#293 私達にそんなこと言えるの?
驚いたことにエレーナの寮棟は俺とレフィの寮棟の真横だった。廊下から声が掛けられる近さで建物が隣接している。思った通り、中は何の変哲もない部屋だ。じろじろ見ているとエレーナは顔をしかめた。
"
"......
内容は分からないが、多分部屋をじろじろ見るなということなのだろう。私物などが置かれている様子は無いのに厳しいものだ。
エレーナはベッドに腰掛け、デスク脇に備え付けられた椅子を指差した。そこに座れということらしい。腰掛けた瞬間、椅子はぐしゃんという音を立てて傾き、俺はそのまま床に叩きつけられた。
エレーナの心底残念そうなため息が聞こえた。
"
俺は床に座り直して、咳払いをひとつした。仕切り直しだ。
"
話はエレーナに主導権を握られる前に俺から切り出した。
エレーナたちと別れた後、俺と浅上、夕張という存在に出会ったこと。そして、インリニアとシャリヤと共にスキュリオーティエ叙事詩の世界で過ごしたこと。拙いリパライン語ながらも要点を絞って、伝える。この世界に来てから起こったこと、シャルと出会い記憶を戻すための手掛かりのようなことを話していたこと。
エレーナは時折目を細めながら、その話を聞いていた。疑念に駆られているような表情だったが、彼女は口を挟まずに静かに聞いてくれた。一通り伝え終わると、エレーナは頬に手を当てながら考えるような表情になった。
"......
"
"
"
"
エレーナは手を広げて、ばたりと後ろに倒れ込んだ。彼女の身体を受け止めたベッドはその形にへこむ。その顔は胸の曲線で隠され、顔色を伺うことは出来なかった。
"
"
気づかないうちに自分の言葉は意趣返しのようになっていた。エレーナはそれに不満だったのかガバっと起き上がって、怪訝そうな視線をこちらに向けた。
自分を殴りたくなる衝動にかられながら、俺はエレーナの言葉を待った。彼女は少しばかり不機嫌そうだった。
"
"
"
エレーナは立ち上がって、こちらに近づいてきた。こちらを信じられないとでも言いたげな表情で見つめていた。
"
"
"
"
俺も負けずと立ち上がって、吠える。しかし、こんな言い合いに何の意味もないことはお互いに分かっていた。熱が冷めると二人共ほぼ同時に静かに、バツが悪そうな顔をしながら、その場に座った。
"
訊き返せなかった。だからこそ、頭の中で言葉を予想した。
"
俺が黙って意味を考えているとエレーナは静かに言葉を続けた。
"
彼女は半ば泣きかけていた。
"
言い淀んだのは、エレーナの言っていることは正しくても事態はそんなに単純ではないということが頭の中で絡まりあったからであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます