#273 混ざり合う景色


 四人は所定の場所についていた。IDEの設置で翔太は一度離れたが何も問題なく完了したらしい。

 作戦は地球では滅多に見なくなったガラパゴス携帯のボタンを彼が押すことで始まった。遠くで鈍い爆発音が響く。警戒サイレンが場内外に鳴り響き、予定通り目の前で兵士たちがバタバタし始めた。


「どうやら上手く行ったようですね」

「そうだと良いんだが」


 彼は状況を注視していた。陽動が成功したか見極めるまでは飛び出そうとはしない。背後に居るクラディアはそれを静かに見ている。貧乏ゆすりをしながら、不満そうな顔をしているのはインリニアだ。彼女は行き交う兵士たちを見てため息をついた。


"Lecu tysnen皆……しよう als yrt…………."

"Cene niv missそれが出来る es la lex'i fal人のその………… larta'd dieniepestanじゃないないんですよ."


 ぼやくインリニアをクラディアが嗜める。言っていることは良くわからないがインリニアは動きたくてしょうがないといった様子だった。そんなところで丁度良く翔太が重い腰を上げた。


「行くぞ、今を逃せば次はない」

「行きましょう、dusnij jetesj ja"


 四人は隠れていた草むらから飛び出した。先頭に居た翔太はライフルを持ちながら出入り口へと前進する。残って警備している兵士は一人残らず蜂の巣になっていった。しかし、作戦通りの出入り口を見つけるとすぐに異変に気づいた。


「鍵がかかってるだと?」

「それって、どうにか出来そうなんですか!?」

「ピッキングとかは出来ねえから、ドアをぶっ壊すしか方法は無い」


 そう言いながら翔太は手を掲げた。しかし、その瞬間背後に強い存在を感じ振り返ってしまった。そこには青いヘルメットを被った兵士たちが居た。一人ではない。周り三面を数十人の兵士が囲んでいた。ライフルをこちらに向けて今にでも発砲できる様子だった。

 翔太の舌打ちが聞こえると共に見覚えのある人影が兵士たちの間から出てきた。銀髪をオールバックにした指揮官の様相の男――ウィルコックス大佐だ。


「動くな、君たちは戦時国際法に沿って処遇される」

「俺達は国だのなんだのには興味が無い。ウィルコックス大佐、構わないで貰えるか」

「そうはいかない。そちらに興味がなくても、こちらに問題があるからな」

「パトリック・ウィルコックス、後悔することになるぞ」


 翔太の剣幕に、ウィルコックスは全く動じないだけでなく嗜虐的な笑みまで浮かべていた。

 その瞬間、翔太はインリニアの背にあったウォッカ瓶を引き抜いて栓を無理やり引き抜いた。ウィルコックスはそれを見てニヤケ顔を濃くする。


「最後に一杯やろうって感じか」

「いや、違う」


 彼は瓶を振り回した。瓶からウォッカが飛び出し、ウィルコックスと兵士たちに掛かった瞬間、翔太は手のひらを彼らに向ける。無表情で彼は呟いた。


「フランベだ」


 瞬間、兵士たちが火だるまになる。ウィルコックスも足に火が付いて焦った様子で叩いて消化しようとしていた。彼らが混乱しているうちに翔太は俺達を基地の中に押し込んだ。背後から自分たちを冒涜するような言葉が聞こえた。

 俺達は気にせず先を進んでいった。


「愚かな奴だ。こんな意味のないことをして怪我をするとは」

「もう追ってはこないですよね」

「デュインに行ってしまえば、多分な」


 一行は廊下を進みながら、翔太の後を追って目的の部屋を目指す。基地の中は相変わらず薄暗く人員も見えない。恐らく陽動作戦が功を奏したらしい。

 翔太は廊下の途中で周りを確認してから立ち止まった。重そうな鉄製のドアの前だ。インリニアはそれを怪訝そうな目で見つめていた。


「この中がウェールフープ転送装置のはずだ」


 鉄扉に手をかけ、開けると中には珍妙な機械が置かれていた。まるで入っていると癒やし効果があるとかで巷の話題になる系の、もしくはコールドスリープ用のコフィンのようなそんなような見た目の機械だ。インリニアはそれを見て更に怪訝そうな顔をする。

 だが、翔太もクラディアもそんな俺達の疑問を聞いている暇はないとばかりに腕を引っ張り、背中を押して強引にコフィンの中に押し込まれた。インリニアの声も聞くことが出来なかった。彼らも他のコフィンの中へと入ろうとしたところで黒板をひっかくような音と共に国連軍の帽子を付けた兵士達が部屋へとなだれ込んだ。


"Freeze! Don't move!"

「クソッ……!」


 翔太は手元にあったボタンを叩き割るように押した。それと同時にコフィン外の様子に様々な風景が混ざる。この時代のこの場所とは思えないような風景が目の前の翔太達が居る光景に混ざって、どんどん見えなくなっていく。不安が心のなかに満ちていくが誰にも呼びかけることが出来なかった。

 翔太はこちらに振り向いた。


「俺達もすぐに行く、心配するな」


 景色が混ざっていく中、最後に聞こえたのは翔太のその言葉だけだった。




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