#23 ゼロから始める信頼再建


"み、mili! Mili elerna!待って!待ってくれ、エレーナ!"


 とっさに出てきた言葉がそれだった。

 エレーナは、一瞬身を引いて驚いていた様子であったが、特に怪訝にこちらを見る様子もなかった。寝ているシャリヤを確認すると、少し申し訳なさそうな顔をして、静かに部屋に入ってきた。とりあえず、レシェールに引き渡されて銃殺刑の憂き目にあうことはなさそうな感じだ。


"Fi co firlexあなたが理解する lineparine, selene mi tydiest fua ak'inust cun fenxe lersene fua lartastanass."


 うん、なんか長文を話し始めたぞ?


"Coあなた lirf lersene?"


 分からん、さっぱり分からないが、多分銃殺刑の代わりにお説教を受けているに違いない。「理解する」とか言ってるし、「~ってこと分かってる?」みたいなことを言っているに違いない……。異世界転生して社会的な死とか括り付けられて銃殺刑とか、そういうのよりは説教のほうが5000兆倍良いんだが、問題はその内容が語彙力不足でさっぱり頭に入ってこないってことだ。

 だが、こういう咎められている場合は偉大なる事なかれ主義の方法が準用できる。とにかく、イェスマンに徹していればいずれ解放されるだろう。ある国の人は、謝るときに理由をちゃんと言い、またある国の人はとにかく平謝りして許しを請う。謝罪の文化というのは国ごとに、文化圏ごとに違いそうだが、この地域はエレーナとシャリヤの姿の違いとかこのレトラに住む人々の姿、衣服の違いで異文化が混在して生活しているということが良く分かる。つまるところ謝罪の文化もまだ煮詰まっていないはずだし、人間普遍にただ相槌をつき続ければ相手も気持ちよくなってくれるというものがある。以前インド先輩は「非常に大雑把に言うとカウンセラーの仕事は聞くことだと聞いたことがある。」ということを又聞きしたことがある。やはり、人間はそのようにできているのだろう。


"Ja, ja!はい、それはもう!"


 説教している人に対して意味も分からないのに頷き、相槌をうつなんて非常に失礼な気がしなくもないが、シャリヤがなかなか起きないのが悪い。

 そうして相槌をうたれたエレーナは気を悪くするでもなく、逆に笑顔になってしまった。

 やはり人間、頷き続けられると気をよくしてしまうようである。とはいえ、エレーナの笑顔はそんな機械的なものでもなく部屋の中に一輪の花が咲いたように感情に溢れたものであった。多分、エレーナは翠自身に対して怒っているというわけでもなく、少し諭しただけなのだろう。そうでもなければ、怒号による長文が永遠と続き、ついぞ何も理解することはなかっただろう。

 ここで、エレーナは意気揚々となって部屋を出て行った。

 はあ、可愛いことは可愛いのだが、戦時中なだけあってへまをやらかすとどんなことをされるか分かったものではない。とにかく、エレーナがやさしい人間で良かったことをひたすら天に感謝していると、がちゃりとまたドアが開いた。


"Cenesti? Harmie co es e'i?貴方は……である Lecu tydiest."


 ドアを開いたのはエレーナであった。

 翠がぽかーんと口を開けていると、エレーナは微笑みながら"plax."と言って手を握ってきたのであった。

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