#49 八ヶ崎翠は何処に居る

 言っていることが良く分からなくても一緒にお話ししましょうみたいな雰囲気だけは受け取れる。敵対的な感情を持ち合わせていないということは顔と言動、雰囲気から分かる。言語というのは記号で表されるそれだけではないということをここの人々は教えてくれる。

 ただ、リネパーイネ語が話せないので談笑という感じまで行けるかどうかは謎だ。


"Malそれで, xarzni'arsti, ferlk……の名前は es harmie何ですか?"

"Mi veles stieso私は……される <fixa.leijuafフィシャ・レイユアフ>."


 シャリヤの質問に白ワンピの女性が答える。どうやら、名前を訊いたようだが女性、フィシャ・レイユアフさんは良く分からない返答の仕方をしていた。普通は"Mi'd ferlk es私の名前は......"で返していたものに対して、"veles 動名詞"の受動態の形で返している。"veles stiesoヴェレス スティェゾ"で「呼ばれる」と訳すのが自然な気がする。試しに訊いてみるか。


"Mal xalijastiそれじゃあシャリヤ, mi veles俺は何て stieso harmie'it?呼ばれてる"

"Co es君は jazgasaki.cen tirne?八ヶ崎翠でしょ"

"Jaはい, jexi'ert."


 シャリヤに向けた質問にフィシャさんが答えてしまった。どこ経由かは知らないが、どうやら自分の名前と素性が漏れているかもしれない恐怖を感じる。まあ、区切られた外との交流のない街中ではお互いが顔見知りみたいなものになるんだろうが、それにしても全く知らない人が自分を知っていたら驚くものだ。というか、顔と名前がセットで伝わっているんだろうか。それともセットで伝わってるのはシャリヤの方か……?いつもシャリヤのことをつけているストーカーとか……?

 やめよう。誰に何を思われているかなんて考えるだけ無駄だ。変な風に考えが回るとすぐに人間が信用できなくなる。


そんなことを考えているとがたごとと床下から音が鳴った。割と大きな音だったので、びっくりしたが何の音なんだろう。


"Fqa es harmieこれは何, fixastiフィシャさん?"

"Merえぇと, fqa'd ladirこの……は es menas ietost lu……の水です……."


 シャリヤも疑問に思ったのか、床を指さして疑問を投げかけていた。フィシャは即座に答えていたが、水という単語しか良く分からなかった。水道か何かが整備されていて、その音であるって感じなのかは分からないが、特に慌てる様子でもなかったのでそういった感じなのだろう。多分重大なことでもなく、日常的なことであるという感じがしていた。


 フィシャさんは、何事もなかったかのように奥の方に引っ込んでしまった。シャリヤは袋の中から食べ物を取り出していたので、翠もそれに従って袋に手を入れると、良く分からないトルティーヤのようなものが入っていた。そのまま口に運ぶとぱさぱさしていて、あまりおいしくなかったがシャリヤを見て気づいたことは何かをつけて食べていたことだった。パンというかインド料理のナンのように何かをつけて食べるようであった。


"Xalijastiシャリヤ, xarzni'ar es harmieシャーツニアーって何?"


 訊き忘れていることがあった。シャリヤは先程フィシャのことを"xarzni'arstiシャーツニアーよ"と呼んでいた。フィシャさんが"xarzni'ar"という何かであることは明白なわけだが、これは良く分からない。好奇心がまた震え上がっていた。


"Xarzni'ar esシャーツニアーは......"


 そこまでシャリヤが言ったところで、言葉を遮るように大きな音をあげて建物の大きい方のドアが開かれた。ある程度暗かった空間だったその部屋に、大きく開かれたドアからまぶしいほどの光が射しこんでいた。


"Harmue jazgasaki.cen八ヶ崎翠 mol居る! Derokramcol sirg'i!"


 まぶしくて何も見えないドアの先から、神聖な空間にしては粗暴な声が聞こえてきた。威圧するような声に続けて、入ってきた人間は図書館からヒンゲンファールと共に見た民兵連中だった。良く分からないが、翠の名前を呼んでいたような気がするので名乗り出ようとしたが、驚いて戻ってきたフィシャが目を見開いて、何事かと彼らの前に小走りで出ていくのを見て出ていくに出ていきづらかった。


"H, Harmie voles lu?"

"Derokramcol jazgazaki.cen八ヶ崎翠. Flarskaval xlais circor zu derok si mels dznojuli'o'd……の ceg."

"Ers ceg......?"


 叫んできた男は顔に血が上がっているのか赤くなっている。フィシャと話をしたのはその横の冷静そうな人間だった。フィシャは後ろから見ても顔が見えなかったが、言葉の端々から血の気が引いていくような雰囲気が感じられた。


"Mal, harmue si mol!"


 赤い顔の男が更に激高して言う。フィシャは怒鳴り声にびくっとなり、怯えながら翠を指さす。男はよく聞き取れない怒号を飛ばし、フィシャを横に突き飛ばして翠の方に迫ってくる。

 尋常ではない状況を翠は雰囲気で理解していた。

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