#91 生還者


"Salaruaこんにちは, Hingvalirstiヒンヴァリーさん."


 目の前のヒンゲンファールは最近の粗末なクラッカー配給を食べながら、虚ろな目でどこかを眺めていた。シャリヤは彼女に用があって、翠を連れてヒンゲンファールの座っている席の周りに来ていた。


"Co何か letix用が aziurgある fuaように mi見える tirneわね, xalijaシャリヤ?"

"Coわかり firlexます lu?"


 ヒンゲンファールは問いに答えるように微笑する。私はポシェットの中に入れてきた紙切れをヒンゲンファールに差し出す。そこには翠に教えてもらったニホン語がいくつか書いてあった。

 時間によって言い換える挨拶、燐帝字母のような字とタカン文字のような字を混ぜて使うタカン語のような文字の使い方、特徴はいくつでも見つけることが出来た。私はこれをヒンゲンファールに見せれば、何語か、どこの人間なのか少しでも情報が分かるのではないかと思っていた。


"Co quneこの言語 fqa'd知って lkurftlessますか?"


 ヒンゲンファールは、紙を取り上げて難しそうな顔で見ていた。翠はクラッカーを食べながら静かに私達の様子を観察している様子だった。


"Ers xaleタカン語 takang'dみたい lkurftlessだね...... paでも niv違うん esjaだよね?"


 こくこくと頷く。確かに一番似ている言語はタカン語だった。でも、いくらか勉強してそれで話しかけても通じなかったし、裁判中にタカン語の通訳が通じなかったというところから、翠にタカン語は通じないということが分かっていた。

 ヒンゲンファールは紙をテーブルに戻して、分らないとばかりに頭を振っていた。


"Mi es私は niv lkurftl言語学のessene'd専門家じゃ lafirmeterない magから mi分ら firlex nivないわ. Paでも, edixaこういう mi xel niv言語は xaleタカン語 fqaくらいしか filxみたこと takangないわ. Jol mi調べてみるけど fonti'aあまり kaxtoあてにしないでね."

"Hmmうーん...... firlexわかりました."


 ヒンゲンファールの専門は確か「後期ラネーメ王朝期からサームカールト・ファリアガード講和条約体制――つまり、二十一ヶ国体制――の間での古典派教法学の刑事訴訟法」。よくわからないけど、言語とあんまり関係なさそうな気はした。読めてラネーメの主要な古典語くらいだろうか。

 結局は、何もわからなかった。しかし、なにか重要なことを見落としている気がした。そういえば、私は一回でも翠に彼自身の出自を聞いたことがあるだろうか。彼はある程度、リパライン語が話せるようになった。今なら色々と話が聞けるはずだ。


"Cenesti."


 横に座っている翠に優しく呼びかける。しかし、翠はいきなり呼ばれて慌てて咳き込んでいた。


「ち、違うんだ!横顔が可愛くて見とれてたとかそういうあれじゃないんだ!何を話しているのか理解しようとして、真面目に聞いてたんだよ、それで……あの……えっと……」


 なんかよくわからないけどいきなり母国語でまくし立ててきた。驚かせたと思って怒っているのだろうか。そんなフェリーサのようなことはしないのだけれども。


"Fiもし edixa驚かせ co jusnukなら, mi naceesめんなさい. Selene mi知りた velesいこと kantioがあ mels coるの."

"Selene何に harmieついて co qune知りたい?"


 翠は慌てながらまくし立てるのをやめ、冷静になってくれた。私の問いを理解してくれている。

 翠が不思議そうにこちらを見てくる。アロアジェードのディシャルヴのように黒い髪、ブラックオニキスのような色の瞳がこちらを見つめる。肌色も何もかも、ラネーメ人らしい。それでも、彼はパイグ語もタカン語もアイル語も解さなかった。

 ならば、一体どこから来たのか。


"Cen klie翠はどこから fal harmue来たの?"

"Harmueどこから...... Edixaシャリヤの xalija居た molalところ lerから miss私たちは klie来た?"

"Nivいや, mi nivそういう nun xaleことじゃ la lexなくて."


 質問を誤解されていた。"niv違う"という私の言葉を聞いて翠も困っていた。もうちょっと具体的に説明して訊くべきだろうが、相手がリパライン語をどこまで理解しているか微妙な状態では言葉選びも難しい。


"Mi'd私の fagrigecio'd母語が話される icco国は es fqa'd yuesleoneユエスレオネ tirneでしょ? Co'dあなたの fagrigecio'd母語の icco es harmueどこ? Harmue lerどこから coあなたは klieこの yuesleone'lユエスレオネに来たの?"


 噛み砕いて分かるような単語を思い出して、選んで言ってみたつもりだったけど、翠は唸っていた。質問の内容は理解できているはず、言うべきか言うまいか、そういうことを考えている様子だった。

 ヒンゲンファールはそんな自分たちの会話を壁でも見るように無機質に、面白げもなく眺めていた。彼女には正直翠がどこから来たかなんてどうでもいいのかもしれない。


"Mi俺は...... klieニホン nihonから ler来た."

"Ers nihonニホン?"


 ニホン――聞きなれない国名だった。

 そもそも、出血熱のパンデミックとそのワクチンで生み出された怪物のせいで地上の国家は全部消えたはずだ。今、私達が知っている国家は、ここユエスレオネで内戦中のフェーユ、アル、クワクの三国だけ。風のうわさでフェーユはすでに消えたと聞くけど、その代わりにニホンという名前の国家が建てられたという話は聞いたこともない。


"Cenesti, fgir'dその nihonニホン mol fal yuesleoneエスレオネにある?"

"Nivいいえ, niv mol無い."


 翠は私の問いに「そんなことは当然無い」というような感じで否定した。その否定が指すことはつまり、ヤツガザキ・センは地上から生き延びてきた生還者ということになる。地上にニホンという国家があり、そこで使われるニホン語という言語は外部からの接触を受けなくなって独自に変化を続けていった。その結果がこうであるということだ。


"Cenesti."


 翠は首を傾げて、私が何を言おうとしているのか必死に聞き取ろうとしていた。このユエスレオネに命からがら逃げてきて、内戦に巻き込まれて何が何だがわからずに殺されかけ、言葉もわからず、それでも希望を捨てずに私を命がけで護ろうとした。ユエスレオネでは、下の世界の人を見下すような人も多いと言うのに。


"Mi's co'i私は sesnud xaleあなたがそうしたように elx edixaあなたを co sesnud守る mi."


 言ってる途中で気恥ずかしくなって声が小さくなる。顔の火照りを感じる。翠は"e?"と聞き返していたが、もう一回言う余裕はなかった。

 ヒンゲンファールはすでに席から発っていた。途中から退屈になって、どこかへ行ってしまったのだろう。一言言ってくれればよかったのに。

 シャリヤは手を付けていなかったクラッカーと缶詰を開けて食事を始めることにした。翠も慌ててそれに続く。

 相変わらずの食事の粉っぽさに、安心感を覚えた。

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