第154話 ゴーレムのその奥で
View of ナレア
ゴーレムの内部は流石にそこまでの広さはなく人が一人通れる程度の通路しかなかった。
天井に設置されていた......妾達からすれば床じゃが......魔力弾を放ってくる魔道具の数も少なく通路に設置されていた物は全て無力化出来た。
しかし、この遺跡......ケイも言っておったが殺る気満々じゃな。
「くそっ......この斧はもう駄目だな。」
どうやらレギ殿の斧が限界な様じゃな。
この遺跡に来てからゴーレムの攻撃や魔力弾......遺跡の床などに派手に打ち付けたりしていたからのう。
特にこの巨大ゴーレムの攻撃を受けたりしておったのが致命的じゃったと思うが......。
「武器はもう少し大事に使わないとね。」
「......武器は消耗品だ。お前みたいに長年同じ武器を使う方がおかしいんだ。」
「愛が足りないからじゃないかな?」
「手入れは必要だが、所詮は消耗品だ。使え無くなれば買い替える。それだけだ。」
レギ殿とリィリが緊張感なく言い合っておる。
この二人も不思議よのう。
リィリもレギ殿もお互いの事を想っておる様じゃが......じゃれておるというより......傍目には本気で喧嘩しておるようにしか見えぬが......どことなく楽しそうなのじゃ。
「二人とも、いちゃつくならもう少し広い場所で頼むのじゃ。こんな狭い通路でやられたら流石に妾もしんどいのじゃ。」
「「......。」」
妾がちくっと刺してみると二人が押し黙る。
「今はこの扉を調べるのが大事じゃ。」
そう言って扉を調べる妾の背中になんとも言えぬ視線が向けられているのを感じる。
ほほ、ケイはこの手の事で二人を揶揄ったりせぬからのう......。
もう少し揶揄ってやるかの。
「そういえばリィリよ。」
「......何かな?ナレアちゃん。」
ほほ、警戒が声に滲み出ておるのじゃ。
「ケイから聞いたのじゃがな?お主以前ダンジョンでレギ殿に......。」
「ナレアちゃん危ない!」
リィリの警告と共に妾の顔のすぐ横にリィリ愛用の剣が突き立てられる。
危ないのはお主じゃ......リィリ。
「危なかったよ、ナレアちゃん!危うく虫に刺されるところだったよ!」
「......それは助かったのじゃ。」
妾を刺そうとしたのは虫ではないと思うがのう。
後、このゴーレムの素材......何で出来ておるか皆目見当もつかぬ程硬いのじゃが......これに剣を思いっきり突き立てておるが......武器への愛はどうしたのじゃ?
普通に剣先を痛めると思うのじゃが。
「......扉はどうだ?ナレア。」
......なるほど、リィリが偶にボヤいておったがレギ殿は中々にヘタレの様じゃのう。
「問題ないのじゃ。罠はないし、すぐにでも開けられる。じゃがこちらの通路が狭すぎのが厳しいのう。扉の向こうから攻撃を仕掛けられた場合、対処が出来そうにないのじゃ。」
「扉は普通に開くのか?」
「うむ、魔術的な仕掛けではないのじゃ。」
「なら、二人は一度下がってくれ。リィリはゴーレムの外まで、ナレアは入り口付近に。俺は扉を開いて中の状況次第で一気に下がる。その場合、ナレアはすぐにゴーレムの外に。問題がなさそうだったらナレアを呼ぶから中を確認してくれ。」
「了解じゃ。すまぬ。」
レギ殿が適任とは言え、いつも壁になるように動いてもらうのは心苦しいのじゃ。
「大丈夫だ。頑丈なのが取り柄な上、ケイに身体強化を掛けてもらっているからな。準備が出来たら教えてくれ。」
「了解。気を付けてね、レギにぃ。」
「おう。」
妾と位置を入れ替わり扉の前に立ったレギ殿を残し、妾達は扉まで戻る。
距離は大したことない、精々十歩と言った所じゃな。
リィリは飛び上がりゴーレムの外に出て、妾はいつでも対応できるように身構える。
「レギ殿!位置に着いたのじゃ!」
「了解......開けるぜ!」
そう言ってレギ殿が扉を押し開けたのだが、一気に後ろに跳び下がる。
「外に出ろ!アンデッドだ!」
レギ殿の言葉を聞いて妾は一気に扉の外へと飛び上がる!
アンデッドじゃと?
ゴーレムの中に?
妾が混乱しておるとレギ殿が扉から飛び出してくる。
「レギ殿、アンデッドがおったのか?」
「あぁ......追ってきては......いないようだな。」
「そうみたいだよ。」
扉に向けて武器を構えているリィリが答える。
「アンデッドなのは間違いないのじゃな?」
「骨がこちらに振り返ったからな。偶然動いたのでなければアンデッドに間違いないはずだ。」
アンデッドか......閉ざされた遺跡の最奥のアンデッド......かなり危険な相手じゃろうな。
「どうする?一度引くか?」
「......引いた場合、次に来た時にゴーレムと連携されると面倒じゃな......階段の瓦礫は妾の魔法で撤去は出来るが......慎重にやらんと崩落する恐れもあるしのう。」
「憂いは断った方が良さそうだね。来たみたいだよ。」
ゴーレムの内部から足音が聞こえる。
堅い音じゃから骨系のアンデッドの様じゃな。
まぁこの遺跡は千年以上埋まっていたはずじゃからのう、肉が残っているほうが驚きじゃ。
アンデッドの足音が止まりリィリ達の体に力が入ったのが分かる。
妾達は開いた扉に向かって構えているのじゃが......いつまでたってもそこからアンデッドが出てくる様子はない。
じゃが、先ほど足音が聞こえておったし、レギ殿の見間違いと言う可能性はないじゃろう。
このまま扉を睨んでいるという訳にもいかぬが......。
相手の動きもなくどうしたものかと妾達が考えているとゴーレムの内部から何かが聞こえてくる。
「あーすみません、外におられる皆さん。聞こえていますかね?聞こえていたら何か反応してくれたら嬉しいです。」
......何か変な言葉が聞こえてきたのじゃ。
いや、言葉は分かる。
しかしこれは......ゴーレムの中にいるアンデッドが喋っておるのじゃよな......?
ちらりとレギ殿の方を見るが困惑しているのが伝わってくる。
「あ、あれ?聞こえていません?......あー、もしかして言語が違う?言葉が通じていない?まずいな......どうしたものか。」
向こうは向こうで困っているようじゃが......。
「言葉が通じないとなると......笑顔か?笑顔で近づいてみるか?いや......私、顔が無いからなーはっはっは、いや、はっはっは。」
なんか朗らかな笑い声が聞こえてきたのじゃ。
「あー聞こえているし、言葉も分かるよ?」
どうしたものかと考えておったが、リィリが返事をした。
「あ、聞こえていましたか。良かった良かった。あー、今から外に出ようと思いますが......ちょっと顔が怖い感じですが、攻撃しないでくれると有難いですね。あぁ、勿論こちらに攻撃する意思はありません。」
そんなことを言ってくるのじゃが......。
「散々ゴーレムを嗾けて来ておいてそんな言葉を信じると思うのか?」
レギ殿が当然の事を言う。
あれだけ殺意満々の罠やゴーレムを仕掛けていたであろう相手の言う台詞ではない。
「ゴーレムに?あーそれは申し訳ない。こちらにそのつもりは無かったのですが......。」
「そのつもりがないからで許されると思うか?」
「あーそこは、私の家に許可なく入り込んでいるのでお相子ということで一つ。」
「む......。」
レギ殿が言葉に詰まるが......そう言われるとのう......確かに遺跡に住むものからすれば妾達は招かれざる客じゃしのう。
警備から排除されるのは当然と言えるのじゃ。
ここが予想通りの研究機関であるなら......まぁ、殺されても文句は言えぬじゃろうな。
「......もしこちらに害をなそうとするなら問答無用で排除するのじゃ。」
「あーわかりました。では、今から外に出ます......あれ?何かおかしいような?なんで扉が頭上に?え?これどうやって出たら?」
何やら扉の奥でがしゃがしゃと鳴りだしたのじゃ。
今頃気付くというのはなんとも間抜けな感じじゃが......いや、今までの会話からも結構抜けた感じはしておったが......。
「と......届かない!え?嘘?私ここから出られないんじゃ?何か台になる様なものは......。」
まぁ妾達もロープとかは持っておるが......こちらから申し出る必要はないのう。
レギ殿達も敢えて助けるつもりは無いようじゃし......いや、待てよ?
「のう。妾達を攻撃する意思がないのじゃったら、このゴーレムの動きを止めてくれんか?まぁ、止められるのならじゃが。もし止めてくれるなら外に出る手助けくらいはしてやれるのじゃ。」
「あーわかりました。では止めてくるので少しお待ちください。」
これでゴーレムの動きが止まる様ならケイも合流できるのじゃ。
土は被せたままにしておけば、仮に動き出した時もすぐに動きを止めることが出来るじゃろう。
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