#344 全てはこちらの手の内に
虚無感に苦しめられ始めてから数十分後、布越しでも周りが薄暗くなったのが感じられた。それまで聞こえていた日本語の喧騒と打って変わって、こちらはリパライン語だったり、リパライン語に似た良く分からない言葉を話していた。恐らく後者は古典リパライン語。ということは、フィレナは俺をシェルケンの基地まで運んできたということになる。
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台車の前方から声がした。男の声――その喜んでいる声色からして "
"
フィレナの声と共に俺の上に被さっていた布が取り払われる。天井の照明が目に刺さって痛い。そんなことを思っていると、次の瞬間には乱暴に台車から床に降ろされる。
俺は抗議の意味も込めて、フィレナに向けて開かない口で呻く。だが、彼女の前に居た男から腹に一発蹴りを入れられて沈黙するほかなくなってしまった。
しかし、その一瞬で彼女とアイコンタクトが果たせた――「計画通り
」という意味合いをお互いに確認し合ったのだ。
そう、これまでの流れは全て計画通りなのだ。多少手荒な真似をされて、不満はあったものの完全に順調に進んでいた。
フィレナの算段はこういうものだった。まず、俺とフィレナが何ともなしに二人でシェルケンの基地に現れれば、完全に不審に思われるに違いないというところから始まる。だからこそ、俺を "
あとはフィレナと俺の話術に交渉の趨勢が掛かっていた。
男は怪訝そうな顔で俺のことを睨みつけていた。
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"
"
シェルケンの男はマントを翻しつつ、しゃがんで俺の顔を商品でも見定めるような目で見てきた。俺も負けじと睨み返す。
一方でフィレナは腰に装備していたナイフを抜いて縛っていた口の部分の縄を切った。これでちゃんと喋れるようになる。
「おいおい、よくもこんな乱暴な真似を捕虜にできるな! こっちの世界じゃ国際法違反だぞ」
"
「お前みたいな能無しは異世界にも居るんだな。捕虜の取り扱いすら心得てないなんて、さすが異世界だ。発展度合いが違うってか、ハッハッハッ――ぐあっ!」
今度は頭に一発蹴りを入れられる。クソ痛いし、頭がぐわんぐわんするがこの程度なら大丈夫だ。ケートニアーであることは、身体の傷の修復も早いということを指す。この男は俺が銃で何度撃たれても死ななかったことなど知る由もないだろう。
不機嫌そうな顔をした男の顔を見上げて、順調さを確認する。
挑発したのは作戦の範囲内だった。インド先輩が言っていたことだが、言葉が通じなくても仕草や態度で茶化していることは伝わる。挑発して、冷静な判断力を失わせるのは良くある戦略の一つだ。
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"
焦った様子で命令してくるフィレナ。しかしまあ、これも演技である。迫真の演技に拍手を与えたいものだったが、縛られてる今はそれも敵わない。
俺は事前の打ち合わせ通り、男の方を向いていかにもウザそうな顔をして言ってやる。
"
男の視線は怒りから、段々と何か恐ろしいものを見ているかのような眼差しに変わっていた。
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"
フィレナの言葉に男は腕を組んで悩み始めた。
そう、作戦の本質はここにあった。つまり、シェルケンに侵攻を止めさせる理由を作ればいい。シェルケンの目的は懲罰戦争だったり、領土拡大などではない。単純に古典リパライン語をその住人に強制することだ。それならば、こちら側が獰猛で野蛮、死ぬまで戦闘を続ける戦闘種族だと誤認させることができれば、相手側もここを侵攻するのは無意味と悟って帰ってくれるはずだ。
フィレナの先の言葉は、完全には分からなかったがおそらくそういう魂胆の発言だったのだ。
"
そういって、男とフィレナは部屋を出ていく。
俺は去り際のフィレナと再びアイコンタクトをして、黙って二人が帰ってくるのを待っていた。
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