をする目的はもうないわけだけど、ナレアさんがそれに付き合う必要は無い。

元々ナレアさんは各地を旅していた訳で、俺の旅に付き合ってくれていたのはナレアさんの善意や好奇心によるものだ。

俺の目的を果たした以上、ナレアさんは一緒に旅をする理由はないのではないだろうか?

そんなことを考えてしまったのだが......俺はあの時ナレアさんの事を一人にしないと言った。

それにも関わらず、俺はくだらないことを考えてしまった......自分で言っておきながら本当に無責任過ぎる態度だ。


「すみません。あの時言ったことは僕の本心ですが......。」


「......はぁ。」


ナレアさんに深くため息をつかれてしまった。


「まぁ、確かに......あの時、妾はケイのように言いはしなかったがの。それでも、もう少し信用してくれてもいいじゃろ?」


「すみません......。」


ナレアさんから視線を外してシャルの背中に目を落とす。

ナレアさんの事を信じていなかったわけではないけど......不安が全くなかったわけじゃないというか......うぅ、信じ切れていなかったという事になるよね。

俺が気落ちしていると、頭をぽんぽんと叩かれた。

頭を上げると先程よりも傍を飛んでいるナレアさんが俺の頭を撫でている。


「ケイ。安心して欲しいのじゃ。妾はケイから離れるつもりはない。ケイが妾を嫌がらぬ限り......いや、今の気持ちとしては、嫌がられてもおるかも知れぬのう。」


そう言いながら柔らかく笑うナレアさん。

ナレアさんの事を嫌うって事はないと思うけど......いや、ナレアさんもそう言ってくれているのか。


「ありがとうございます、余計な事を考えていたみたいです。」


「うむ。まぁ、まだ口約束だけじゃからな。不安に思う気持ちを分からないでもないのじゃが......。」


『ケイ様。例え、ケイ様が全ての目的を果たし終えようとも、私はいつまでもケイ様のお傍にいます。』


ナレアさんがこちらを見ながら小さな声で何かを言ったのだが、シャルの声で良く聞き取ることが出来なかった。


「うん、ありがとうシャル。それにマナスもね。」


俺はシャルの背中、そしてマナスの体を撫でるとナレアさんの方を見る。


「確かに旅の目的は一通り果たしましたけど......旅を終わりにする必要はないですよね?ナレアさんは勿論、シャル達も一緒に来てくれますし......まだまだ見た事のない場所は沢山ありますしね。」


「......そうじゃな。ケイに案内したい場所は魔道国内だけでも相当あるし......大陸中となれば妾も知らぬ場所の方が多いじゃろう。そういった場所をケイと巡り......遺跡を探すのも楽しそうじゃ。」


何故か若干拗ねた様な表情だったナレアさんだが、まだ見ぬ遺跡に思いを馳せたのか途中から表情がキラキラしだした。


「レギさんとリィリさんも来てくれますかねぇ?」


「......ケイは本当に卑屈じゃな。レギ殿達がケイの目的に手を貸す為だけに一緒に居ると思っておるのかの?」


「い、いえ......えっと......放っておけないから付き合ってくれている的な......?」


俺がそう言うとナレアさんはまた深いため息をつく。


「それもあるじゃろうが......それはつまりケイの事を好いておるからじゃろう?いくらレギ殿が面倒見のいい人物じゃと言っても、どうでもいい相手の旅にわざわざ付き合ったりはせぬのじゃ。レギ殿達はケイと一緒に旅をしたいと考えたからこそ一緒に居る。先ほども言ったと思うが......もう少し仲間を信用するのじゃ。」


「う......すみません。」


......さっきから同じことで何度も怒られていて......情けないな。


「レギ殿達は後で誘えばいいのじゃ。目的は果たせたのじゃが、適当に旅を続けようと思うが一緒にくるかの?とな。」


「......そうですね。口調はともかくそんな風に誘うのが一番ですね。」


俺はそう言ってナレアさんに笑いかけるが......ナレアさんが半眼になってこちらを見返してくる。


「妾の口調に何か問題があったかの?」


「あ、いえ......そういうことでは......僕の口調とはちょっと違うかなってだけです!」


「......ほぅ?」


「えっと......僕はナレアさんの口調が好きですよ?」


「......ふん。妾は普通じゃ。」


若干頬を赤くしたナレアさんが口を尖らせながら言うのを見つつ、俺達は近場の港まで比較的ゆっくりと進んでいった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る