#8 貴方は人間かって聞く人、正直言ってアレだ
"Mal, mer......"
あの後、シャリヤとレシェールが交渉のような感じで話していたが、結局翠には何一つ理解することはできなかった。英語の借用語の一つでもあれば楽に言語習得の糸口を掴めそうなところだが、ここは異世界である。ヒロインがいきなり異世界ファンタジーのおやつと称してスニッ〇ーズなんかを渡してきたら萎えるし、そんな世界を設定した
(…………。)
状況は簡単で、翠は熱烈な思いを伝えてくる歌を大合唱する謎集団の屋内を移動して別の部屋にシャリヤと共に連れてこられていた。白い壁に窓はない、閉鎖的な雰囲気を感じる空間はそれでも異世界ものの主人公にふさわしき生活をしてきた翠にとってはどうということもなかった。
シャリヤはレシェールにペンと紙などを持たされていた。多分、意思疎通が取れなければどうにもならないと考えて、シャリヤをコミニケーション要員として使ったのだろう。……本当に?
まあ、いきなり市街地戦が始まる現状一人で外に出て出歩くのは自殺行為なのかもしれないし、シャリヤのような娘にコミュニケーションを担当させるとは多分自分はその程度としか見られていないのかもしれない。人間社会というのは戦わないと生きていけないというのはどこででもそうなのであるが、彼らは自分たち現代の日本人が体験していない本物の戦場に身を投げ込んでいるのかもしれない。
そういえば、自分はあの時撃たれたはずなのに何故無傷で生きているんだろう。確かどこかの小説で読んだが、耳を掠めることで三半規管に衝撃を与えて人を気絶させたりするスナイパーが居たが、翠は撃たれた太腿を流れる血を触って確認したはずだった。
そんなことを考えているあいだ、シャリヤは悩みながら何かを描いたり、消したりしていたようだった。描き終えた紙を裏返して向かいに座っている翠に見せる。
(……人?)
人の象形のようなものがそこには書かれていた。棒人間の頭が無くて、「人」の文字に「一」を足したような、「大」によく似たものだ。ここの言語の文字は以前辞書の文字を見たときにアルファベットのような字形であることは分かっているから、多分棒人間にあたる人を表すシンボルなのだろう。
"Fqa
シンボルを指しながらシャリヤは言う。ふむ、一単語目の「フクヮ」も三単語目の「ラータ」も当然知らない単語だ。語彙力不足が否めないが未だ、異世界に来て一日経ったかくらいだ。英語に疎い翠でも等式文を覚えられただけ上等だろう。
しかし、教えてもらえるものは習得したいものだ。
シンボルを指しながら言っているということは英語で言う"This is"の構文に当たるのかもしれない。とすると、lartaは人を表すのだろう。
(確かめるか。)
"
翠はシャリヤを指さして、言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます