第211話 宙で回る
うーん、困った。
この状況......どうしたらいいのだろうか?
俺は現在セラン家の庭でトールキン衛士長と対峙している。
何故こんな状況になったかと言うと......セラン卿がこちらの実力を実際に見てみたいと言ったのだ。
まぁ、それ自体は理解できるのだけど......こういうのはレギさんの方が得意だと思うのだけどな......。
とりあえず皆から強化魔法以外は禁止されている。
カザン君達だけならともかく、この国の上層部の方々に魔法を見せるのは良くないと言われたのだ。
カザン君もその事を理解してくれたのでその点は問題なさそうだけど......今までの対人戦みたいにぱっと飛び込んで一気に意識を刈り取る......のはダメな気がする。
とりあえずあまり力を籠めない程度に戦ってみるかな?
「それでは、両者準備はよろしいかな?」
「はい。」
「大丈夫です。」
エルファン卿が俺達の間に立ち声を掛けてくる。
流石に今回はノーラちゃんの号令と言う訳にはいかないよね......。
「それでは......始め!」
エルファン卿の号令に従い、訓練用に刃を潰したナイフを構える。
対峙しているトールキン衛士長は......槍を構えている。
そんなに長い槍じゃないけど......リーチに差がありすぎるね。
っていうかこうやって武器を構えて対峙しているのに、トールキン衛士長は全然存在感を感じさせないな......。
そして、トールキン衛士長も俺も武器を構えただけでそれ以上の動きがない。
これは......トールキン衛士長が俺と同じ戦い方をする人なのか......俺の戦い方を知っているのか......どちらだろうか。
......うん、トールキン衛士長の考えは全く読めない......というか読み合いとかだと勝てる気がしないな。
よし、今回はこちらから攻めよう......。
俺は意を決して無防備にトールキンさんに近づいていく。
トールキン衛士長は全く表情を変えずに俺の事を見据えている。
物凄く観察されている感じが......やりにくいな......。
でもここで怯んでいても仕方がない......後二歩でトールキンさんの攻撃圏内に入る。
間合いに入ると同時に......一気に回り込んで......!
そんなプランを考えていた所でトールキン衛士長が一歩踏み込んで先手を取ってきた。
鋭く突き出された槍を避けつつ間合いを詰める。
初撃を躱されたトールキン衛士長が石突を振り回して追撃をしてくるが、俺は既にその軌道の内側に入っている。
ほんの一瞬だけ顔を歪めたトールキン衛士長だったがすぐに槍を手放し、腰に差しているナイフに手を伸ばす。
俺はその手を狙って蹴りを放つ。
咄嗟に半身を引いたトールキン衛士長が俺の蹴りを避けようとして......錐もみしながら吹き飛んでいく。
......え?
View of レギ
あー、やりやがった......。
ケイの蹴りが当たったようには見えなかったが......錐もみしながら吹っ飛んでいくトールキン衛士長。
「ぼーっとするな、ケイ!トールキン衛士長を受け止めろ!」
俺の声に我を取り戻したケイが慌ててトールキン衛士長を追いかける。
思考の加速化ってやつをしておいてもらって良かったな......いざとなったら止めに入れるように、いつも模擬戦の時は見ている側も強化魔法をかけてもらっていたが......流石にあんな風に吹き飛んでいった人を助けるのは俺の位置からでは不自然過ぎる。
幸い放物線を描くように飛んでいるからケイならぎりぎり追いついても不自然って程じゃない。
不自然じゃないんだが......ケイ、慌て過ぎて速すぎるぞ......。
まだトールキン衛士長は吹き飛んでいる最中だというのに、ケイはもう落下地点に回り込んでしまっている。
とりあえず俺は隣にいるセラン卿への解説をすると言う名目なのだが......いや、こんなこと説明出来ねぇよ......。
「なぁ!?」
顎を外さんばかりに大口を開けたセラン卿から声が漏れる。
この驚きは......どれだ?
ケイがトールキン衛士長を吹き飛ばしたことか?
飛んでいくトールキン衛士長を追い越して落下地点に滑り込んだことか?
それとも、飛んでくるトールキン衛士長を空中で受け止めて見事二の足で着地を決めたケイの事か?
もう少しちゃんと手加減しろよ......。
俺はリィリやナレアの方を見る。
説明代わって......くれねぇな......あいつらはそういう奴らだ。
二人してこっちを見ていたはずなのにスッと目線を逸らしやがった。
カザンに任せるのは......流石に悪いな。
「れ、レギ殿!?い、今のは一体!?」
「......ケイは身体能力を向上させる魔道具を使用していたみたいですね。少し気合を入れ過ぎたようです。」
「ま、魔道具!?あれ程凄い効果の魔道具を持っておられるのか!?」
......しまった。
俺は俺で少し感覚が狂ってるか?
魔道具は切り札で模擬戦で使用する奴は普通いない。
「......えぇ、と言っても西方の遺跡で見つけた一品物ですので......。」
「む、そうですか。量産出来るようでしたら是非お願いしたかったのですが。」
「申し訳ありません。」
まぁ、そう考えるよな?
今ケイが見せた動きは魔道具でどうこう出来るものじゃない。
それを見たセラン卿が欲しがるのは......この状況でなかったとしても当然だろうな。
うっかり魔道具と言ってしまったのは俺の失敗だが......アイツらと過ごすようになってから俺も少し毒されているみたいだな。
慎重さに欠ける物言いだった。
だが......まぁ魔道具以外で説明つかねぇよな?
「カザンから皆さんの腕前は聞いて理解しているつもりでしたが......想像の上を行かれましたな。」
「はは、驚いてもらえたなら良かったです。」
カザンも色々と俺達の事を秘密にしながら説明してくれているみたいだな。
「そ、それまで!」
放心していたエルファン卿が我に戻ったようで模擬戦の終了を宣言する。
トールキン衛士長を地面に下ろしたケイが平謝りをしているな。
流石のトールキン衛士長も驚いたような表情をしているが......そりゃそうだろう。
恐らくトールキン衛士長の手甲にケイの蹴りが少し引っかかったとかで吹き飛ばされたんだろうな。
俺と同じく二人を観察していたセンザ卿が軽い笑い声をあげる。
「ははっ、これは珍しいものを見ることが出来たな。トールキン衛士長の驚いた顔など十年以上の付き合いだが見たことが無かったぞ!」
「トールキン衛士長は動じなさそうですからね。」
「人間であったことを確認できて何よりだ。内心古代のゴーレムではないかと思っていた所でな。何分あやつ、出会った時から見た目が変わっていないからな。」
トールキン衛士長は見た目二十代半ばって感じだったが、十年以上も見た目が変わらないってことは......実年齢はいくつなんだ?
「まぁトールキン衛士長の話は今は良い。ケイ殿の強さはとても心強いですな。あれほどの強さであればアザル兵士長とも戦えるかもしれませんな。」
......ケイのあの動きを見て戦えるかもしれない?
「アザル兵士長とはそれほどの強さなのですか?」
「私は直接見たことないのですが......トールキン衛士長の話ではダンジョンのボスとも渡り合えるほどの強さだと聞いています。」
「単独で、でしょうか?」
それは人間離れしすぎだろ?
小規模のダンジョンであったとしても、普通の人間では単独でダンジョンのボスと戦うのは自殺行為以外の何物でもない。
「いえ、流石にそこまででは......ただダンジョンの攻略時にボスの正面に立ち戦っていたのは確かだそうです。」
「なるほど......。」
想像していたよりも腕の立つ人物のようだな......昨日トールキン衛士長に貰った資料を確認しておかないとな。
たしかトールキン衛士長もアザル兵士長は俺達の想像を絶する強さだと言っていたが......後でケイと直接やり合ってみた感想を聞いておいた方が良さそうだな。
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