#41 krantjlvil
「
はじめて来る場所というのはどうしても不安になり、その場所が行くべきところに本当に合っているか何らかの確実な証拠が無いと入りづらいものだ。だが、レシェールが地図で指し示した場所にはちゃんと看板に"
(文字が読めるだけで分かることも増えて安心感も違うな……。)
多分外国から来た観光客とかも文字が全く読めない日本とかよりヨーロッパとかの方が安心したりするんだろうか。まあさすがに日本でラテン文字を見ないことなんてないだろうが。
ドアを開けようと力んでも、鈍重に手前に少し動くだけで反応しない。第四体力に愛着は無いな?という感じで引っ張っても少ししか動かない。というか、何かでロックされている雰囲気だ。
"
「あー、えっと……」
数冊本を持ったポニーテールのお姉さんに後ろから話しかけられる。髪の色はシャリヤと同じ銀色だが、瞳の色は黒だ。シャリヤともエレーナともフェリーサとも違う人種なのかもしれない。
それはそうと、このお姉さん"krantjlvil"に関して何らかの情報を提供しているんだろうか。文章の抑揚が尻上がりであるから多分何かを訊いているのだろうと思う。確か「しかし」の意味である反接の接続詞"pa"は何回も聴いてきたからここで使えるはずだ。
"
"
"
どうやら上手くリネパーイネ語で意思疎通が取れないという意思疎通が取れたようである。
本を持っているあたりを鑑みると彼女は多分ここの司書か何かかもしれない。"krantjlvil"に入ろうとする人に声を掛けるということは多分そうだろう。まあ、この"krantjlvil"をよく見知った利用者ということもあり得るかもしれない。だが、どっちみち、ここをどうやって使うかの有用な手掛かりになるだろう。
"
"
そういって、お姉さんは鞄をあさり始めた。そして、良くある折り畳み式のパンフレットを出して、多分後ろの方を指して渡してきてそのまま去って行ってしまった。
このままこの建物の前に居てもどうにもならないのでシャリヤの下に戻ることにした。今回シャリヤにはちゃんと外出することを言っておいたので心配を掛けることはないだろう。まあ、泣きついて来た時の原因は「セーケでフェリーサに負けた」なんだろうが、恥ずかしくて爆撃を受けたくなるような勘違いをわざわざ思い出す必要はない。
指さされたパンフレットの部分を眺めながら、暗く誰も居ない夜道を歩いてゆく。道の脇の建物の灯りや楽しそうに話す声を聴いて人恋しさが湧いてきた。
あのお姉さんはどうせ文字は読めるのだから、パンフレットくらい読めるだろうと思って渡してきたのだろうが、今の段階で母語話者向けのパンフレットを完璧に読めるとは全く思えない。語彙も文字の利用の癖もまだ全然習得できていない状態だから難しいだろうが、どうせ"krantjlvil"はこれから利用していくことになるわけだから眺めて雰囲気くらいを理解しておくのはやっておくべきだろう。
まあ、今のリネパーイネ語の知識と少ない常識力を手掛かりに理解できるところまで解読してみよう。
=Retla'd krantjlvil=
Fasripietil
Lusvenil
Plax shrlo tuan
なるほど、あまり分からないが数字が数字だと分かると"
まあなんかの価格かもしれないが、0900と書いているところや通貨記号などが出てこないところから多分時刻であろう。
たしか、司書姉さんは"
三文目に"
こうなってくると"-il"は「~するとき」と考えることが自然になる。
すると、"Plax shrlo tuan co'd kranteerl'it ladirrisil lu."は「あなたの本をラディーリスするとき」に言及していることが分かる。ラディーリスが良く分からないが、"krantjlvil"が図書館か本屋であるとすると「買う」だったり「借りる」だったりすると思われる。四文目を参照すると、"
その考えに基づくと、"Plax shrlo tuan co'd kranteerl'it ladirrisil lu."は「あなたの本を返却するとき
(人の心を読んで適切な指示をするレシェール恐るべし……)
そんなことを考えていると、目の前にいきなり現れたシャリヤとの相部屋の建物に驚いてしまった。考えているとどこを歩いているのか良く分からなくなってくる。今日はもう遅いし、部屋に戻り、早く寝て、明日"krantjlvil"に突撃しよう。
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