第487話 取引成立
「この魔晶石の効果は......まぁ、言うまでもないじゃろ?」
「......。」
握りしめていた魔晶石を一つ一つゆっくりとテーブルの上に並べながらナレアさんが笑う。
「妾とリィリ以外......ケイとレギ殿は流石に古代の魔道具を自力で起動するのは厳しいからのう。この魔晶石のお陰で戦えておると言う訳じゃ。」
「......道理で、あちらのお馬鹿さん達が負けるわけですね。魔道具の開発能力もさることながら、多くの遺跡を探索して来たナレア様であれば私達よりも多くの魔道具を保持していて当然でしょうし......。」
テーブルの上に置いてある魔晶石を凝視しながらキオルは言う。
デリータさんに初めて神域産の魔晶石を見せた時の反応も凄かったけど......その中に込められた魔力についても知っているキオルにとってはそれ以上の意味があるのだろうね。
まぁ、中に入っている魔力は神獣様達の魔力じゃなくって俺の魔力だけど。
「お主は神の魔力を無くなる気配がないと言っておったが......本当に減っておらぬわけでは無かろう?」
「えぇ、勿論です。我々からすれば無限とも思える程の魔力ではありますが、流石に数年の実験や魔道具で使用することで多少は減っております。今のままの使用量なら向こう十年は問題ないと思いますが......。」
「これからの実験次第では使用量が増えるじゃろうな。補充の出来ない魔力に怯えながら研究を進めるかの?」
「そう簡単に尽きるとは思えませんが......確かに消耗品であることは間違いありません。」
一瞬たりともナレアさんの並べた魔晶石から目を離さずに話を続けるキオル。
「どうじゃ?お主の持つ神の魔力の全て、それと引き換えに妾達はこの魔晶石を提供しよう。」
「......いくつか疑問があります。」
「ふむ、なんじゃ?」
そこで初めて魔晶石から視線を外しキオルがナレアさんの方を見る。
「一番大事な事ですが......この魔晶石の供給は、望めば望んだだけ頂けるのですか?」
「流石に無限にと言う訳には行かぬが、お主の必要な量を満たすことは可能じゃ。良からぬことに使えばその限りではないがの。」
「えぇ、実験と......必要な太古の魔道具を起動する目的以外では使わないと約束しましょう。」
「ふむ......魔道具の起動については少し話し合いが必要かもしれぬが......少しだけ安心させてやるとするのじゃ。」
そう言ってナレアさんは懐から革袋を取り出すと中身をテーブルに広げる。
勿論その中身は俺の魔力が詰まった魔晶石だ。
「こ、これほどの量をお持ちなのですか!?」
「供給は問題ないと言ったじゃろ?十分安心できる量じゃと思うが?」
「えぇ......これだけの量......間違いなく私の持っている神の魔力よりも総量は多いでしょう。」
母さんから奪った魔力はほんの少しって話だったからな。
コツコツ増やした俺の魔力入り魔晶石の方が量は勝っているようだ。
「しかし、こうなってくると尚更理解できませんね......何故私の持つ神の魔力が必要なのですか?どう考えても私の保有する神の魔力以上の魔力量を保持しているようですが。」
「なに、簡単な話じゃ。妾達の目的はお主の持っている神の魔力、それを取り戻すことじゃからな。」
「取り戻すことが目的......今、取り戻すとおっしゃいましたか?」
「うむ、そうじゃ。お主の奪った魔力、それは天狼の魔力であろう?」
キオルの表情が驚きに染まりながらも頷く。
「そこまで御存知でしたか......。」
「神の関係者から言われて、天狼の奪われた魔力を取り戻すことが妾の目的じゃったからの。」
「神の関係者に言われて......?もしや、龍王国で我々の襲撃を防いだのは。」
「あぁ、その時は応龍から直々に依頼を受けておってな。その関係から、魔力を奪った不届き者から魔力を奪還するように頼まれておってのう。」
「......そう言う事でしたか......。しかし魔力を奪還するのに私にその魔力を別の形で渡してしまって良いのですか?」
「ほほ。問題ないのじゃ。妾が頼まれておるのは天狼の魔力を取り戻すことだけじゃからな。別に代替品を渡してはいけないという事ではないのじゃ。」
「それは......いいのでしょうか?」
「奪われたことが面白くないだけじゃからな。天狼の魔力を外に出すのは危険とか、そういった高尚な理由があるわけでは無いのじゃ。」
ちょっと胸にグサッときた。
まぁ、確かにそうなのですけどね?
でもストレートに言われると結構心に刺さりますよ?
「なるほど......中々面倒くさそうな相手から依頼を受けたようですね。」
「全くじゃ。」
......俺は話している二人から視線を逸らす。
その先にはシャルが居たのだけど......気のせいか、冷たい視線で見られたような......。
普段であれば俺が貶されるようなことがあれば怒り心頭って感じなのに!?
寧ろ同意しているような......。
「まぁ、その関係者とやらの話はどうでもいいですね。供給量や理由も理解出来た事ですし、神の魔力についても取引を受け入れさせて頂きたいと思います。」
「うむ。一先ず魔晶石を十程渡しておくのじゃ。足りるじゃろ?」
「えぇ。十分です。神の魔力は、私の手持ちはこちらに。後は向こうの二人が持っている分と、研究用の物が別の場所に保管されているので後ほど取りにいきましょう。後は定期連絡の手段を決める必要がありますね......。」
取引が成立して母さんの魔力を取り戻すことが出来たようだ。
俺は殆ど何もしていないけど......ナレアさんに後でお礼を言わないとな。
まだナレアさんは今後についてあれこれ話をしているけど......この件については一先ず終わりだろうか?
俺がそんなことをのんびりと考えているとクルストさんが一人の男を連れてこちらに戻って来た。
「おぉ!美しき方よ!あなたに逢えない日々を一日千秋の思いで過ごしておりましたが......再び巡り合えた今日という日を記念日にしてもいいですか?」
「なんじゃこいつ?」
キオルと話をしていたナレアさんの傍に飛び込むように近づいた男が、片膝を付きながらナレアさんに手を差し出す。
「あぁ、すみません。そこの万年発情馬鹿は不本意ながら私の身内でして......。」
「まぁこの状況で自由に動いておるのじゃからそれは分かるのじゃが......以前にも会ったことがあるようなことを言っておるようじゃが......どこかで会ったのかのう?」
かなり熱烈......を通り越して奇天烈な挨拶をしていたと思うけど、ナレアさんがばっさりと切って捨てる。
どうやら完全に覚えていないみたいだけど......あれは絶対グラニダの奴だよね?
別にわざわざ伝えたりはしないけど。
必要ないだろうし。
「おや、まさか私の事を忘れたなどとは言いますまい?このトリ......!」
「おい馬鹿。説明したよな?少し大人しくしとけ!」
速やかに近づいたクルストさんが男の頭に拳骨を入れる。
中々に痛そうな音が響いていたけど......クルストさんは本当にレギさんみたいな役どころだな。
俺達といる時のはっちゃけっぷりが嘘の様な苦労人気質のようだ。
「二人とも、私が渡した神の魔力を込めた魔道具をナレア様に渡してもらえますか?」
「......どういうことだ?これが無くては今後の動きが取りにくくなると思うが。」
キオルに言われてクルストさんが訝しげな表情に変わる。
「実は、ナレア様といくつか取引をしましてね。その中で神の魔力を全てお渡しする契約を交わしました。代替品がありますので、少し時間を貰いますが今まで通り古代の魔道具は使えますよ。」
「そうか......後でその取引内容を詳しく教えてくれ。」
「えぇ、今後の動きに関わってきますので。」
「神の魔力の全てってことはアレはいいのか?」
「あぁ、向こうの研究室にある物も勿論お渡ししますよ。」
「いや、そっちじゃない。ダンジョンの方だ。」
クルストさんの台詞を聞いたキオルは、何かを考え込むように顎に手を当てた。
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