#134 でも、私は寝顔を見たかったのに
結局の所、カリアホやガルタに対する聞き取りでシャリヤの下に帰るときには0時を周ることになってしまった。リパライン語がわからないカリアホに対してはガルタが話を仲介している様子であったが、ガルタ自身も言葉がしっかりと翻訳できていないのかところどころ話に詰まっていた。ガルタは数発も銃弾を体に打ち込まれていたはずだったが、全くもって気にしていない様子だった。アドレナリンがどうとか、そういう話でもなく銃創が瞬時に治ったかのような顔で通訳を行っていた。
これらのおかげで、ユミリアの手配した車両に載せられて、レトラまで護送されたときには明日が、今日になっていた。
インド先輩とその友人たちはよく夜遅くまでskypeで通話をするようだが、0時を超えて通話をして終わる時の挨拶は「また明日」ならぬ「また今日」なのだそうだ。不健康過ぎるし、それだから彼はいつもグロッキーな顔をしているのだろう。どうでもいい話ではあるが。
レトラの街は静かだった。街灯が石畳の道に柔らかい光を投げかけている。ガルタとカリアホは無言で翠について行っていた。時間も時間で、二人とも疲れているのだろう。
車はレトラに到着するとすぐに、去っていってしまった。ドライバーも、お付きの事務官らしき人も何も言わずにドアを閉めて、すぐにレトラを離れていった。そうして今レトラの端からとぼとぼと歩いた末に見覚えのある大通りを通って、シャリヤのいる建物がやっと見えてきたのである。
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カリアホが疲れたように言うと、ガルタはそれにやさしく答えた。どうやら彼らの関係は、深いようだ。確かによく見ると二人は年の離れた兄妹に見える。多分、カリアホを庇って一緒にシェルケンの居るところから抜け出してきたのだろう。彼は幾ら銃弾を体に受けても倒れなかった。あれだけ強靭な肉体を持っているということは、これまでいくつもの死線を潜り抜けてきたに違いない。試してみるか? 俺だって元コマンドーだ――とでも言いたいが、翠は銃弾を打ち込まれたのは一回くらいである。
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建物に近づくうちに、ガルタは苛立たし気にこちらに尋ねてきた。何時になったら到着するのかということなのだろう。すぐそこなのだからもう少し辛抱しろと言いたいところだったが、疲れて強く言い返す気も起らなかった。
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指差した方向をカリアホは見上げた。疲れ切った表情を見ると更に可哀想に思えてきた。変わったこのガルタという奴は、人の家に泊まるというのにずっと横暴な態度でこちらに接してくる。
シャリヤはもうすでに寝ているだろうか。寝ていようがいまいが、この二人が居る理由を説明せねばなるまい。そんなことを思いながら、翠は部屋のドアノブに手を掛けて、捻った。開けたドアの向こう、リビングにある椅子に制服姿のままでうとうとしているシャリヤが見えた。
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ドアが開いた音に気付いたのかシャリヤは玄関の方に翠が居ることに気付いたようだ。シャリヤは眠気がはれてないないようで、翠の答えを聞いてただ頷くだけであったが、立ち上がって寝室に行こうとしかけて振り向いて怪訝そうに翠の後ろを見ていた。
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良く分からない単語を訊き返すと、シャリヤは翠の後ろに居る二人を指差していた。リパライン語の三人称は"
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シャリヤは困り顔で寝室の方を見た。確かにシャリヤと翠が寝る分には二つのベッドがあるから良いが、ガルタとカリアホが寝るところはない。深夜一時にして重大な事実に気付いてしまった。
とりあえず、二人とも玄関に立たせてないで部屋の中に迎え入れ、座ってもらった。カリアホは既に椅子に座って、眠ってしまっている。
シャリヤに対してガルタに幾らか状況説明をお願いして、シャリヤにはとりあえず納得してもらっていた。だが、寝床をどうするかという問題はまだ解決されていなかった。
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"
シャリヤはガルタの言っていることに申し訳なさげに頷く。困り顔のシャリヤも可愛いが、自分も何を話しているのか理解して問題を解決したかった。言っていることはところどころ分からないが、類推できることは色々ある。
多分"
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翠の言葉に、シャリヤは何か言おうとしている様子であったが、彼女は途中で言うのをやめてしまった。こういうわけで、この日は座ったまま夜を過ごすことになってしまった。
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