#79 ˈʦaːlˌvɔʁt
ヒンゲンファールさんに連れられてやってきた部屋は講義室のような小部屋だった。前方にアクリル板の裏側に白い紙が貼られたような感じで黒板のようなものがあり、脇には教卓があって、椅子が並べられていた。
言われるがままに、部屋の中に入って椅子に座るとヒンゲンファール女史はすぐにボードに黒いペンで何かを書いていっていた。
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10 an(a)panqa
100 xan(a)panqa
1000 san(a)panqa
10000 can(a)panqa
100000000 en(e)panqa
1000000000000 in(e)panqa
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ふむ、なるほど。
どうやら読みは当たっていたようだ。基礎の数詞に接辞をつけることでその数の位を表すことが出来るらしい。それでは、複数の位での数詞の並べ方はどうなのだろうか。
眉を上げて、反応を待っているヒンゲンファールに更なる質問を投げかけようとして、手帳に"21"と書いてみる。
"
「先生」と呼ばれたヒンゲンファールは、少し気恥しそうに頭をかきながら、翠の提示した手帳をのぞき込む。
"
"
数詞の並べ方は普通に(10*2)+1の順番だから、日本語と同じような感じだ。
部屋の片隅にある時計を見て、もう一つ思い出すことがあった。数詞を勉強したなら時間も読めるようになるはずだ。確か、時間を表す単語は"liestu"で分を表す単語は……しらないがまあ、何とか教えてもらえるだろう。地球と時計の形もシステムも同じようだし、単語さえわかれば直ぐに読めるようになるだろう。
見えている時間は12時1分くらいだ、適当に単語を並べて通じるかまず試してみよう。
"
"
ヒンゲンファールは"liestu"で短い針を指してから、"rukest"で長い針のほうを指して言った。つまるところ、「●時○分」と言いたい場合は"●'d liestu ad ○'d rukest"というのだろう。
そんなところでヒンゲンファールはこちらに向き返った後、瞬間で時計に振り返って"
何をそんなに驚くことがあるんだろうかと思いきや、ヒンゲンファールはらしくもなく焦った様子で部屋の奥側にあるバッグを掴んで、急いで部屋から出て行こうとした。何かあったのか良く分からないので引き留めようとなった。
"ちょ、
"
("finibaxli"は確かヒンゲンファールさんに以前言われた気がするな。)
確か、"
"
そういうと、ヒンゲンファールは目を細めて不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。もしかしたら、明日も何か予定があるのかもしれないし、その時間は空いていないのかもしれない。
"
"
ヒンゲンファール女史は明日は別にいつでも教えられるらしいが、時間を再確認してきた。
頷くと一瞬アンニュイな表情で何かを考えているかと思ったら、一気に顔色が明るくなって納得した顔になって、"
(うーん、何が引っかかったんだろうか。)
お昼を食べる時間が無いとかだろうか。しかし、食堂は11時から13時まで空いていることだし、一日中空いているのであれば早めに食べてくればいいのではないかとも思ったが、他人にそれを強いるのはあまりにずうずうしい気がした。ヒンゲンファール女史はそこを受け入れてくれるからやはり大人だ。だが、最後の"12'd ler 50'd rer"の分を言うときの強調が気にかかる。彼女の頭の左上にでも傍点を打ちたくなるほどだったが、多分時間をちゃんと確認したかったのだろう。
ヒンゲンファールさんのこの徹底ぶりを見てみると、この世界もまた時間に非常に厳しい世界なのかもしれない。だがしかし、そこは大丈夫だ。日本人は時間に厳しい民族と言われている。その通りであることはインド先輩のタミル・ナードゥでの生活を聞いてきて、何度も実感している。そこらへんは多分問題ないだろう。
(さて、結局やることなくなったな。)
図書館の中の一室にぽつんと残され、そこでやっと朝食も昼食も食べていないことに気付いた。腹の音も「ついにばれてしまったか」とばかりに鳴る。
(やることもないことだし、食堂に向かうことにするか。)
戸締りなどは良く分からなかったが、盗みを働くに足りるようなものなどは置かれていなかったことを確認して、自分は図書館を後にした。
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