第500話 気持ちが大事



元魔王対魔王という最終決戦が行われてから数日、俺達は各々のんびりと王都で過ごしている。

因みに最終決戦は終始元魔王が優勢だった。

口撃は全ていなされ、逆に手痛い反撃を喰らい続けた現魔王は、最終的に小学生が半泣きになりながら放つような罵倒を放つと同時にマットに沈むことになった。

その様子を見て俺は女性に年齢の話は絶対に厳禁という金言を魂に刻み込んだ。

閑話休題。

ダンジョン攻略記念祭が始まる前に、件のダンジョンに行ってボスを討伐する予定なのだけど、今日はリィリさんと二人で出掛けていた。

というか、俺がリィリさんを誘ったのだけど。


「いやー、ケイ君に二人で出掛けたいって誘われたなんてバレたら、ナレアちゃんに怒られちゃうなー。」


そんなことを言いながらニマニマ笑うリィリさんの左手には、レギさんから送られた指輪が光っている。


「そうですね、僕もレギさんにバレたらぶん殴られるかもしれませんね。」


「......い、いやーレギにぃはそういうの気にしないんじゃないかなー?」


そんなことを言いながら若干照れた感じなのは......依頼していた指輪の調整が済んで受け取ったばかりだからかも知れない。


「まぁ、他の人ならともかく、ナレアさんも相手がリィリさんであれば怒ったりしないとい思いますよ?」


「......ナレアちゃんも言っていたけど、この手の事に関してケイ君はからかいがいが無くなったなー。」


「この手の話題は恥ずかしがったら負けって気がするのですよね。」


内心はもだえ苦しんでいる時が多いけどね。


「そっかー、強がってるだけなんだねー。」


「僕よりもナレアさんを揶揄う方が良い反応するのではないですか?」


「そんな風に恋人を生贄に差し出すのは、ちょっと酷いんじゃないかなー?」


「......揶揄われて恥ずかしがっているナレアさんは可愛いですから。」


「うわぁ......ケイ君って意外と......。」


そんな話をしながら俺達は喫茶店のような店に入る。

魔道国以外でこんなお店は見た事がないな......軽食とお茶を飲むような店は。

酒場か御飯処が普通だよね......。

こういうお店は......やはり魔道国にはそれだけ生活に余裕があるという事なのだろう。


「魔道国にきてからワインばっかり呑んでたけど......流石にこの時間からお酒はねー。」


「ここにはワインは置いて無さそうですね。僕はお茶だけでいいです。」


お酒が飲みたいなら酒場へどうぞってところだろう。

壁に掛けられているメニュー表もお茶と軽食の名前しか書いていない。


「このお店は初めてだし......とりあえずお勧めの軽食とお茶を。」


注文を取りに来た店員さんに適当に注文すると、お茶がすぐに運ばれてきた。


「なんか変わった味のお茶だね。少しスース―するというか......。」


「何かのハーブですかね?常飲はしにくいですけど......これはこれで面白くて嫌いではないです。」


「私は......うーん、ちょっと料理を選びそうな感じがするなぁ。」


お茶だけを楽しむって考えはないのですね......。


「さてさて、ケイ君。今日はどんな相談かな?」


遅れて運ばれてきた軽食を少し齧った後、リィリさんが切り出してくる。


「えっと......実はですね。僕もナレアさんに指輪とか送りたいなぁと思いまして。」


「それはきっと......うぅん、絶対喜ぶよ!」


レギさんから貰った指輪を軽く撫でつつ、リィリさんが物凄く嬉しそうな顔をして言う。


「それでですね。どのような指輪を送ったらいいのかを相談させてもらいたいなぁと思いまして......。」


「うーん、それはケイ君が頑張って選ぶしかないんじゃないかな?」


「えぇ、それは分かっているのですが......何か助言とかいただけないかなぁと思いまして。」


「助言かー。ケイ君はナレアちゃんに指輪を送りたいと思ったんだよね?」


「えぇ。」


「じゃぁ、どんな理由でナレアちゃんに渡そうと思ったのかな?」


「え......?」


どんな理由......?

俺がナレアさんに指輪を送ろうと思った理由......今までそういったことをしたことがなかったから?

何か違うような......義務感とかそういう感じではない......。

俺が渡したいから渡す......理由......指輪を渡す意味......。


「難しく考えすぎじゃないかなぁ?」


思考に埋没していく俺を見かねたのか、若干苦笑しつつリィリさんが言う。

そんなリィリさんの手で光る指輪を見て......その指輪を嵌めたリィリさんの、本当に幸せそうな笑顔を思い出す。

......あぁ、そうか、そういうことか。


「......僕は、ナレアさんに喜んでもらいたいです。出来れば、リィリさんみたいに心の底から幸せそうな笑顔をさせてあげたい......いや、僕がナレアさんのその笑顔を見たいのです。」


「あはは、ちょっと照れるなー。でも、うん、ケイ君の気持ちは分かったよ。」


若干頬を赤らめながらリィリさんが笑う。


「ケイ君がナレアちゃんを喜ばせたいってことであれば、そんなに難しくないんじゃないかな?」


「と言いますと......余程変な物でもなければナレアさんは喜ぶってことですか?」


「ナレアちゃんなら間違いなくそうだねー。」


「それは......そうかもしれないのですが......。」


「まぁ、ケイ君がそれを分かってなかったとは思わないけどさ。何を悩んでるのかな?」


「えっと......何と言いますか......。」


リィリさんから質問されることで意識していなかった部分に気付いてしまった。


「ん?」


小首を傾げるリィリさん。

レギさんも似たような動きをすることが偶にあるけど、リィリさんがすると非常に可愛らしい。

まぁ、レギさんがやってもある意味破壊力があるけど。

ってそれはどうでもいい。


「えー、つまりですね......ナレアさんの好みのものを渡したいと言いますか......格好つけたいといいますか......。」


「あはは、なるほどねー、男の子だー。」


リィリさんにそう言われ額に手を当てて俯いてしまう。

ぐうの音も出ない。


「まぁ、でもそういう所はいいと思うなー、可愛くて。」


「うぐ......。」


ぐうの音は出た。


「......うーん、ナレアちゃんはそこまで装飾品に拘りはないよね。」


「そうですね。身に着けているのは全て魔道具ですし......しかもナレアさんお手製の。」


「そだねー。ナレアちゃんはかなり器用だし、自分好みの意匠に作っているよ。」


「なるほど......ところで、そういう話......好みの装飾品の話とかナレアさんとされないのですか?」


「一緒に買い物に行った時に好みの話はするね。ナレアちゃんはあまり華美なものよりも、落ち着いた感じのが好きだねー。」


ナレアさんが作るのはシンプルだけど......少しだけ装飾されているというか......目立たないけどはっきり分る意匠が凝らされている。

正直......正直言うと贈り物をするには中々ハードルが高い相手だと思う。

シンプルでかっこよかったり可愛かったりする感じは......センスが試されるよね。


「む......難しい。」


「あはは、そうだねぇ。でもケイ君が一生懸命選べば大丈夫だよ?」


「......そうでしょうか?」


「そうだよ!こういうのは気持ちが大事って言うけど、これは気休めじゃないんだよ?」


「......。」


「ケイ君は結構理屈っぽいって言うか、頭が固いからねぇ......。」


「......す、すみません。」


「贈り物で気持ちが大事って言うのは......相手の事を考えて、考えて、考えて、その上で相手に一番似合うと思った物を贈るってことだよ。どんなにいい物で、相手の好みに沿ったものだったとしても、適当にこれでいいやって感じで選んだものはやっぱり上っ面だけの軽い物なんだよ。」


「なるほど......。」


「ナレアちゃんの好みについては話したし、私が助言できるのはこのくらいかな?後はケイ君がじっくり悩むといいと思うよ?」


リィリさんがそう言いながらにっこりと笑う。

うん......ナレアさんに似合うと思う物を俺自身が必死に探す......か。


「分かりました。ありがとうございます。」


「あ、でもレギにぃみたいに指輪の大きさが合わなくって......ってなったら可哀想だし、そこは付き合ってあげようか?」


「あ、それは大丈夫です。この前こっそりと糸を使って計りましたから。」


「......糸?」


「えぇ。気付かれない様にナレアさんの指に巻き付けて計りました。」


「......へ、へぇ。」


あれ?

なんかリィリさんに引かれた様な気がする。


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