#294 知ってるけど、分からない天井


 エレーナには部屋から半ば追い出されるような形で別れることになった。気が落ち着いたら、また行く先の話をすることにしよう。

 寮に戻った時には雨が振り始めていた。ドア前の廊下からはウェールフープで雨を弾きながら、そそくさと寮や近くの建物に向かう生徒たちが見られた。ここは天候が悪くなりやすいようだ。今日も朝から曇りで、雲間に青い空を見ることも出来ないほどの曇天だった。

 俺は思い立って、天に手を向けた。空に意識を集中させて一定の空間にドームを作るようなイメージをする。

 そして、静かに呟いた。


"Caflekサフレク."


 ハンマーで叩きつけるような、そんな音の実感だった。結果はやはりさっきと同じ。小雨はいつの間にか、また豪雨に変わっていた。何食わぬ顔で移動していた生徒たちは天を見上げて、大急ぎで近くの建物に逃げ込んでいた。一体どういうことなのだろう。レフィと同じように唱えたはずなのだが。

 疑問を心にしまい込みながら、豪雨を背にする。自室のドアノブに手をかけようとすると、そこに袋が掛かっているのに気づいた。レフィが置いといてくれたのだろう。


(ありがとな、レフィ)


 ドアを開けて、靴を脱ぎながら袋の中身を確認する。数種類のお菓子とともに封筒に入った手紙が入っていた。宛名や差出人は書かれていない。ここに届くのが確実であり、開けば誰が書いたかすぐに分かるような者が書いたのは明白だった。だからこそ、それがレフィによって書かれたのだとすぐに理解した。裏返せば良く分からない意匠の付いたスタンプで封印がなされていた。

 小机に袋をおいて、封筒を開いた。ポップな感じの淡い緑色の便箋だ。左上の方にラプトルのような動物が描かれている。こんな動物がこの世界に居たことをつい今まで知らなかった。シャリヤと動物園デートにでも行ければ、話は違ったのかもしれないが、それはさておき気になるのは内容だった。


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Xatvasti私が…… zu xelir mi'stする先輩へ, salaruaこんにちは.


Lirsそうだ, edixa deliuあれを言っておく mi lkurf melsべきでした la lexよね.

Lernniejodalstoバトルロイヤル es roluk…… (z'esつまり ny nestile'd明日の nestil nyj明日です!) gelxだから deliu miss私達は…… verletしなきゃいけません.

Cene co luso先輩がウェールフープを werlfurp elx es使えることが les jurleten肝要な問題 fafsirlですね.

Fua la lexそのために, verleto es……は jurleten重要です.


Cene nivあのときは perneilestan ioその……を mi lkurf mels話せま ny la lexe'dせんで snalu jaしたね.

Paでも, Mi letix snalu私はケートニアー zelx deliu mi護衛官にならな is kertni'ar'dければならない sesnuder理由があるんです.


Co es先輩は ficakornieph私にとって…… fal miです.

Lecu miss私達で絶対に korlixtel lot先輩の記憶を malst nitekerl co'st……しましょう.

Malそして, lecu miss絶対に korlixtel lotアレス・シャリヤに molkka勝ちましょう ales.xalija'cだって先輩には cun co……の letix furp……があり fon alterますから!


Lexerl.レシェールfhineriju・フィネーイユ kranteより.

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 読み切ってから深いため息を付いてしまった。一体どこまでこの娘は健気になれるのだろう。どうしてそこまで俺にこだわるのか理解できない。いっそ捨て去るように自分を見限ってくれれば良いのに一向にそうしてくれない。かといって彼女を突き放すことも出来ない。全ての人を救おうと考える前に時間が手をすり抜けていってしまう。そんな感覚だった。

 頭を振って、新語をちゃんと理解しようと思った。疲れている時は作業的なことを考えたほうが捗る。

 まず"xelirシェリー"と"furpフープ"、"alterアルテー"は情報量が少なすぎて理解は出来なかった。"rolukロルック"はレフィ自身が説明している通り、"ny nestile'd明日の nestil nyj明日"、つまり「明後日」のことだ。どうやら"ny対義語を作る前置詞 名詞"に対して名詞の属格をそのまま並列するのは好まれず、"ny"が反転を示す接尾辞"-j"を伴って名詞の後ろに来るようだ。"verletヴェーレット"は恐らく文脈的には「鍛錬する、鍛える」だろう。バトルロイヤルを直前にして一日で出来ることは高が知れてるが、郷に入れば郷に従えというわけでとりあえずは従っておくことにする。あと"snaluスナル"はあの場で言えなかったことということで、「理由」だろう。

 最後に"ficakorniephフィサコーニェフ"だ。これはシャリヤを指していた"ficakorniekhフィサコーニェフ"と良く似ている。そういえば、以前きょうだい名詞を教えてもらったときに"-ph男性を表す語尾"と"-kh女性を表す語尾"があることを知った気がする。となると、語根は"ficakornieフィサコーニェ"ということだろうか、恐らく褒め言葉なんだろうが意味ははっきりしてこない。


「はあ……」


 もうため息以外出てこない気がした。手紙を適当に投げ捨ててベッドに身を投げる。白塗りの天井、もう一睡以上して知っている天井だけどだ。どうすれば良いのか、分からなくなっていた。シャリヤを取れば、レフィが、レフィを取れば、シャリヤが苦しむ。シャリヤも今のシャリヤと俺達の記憶のシャリヤのどちらかを取るのが正解なのだろうか。もう、何も分からなくなってきた。

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