第五章

#331 異世界の誕生日


"Mi'd lexxisnenesti私の誕生日?"


 ホットココアの入ったマグカップを手にふわふわのセーター姿のシャリヤは首を傾げた。

 翻訳作業の合間にふと気になったから訊いてみたのだった。さっと答えられるものだろうと考えていたが、彼女は難しい顔をしたまま黙って何かを考えている様子だった。


"Selene co lkurf niv言いたくない felxなら deliu niv co lkurf言わなくてもいいぞ."

"Arあぁ, merえっと, niv違うの. Fqa io snolej esここでのスノレイは niv dalle faikleoneファイクレオネのそれとは'd la lex ja違うでしょ."


 ハッとする。

 おそらく "snolej" は「暦」のことだ。

 そういえばそうだ、地球の自転周期と公転周期が異世界の惑星であるファイクレオネにそのまま適用できるはずがない。時間だって多少違っていたのだ。ファイクレオネの暦のシャリヤの誕生日は地球上の暦に単純に対応させられるものではないだろう。

 しかしそれでは、地球に居る限りシャリヤの誕生日を祝うことは出来ないということか? それは……なんだか可哀想じゃないだろうか?


"Xalijastiシャリヤ, Co'd君の lexxisnene'd dieniep誕生日の数 es harmieはなんだ?"

"Dieniepesti? Ers niv panqa lap一つだけじゃないの?"

"Merえっと, selene mi nun俺が訊きたいのは 12'd 2112の21みたいな xale la lexそれのことだ."


 月や日に関する表現に疎いのが仇となって、上手く表現することが出来ない。そんな俺のことを察するように、シャリヤは蒼い瞳を瞬かせて首肯した。


"Mi'd lexxisnen私の誕生日は g'es filena'd 2teフィレナの二番目の feciatフェスャトだから......, ers 10'd10 stujesne'dストゥイェスネの7'd snenik ja7日ね."

"Hmmふむ......?"


 色々と意味が分からない言葉が出てきてるが、最後の "snenikスネニク" が「日」を表すので、数詞の修飾まで含めて「7日」を指している以上、その前の "stujesnストゥイェスン" はおそらく上位の時間単位なのだろう。どれくらいの長さかは分からないが取り敢えずここでは「月」と置いておこう。


(……ん?)


 10月の7日?

 聞き覚えのある日にちにピンとくる。ベッド脇の照明の下にあるカレンダーに目をやった。今日の日付は丁度10月7日になっていた。


"Fqa'd snolej ioこっちの暦だと xalija'd lexxisnenシャリヤの誕生日は es sysnul ja今日ってことになるな."

"Cirlaそうなの?"


 訝しむシャリヤにカレンダーを持ち上げて、それぞれの数字の説明をしてやる。それで彼女は納得しような顔になった。

 谷山さんから度々受け取っている手間賃は使わないうちに結構溜まっていた。今日はファミレスにでも連れて行って、好きなものをたらふく食わせてやろう。


"Lecu miss tydiest誕生日の lexxisnenestana'd昼食に新しい nostus fuaj dytysnところに行って knloanalみないか."

"Jol la lex良さそう es vynut paだけれども...... La lex systod niv翻訳のお仕事を……する duxieno akrunftoことにならないかしら?"

"Ers vynut ja大丈夫だよ, xalijastiシャリヤ. Cene miss duxienそれは帰って la lex fastaきて elx edixaから klieil でもfurdzvokj fqa'ct 出来るjaだろ."

"Malそれじゃあ......"


 シャリヤはこくりと頷いた。

 かくして、俺は近くのファミレスチェーン店を探し始めることにしたのであった。


* * *


――東京都某所、防衛省第二層情報共有会議


「では、次は谷山陸佐の方から報告を」


 強面顔の議長に名前を呼ばれた谷山は事前に用意していたレジュメを持ち上げて、丸眼鏡のブリッジをくいと上げた。


「翻訳協力者の情報筋からは、諜報部隊の行動が内部の何者かによる融通によって成功したものと誤認されていることが分かっています。このまま行けば疑心暗鬼に陥った彼らによる破滅的な第二波攻撃が起こりかねないと想定しています」

「その場合の被害はどうなるんだ?」


 不規則質問が飛んでくる。谷山含むチームの扱いはいつもこんな感じだった。どんな些細な情報も力だというのに、こいつらは目先のことしか考えていない。いつもどおりだった。だからこそ、別に憂いることはなかった。

 谷山は手元のレジュメを振って、反りを直した。


「敵方――シェルケンの特殊軍事技術であるところのウェールフープというものが現状で一体どれだけの優位性を持つものなのか不明のため、概算ですが第三防衛線が破られれば民間人に少なくとも100人単位での死者が出るものと考えています」


 会議室がざわつく。今更である。一体最初の邂逅時の戦闘でどれだけの隊員と民間人に被害が出たのか、こいつらは全く考えちゃいない。


(そのままだと喰われるぞ)


 そんな心の奥底から来る叫びを谷山は押さえつつ、更に投げられる様々な質問を処理していく。そして、第二波攻撃を避けるためにはより大胆な行動が必要であることを示した。

 しかしながら、会議室に居る連中は仏頂面で谷山の意見を右から左に聞き流しているだけだった。何も方法は武力行使だけではないというのに、誰も大胆な行動の責任を取りたくないからか取り合ってくれないのだ。全員受け身の姿勢だった。

 無力感と使命感がシーソーしているような心境だった。


「以上で、谷山からの報告を終わります」


 報告が終わると、次の報告が始まる。無力さに苛まれながらも、谷山は頭の中で次策を考えていた。


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