#240 商人の分かる言葉


 槍を持って直立不動でいる門番を後に俺たちは宮殿のような、城のような微妙な建物から出てきた。後ろから睨まれているような気がして、振り向いてしまう。しかし、門番たちは中空を見つめて直立不動のままだった。


"Malそれで, coss君たちは firlex elx行くべきところは deliu tydiestalちゃんと分かっているのか?"


 首をさすりながら、先を行くインリニアに尋ねる。まだ、回し蹴りを食らったときの衝撃が背中に残っている気がする。彼女はこちらを見ずに首を振って答えた。


"Als miss私達は皆 qune nivこの街を fqa'd marl知らない gelxだから deliu miss私達は neftexton…… melfert la lexそれを探さないといけないな."

"Lecu miss……の tydiest fey時に行った zelx edixa tydiest……に fal kjilfil dodor行きましょう?"

"Jaああ, lecu es e'iそうしよう."


 インリニアはシャリヤの提案に静かに頷いた。彼女の言ったことは正直良く分からなかったが、向かっている方向でそれが理解できた。

 正面に広がるのは昨日ユフィアが黄色い果物をくれた大通りだった。今日も昨日と変わらない賑わいで、客と露天商たちが様々な様相を見せてくれる。片や、世間話をしながら値切り交渉をしているような場面やまるで争うように買い漁っているような場面も見られた。どちらにせよ、ここで値切りをするのは基本らしい。


"Mesyenムスュイン, faiyssフェユス cienyシエニュ faideフェーダ varヴァル alfiaオーフィア?"

"Eh......"


 インリニアが目をつけたのは肉を売っている店だった。見ただけでそれが何の肉なのかは分からないが、その辺りは自身の有りそうな彼女に任せることにした。

 インリニアが――彼女の母語だから当然にしても――流暢なヴェフィス語を喋ったにも関わらず、肉屋の主人は悩ましげな顔をして答えに困っていた。

 もしかして、一見さんお断りのようなルールでもあるのだろうか。しかし、レトラで製菓材料店に入った時はそんなことを言われたことは無かった。古代特有の礼儀だったり、そういったものがあるのか。勘案していたところで主人は申し訳無さそうにやっと口を開いた。


"Mesonneメッソンネ paでも?, cene出来る? mis私は? kohncer'sコフンサースは? koune分かる? vefisa'dヴェフィスの? ajihkoアイィフコ."

"Joppえっと......"


 インリニアのヴェフィス語とは全く異なった語感の言葉が帰ってくる。ヴェフィス語よりは聞き覚えのあるような語感でところによってはリパライン語で解釈できる語句も存在していた。だが、今の時代がシャリヤたちが本来いた時代よりもずっと前なのだとすればリパライン語の先祖と解釈したほうが正確そうだ。いわば、古典リパライン語というような立ち位置となるのだろう。

 インリニアはバツが悪そうに頭を掻きながらシャリヤのほうへと向いた。


"Co tisod君は eso la lexe'stあれが…… penul lineparine'ctリパライン語だと思うか?"

"Jaえぇ, metista……......"


 シャリヤは信じられないという様相でインリニアの問に答えていた。おそらく、"penulペヌル"という単語は「古典の、クラシックな」を表す形容詞なのだろう。

 インリニアは困ったような顔を見せた。


"Malじゃあ, cene niv私は mi firlex分からない mal miscaon lkurfお互いに話せないじゃ jaないか. Cene co君はあの言語 firlex la lex分かるか, cenesti?"

"Naceいや, niv残念ながら."


 現代語ですら習得度がへなちょこだというのに古典語が分かるはずがない。インリニアはそういう俺の返答を見て、ため息を付いた。話が通じなければ買いたいものを円滑に買うことは出来ないだろうし、ぼったくられる可能性が無いとは言えない。

 そんな状況でシャリヤは自信に満ちた表情で蒼い瞳を輝かせながらこちらに向き直った。


"Paでも, cene mi私は少し ekce lkurfそれを la lex話せるわ......!"

"Cirla本当か?"


 インリニアは怪訝そうな表情でシャリヤを見ていた。一方の彼女は綺麗な銀髪を煌めかせながら、自慢げな足取りで店主の前に出てくる。胸を張って、一つ咳払いをした。


"Mis's es私は?…… vefisuentk'dヴェフィスエントの? ausioterアウズィオター fua knlooクンローのための?. Seleneしたい? .01 stysienステュズェン lerから mi's私は ahclaアフスラ hj banfu'iバンフイ. "


 噛んだり、止まること無くシャリヤは言い切った。家にあれだけの本があって、それらと俺の言葉を比べれるほどの娘なのだから、古典語が話せるだけの教養があってもおかしくは無かった。インリニアもそんな彼女の姿を半分尊敬の目で見つめていた。

 だがしかし、店主の方はそうではなかった。


"...... Stysien's es hamieステュズェンってなんですか?"


 彼は顎に手を当てながら良く分からないという様子になっていた。目を見開いて驚いているのはインリニアだ。確かに完全に理解できるようなリパライン語で話し始めたということもあるが、多分これは偶然なのだろう。そんなことよりもシャリヤと店主の間で何か行き違いが発生していたのが気がかりだった。

 シャリヤは瞬きながら次の言葉を探していた。


"Arlえっと...... likaleリカーレ molivfモリヴフ......"

"Likaleリカレ...... hamieなんだって?"


 遂にシャリヤは通じないことを悟ったのか、両手で天秤のような動きをし始めた。どこぞのほのぼのライフを過ごせるゲームのはにわのようで可愛い。店主もそれを見て困り顔から、笑顔になっていた。肉を幾らか切り分けて、革袋に入れる。

 慌てて手元にあった小袋を差し出す。これを使って買い物をしろと言っていたということは通貨などが入っているのだろうと思っていた。店主は頷きながらそれを受け取った。


"Lecu likale……しよう."


 店主は小袋から机に置かれていた天秤に何かを注ぐように袋を傾けた。こぼれ出したのは粒の大きめな砂金だった。俗に言う秤量貨幣というやつだろう。店主は天秤のもう片方に幾らか錘を掛けて水平になるまで砂金をもう片方に注いだ。水平になったことを確認すると、小袋を締めてこちらに返してくれた。


"X, xaceあ、ありがとうございます."


 言葉がわからないだろう店主から帰ってきたのは頷きだけだった。


"Hawはぅ,"

「ん?」


 インリニアが変な声を出している。どうしたのかとシャリヤも怪訝そうに彼女のことを見つめていた。


"Hwaふぁ"

「ふぁ?」


 こういう状況は何処かで見たことがあるような気がするがなかなか頭の中で思い出せない。だが、何か凄い悪いことが起こりそうな予感が頭から離れなかった。


"Hettへっ......"

「へっ……って、お前ちょっとま――」

"kkxくしゅん!!"


 インリニアは大きくくしゃみをした。瞬間、驚きで手から砂金の袋が地面に落ちてばら撒かれる。秤の上にあった砂金は吹き飛んで店中の肉という肉に付着した。


"Arあっ...... A hah hahあはは~......"


 先程まで笑顔だった店主の顔がこの瞬間豹変したのは言うまでもなかった。

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