#16 移動開始
"
シャリヤが驚いたような顔をしながら、翠に向っていう。
まあ、銃を扱ったこともないようにみえる貧弱な人間に銃の扱い方を教えようとしたら、見事に目標に命中させてしまったからである。そりゃあ凄いと驚くわけだ。絶対シャリヤは驚いたに違いない。うんうん。
"Ulesn
ん?
シャリヤは身を屈めて翠に向かって、警告するようにいう。さすがに違和感を覚えたのでシャリヤと同じ姿勢を取ると、下手な笛のような音が鳴った直後にさっきまでいた屋上部分の先の建物が爆発した。
よく戦争映画で銃弾が至近距離で飛び交うときの音を聞くことがあるが、それが聞こえたのちのことであった。
建物の上部が爆発で破壊され、白煙が立ち、轟音が鳴り響く。コンクリート片は高速で弾け飛んで近くの建物の窓ガラスを割り、それが其処彼処で続いた。
「う、嘘だろ……。」
知っていたがこの世界は戦時中である。状況から考えて、迫撃砲弾がいつどこに降り注いでもおかしくはない。何の陣営が何の大義名分でぶつかり合っているかは知らないが、翠は決意した目標を達成せずには死ねないのだ。
"Fal fqa niurn. La lex xale si lkurf edixa pa!"
シャリヤはそういいながら翠の手を掴んで、階段を下がろうとする。階段に入るドアまで動いたのちにこの建物にも迫撃砲が着弾した。コンクリート片が翠の頬を掠り、一直線に傷を残した。血が垂れても、そんなものを気にしている余裕はない。すばやく階段を駆け下り、シャリヤに随行する。駆け下りた先には、レシェールが指揮をして負傷者を運び出していた。
"Harmie voles?"
"Liaxi agvir al'd elminalape's ceces!"
焦り顔でシャリヤの質問にレシェールは答えていた。きっと予想外のことが起こったに違いない。話してシャリヤが状況を理解する間、負傷者は何人かに運び出されていた。迫撃砲の着弾を至近か直撃で受けて見るに堪えない状態の者は不幸中の幸いかいないようであったが、それでも見ていて痛ましい負傷者は何人も運び出されていた。
"Miss axergon cuturl lavol fai desel el retla."
"Deselesti? Co falmet es tama'd semorko'i?"
シャリヤがレシェールの発言にまた何かを訊き返している。確かに状況整理は大事だが、もたもたしていると更に負傷者が増えかねない。
"
"......Firlex.
シャリヤはレシェールから地図を受け取り、翠に対して広げた。多分経路とかを説明するんだろうが、翠に説明してもあまり意味はなさそうだった。だが、空気に圧されて、語彙力の低さに苦しみ、要らないという一言も言えずに地図を息を吞んで見つめていた。気づいたことの一つに、これはこの地域の地図だと思うのだが、表された地域は不自然に四角かったことがある。多分、アフリカ諸国とかアメリカの州とかそういう数奇な歴史を経てるのだろう。
"
ふむ……。
シャリヤが地図を指さしているのを鑑みるにどちらかが存在文であるに違いないが、今は確認する暇はない。シャリヤの話をじっくり聞くことにする。
"Miss tydiest fal retla z'es fqa."
シャリヤが地図をなぞり、指した位置から南の方へと指を動かす。大きな文字で何か描かれているが、良く分からない。ただ、シャリヤがその文字を指で丸を書くようになぞったので、目的地はどうやらそこらしいことが分かった。ここは危険なので移動するという魂胆なのだろう。
"Firlex?"
シャリヤが尋ねる。"Firlex"はさっきシャリヤがレシェールに応答するときにも使っていたので、多分文脈から見て「分かる」とかの意の単語なんだろうと考えた。
"
シャリヤもその応答に頷き、"Mili fal
Miliって単語は今まで何回も出てきたけど、最初撃ってきた兵士もMiliと必死に言っていたので「待つ」とか「止まる」とかそういう意味なのだろう。そして、多分、fqaは「ここ」という場所の意味も併せ持つと仮定すると、falの意味が見えてくる。fqaの位置を指す前置詞なのであろうfalは「~において」の意味だ。そうすると色々とシャリヤの地図説明もつじつまがあう。"
(大分分かってきたぞ……。)
言語考察に熱中していると、シャリヤがやってきて手招きした。
移動の手はずが整った様子であった。
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