#78 ˈnjuːməɹəl
ヒンゲンファールさんの生態、それは基本的に図書館に住み着いているということが一番の特徴として挙げられよう。忙しくぐるぐるレトラの街を歩き回っているレシェールとは違い、エンカウント率が高いという事実は非常に重要なことである。と、自分の考えを反芻しながら図書館までの道を歩いていた。
ヒンゲンファールに数詞のことについて学べとイェスカに言われてしまった直後、シャリヤに「すぐにでも行ったほうがいい。」みたいな雰囲気で部屋を追い出されてしまった。しかし、今一つ腑に落ちないのはイェスカが何故ヒンゲンファールの名前を知っていたのかというところだ。流石に慰問に行くたびにその地の人間の名前と素性を全員覚えるとか、そういうことはないだろう。ないと信じたいが、ではなんでヒンゲンファールだけその素性を詳しく知っていた?最後に聞いたイェスカの発言の最後の部分は語彙力が無くて理解できなかったが、"
(はあ……)
頭を振って疑問を振り払う。
多分、個人同士の人間関係ってこともあるだろう。あまり深追いしない方がいい気がする。
そんなことを考えながら道を歩いていると、図書館が見えてきた。ドアを開けて、中に入ると緑色のかごを持ちながら書庫整理を行っているヒンゲンファールが見えた。図書館に入ってきた翠を見て、笑顔で振り向いて手を振ってくれた。
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"
"
ヒンゲンファールはイェスカがレトラに来ていることは理解しているようだ。自分の回答に対して、顔をしかめている様子だった。まあ、ヒンゲンファールさんは普段は騒がしいのは苦手そうだけどだからそんな感じなんだろう。銃を片手にフィシャに詰め寄って、その後戦おうとしたのは、騒がしいのが苦手の範疇に収まるかは知らないが。
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"
いきなり外国人に数詞を訊かれたら、そりゃ驚くだろう。だが、あれだけイェスカに持ち上げられたのだから語れるだけ語ってほしいとも思った。
地球の言語の数詞に関しては面白い話がいくつもある。
例えば、タミル語の"
こういう話は面白いですむが、フランス語では何故か途中から20進数で数を数え始めるし、ドイツ語は確か21とかは(2*10)+1の順番じゃなくて1+(2*10)の順番で言うし、もし、リネパーイネ語でそういうことがあったら面倒だ。ただ今まで数字を読んできて、何か違和感があったことは無いので多分10進数だろう。少なくても10を「イチゼロ」とは読まないだろう。
"panqa, qa, dqa, iupqa, neoqa, xantaqa, xenqa, lekqa, fentiqa, anpanqa"
"
ヒンゲンファール女史はかごを下ろして両手をこちらに向けて指を折りながら発話していた。指折りと数詞が対応しているところを見ると指を追って数えるという方法は地球人と同じような感じなのだろう。つまり、さっき言われた十個の数詞は一から十までの数詞だろうか。
最後の"
(試してみるか。)
家を出る時に鞄に入れておいた手帳とペンを取りだして、記憶に沿って"2"と"0"を書く。ヒンゲンファールさんは何を書いているのかと気になったのか首を傾げて横から覗き込んでいた。
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"Anaqa......"
"anqa"と"anaqa"はよく似ている。だが、多分どっちで言ってもいいのだろう。
というのは、以前から気付いている緩衝音が挟まれた形が"anaqa"で挟まなかった形が"anqa"だろうからだ。緩衝音の仕組みはまだしっかり良く分かっていないけど、多分もう少しリネパーイネ語が読めるようになったらリネパーイネ語の文法書を一読してみるのもいいかもしれない。インド先輩みたいに専門用語バリバリの本を読んでも分かる気はしないが、図とかを見つけてその周りだけでも理解できれば、更に自然に話せるようになるかもしれない。
"
ヒンゲンファールは図書館のドアを指さして言った。部屋を移動して本格的に教えようということなのだろう。
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