#105 確認


(何が起こったのかさっぱりわからない。)


 正直な所、そんな感想しか出てこなかった。いきなり戦線に連れて行かれるというそんな宣告をされたシャリヤは、抜け殻のようになっていた。なんとなしに近づいてみるとぼんやりした表情でこちらを見てきた。心なしか笑っているような、泣いているようなそんな微妙な表情だった。


(シャリヤを守るって言ったばかりなのに。)


 つい先日の約束を思い出す。イェスカの教会へは行かずにシャリヤの元に居て孤独を補い合うと、そう誓ったはずだった。それがこんな形で破綻を迎えるとは。 


"Fqa lapこれで…… es vynut良かったのかも. Ceneだって mi reto両親の elx retover敵を mi'd取れる josnusn'itんだもの."


 シャリヤは自分の運命を自嘲するように薄ら笑いを浮かべていた。

 あまりに残酷だった。他にも少年・少女を徴兵して、前線に出しているのだろうか。それほど戦況は逼迫しているのだろうか。イェスカのような人間が街に来ているのに親を異教徒に殺されたシャリヤのような少年少女をその仇取りという精神的付加を掛けて前線に出して利用しようとしているのか。


 義憤にかられる。ミュロニユとかいう男は、イェスカの教会が当然のようにこれをやっているという言い方をしていた。如何にしろ、イェスカにこの事情を聴いて事を糾さねばなるまい。シャリヤのことだけでも最悪の展開になっている。それに加えて、これが他の人々の間に起こっているとしたら、信じられない悪夢だ。とにかくイェスカに事情を問い合わせるしかない。何が起こっているのかさっぱり理解できていない状態で、方針を決定することはできない。まずは情報収集から始めるべきだ。

 翠はそう考えたが、目の前の状況を再度冷静に判断した。シャリヤはため息をついてみのむし状態のまま動こうとはしない。彼女が一番恐れていたことは翠が自ら自分の元を離れて孤独になる事だった。しかし、今度は別の流れで自分たちは引き離されようとしている。その怖れをはっきりと取り除くのが優先だ。


"Xalijaシャリヤ......stiなあ......"

"Harmieなぁに?"


 虚ろな目、不安定な声色で答えてくるシャリヤはとてもじゃないが直視することができなかった。窄まった目、光沢の無いラピスラズリ顔料のような瞳、曇った銀髪。じっと床を見つめて何かを考え続けるような表情を浮かべたと思ったら、ため息をついて頭を振ったりしていた。


"Edixa mi lkurf言ったよな. Selene俺は mi celdin君を助けたい co mal君を mi celes一人には niv isoさせない co's panqa'cって. Lecu miss一緒に mol fal居よう panqaって."

"Jaそうだね."


 声が届いているのかどうか良く分からない空返事に心が痛くなる。だが、今言い直していることは自分への言い聞かせでもある。これくらいのことはどうということはない。少しの障害くらいで立ち止まってはいられないのだ。お互いに全く別の理由であれ、孤独な者の神聖な誓いは果たされなければならない。


"Mi celdin今また co fal no俺は君を助ける. Mi celes君を戦わ niv elmo co'stせはしない."

"Cene niv無理 co es e'iだよ. Lertasala'st教会の lkurfo es言うことは stilkernerfen. Cene nivこれに miss es私たちが何か fhasfa'i fgir'cすることはできない."


 淡々と全てが決まっていることのようにシャリヤは話していった。翠の呼びかけに対して全てが無駄だと断言するように首を振って、しかしそれが悲しいことであるかのように俯いていた。

 ミュロニユの言う通りならば、召集令状は教会から発布されている。シャリヤもレトラもとりあえずリパラオネ教圏としてイェスカの教会の勢力下であるから、教会の命令は絶対と考えているのかもしれない。事は、リパラオネ教とその他の宗教間での宗教戦争だから面倒なことになっている。神の出先機関たる教会の言うことを訊かなければ死後どうなるか分からないとかそういった迷信の中をシャリヤが彷徨っているのだとしたら、その檻から解放する手段は外部にしかない。

 部屋を替えて、すぐに着替えを行う。バッグに辞書と手帳とペン、いつもの持ち物を詰めて、玄関のドアノブを握る。


"Harmueどこへ co tydiest行くの?"


 シャリヤが不安と疑問の混じり合ったような顔でこちらを見てくる。いなくならないでほしい。逃げることは出来ないが、最後まで隣に居てほしいという懇願が、顔に見える。

 だが、自分は君のために逃げ道を探ろうとしているのだ。


"Mi tydiestイェスカさんの fua lkurfoところに話 jeska'cに行く."

"...... firlexわかった."


 シャリヤは翠の回答に否定も肯定もしなかった。どうせ、イェスカに何を言っても無駄だと考えているのだろう。第二次大戦時代のドイツを描いた映画でフェーゲライン親衛隊中将の処刑に義姉が泣きながらヒトラーに助命を懇願したように、翠の説得もそのように蔑ろにされて終わるのだろうと考えているなら、食わず嫌いと同じで大きな間違いだ。

 生きるためなら方法を最後まで試す。望みが薄かろうと最後まで足掻いて助け出してやる。


 決心の中、翠は家を後にした。

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