#338 捕らえられたシェルケン
しばらくして着いたのは基地のような場所だった。何十もの警備の検査を受けて、装甲車はその中に入っていった。警備はなんだか必要以上にピリピリしているようで、同じところを何度もチェックするなど抜かりがなかった。
車から降りると身体検査が行われた。谷山も例外ではないようで、入念な検査の末に俺たちは敷地内に入ることが許された。
「ここは何なんですか」
「第二波攻撃が始まった当初、自衛隊と米軍は協力して応戦したんだ。大きな損害を受けたけど、その代わりにはっきりとした戦果を得られた」
谷山は数ある部屋の中でも二人の警備が付いているドアの前で立ち止まる。そして、そのドアノブを開けると俺を部屋の中へ招き入れた。
薄暗い部屋の奥の方に一人の人影があった。銀髪蒼眼の少女だ。それだけ見ればシャリヤのようにも思えるが、彼女とは違い少女の髪はショートヘアで眼の蒼はシャリヤのそれより明るい色合いだった。
その見覚えのある服装はすぐに直前の記憶に結びついた。
「シェルケンの捕虜……ですか」
「ああ、彼女だけはウェールフープが使えないようでね。簡単に拘束できたんだよ」
少女は俺のことを見上げて、無気力そうな視線を向けてきた。
「俺にどうしろと?」
「決まってるじゃないか、敵の情報を聞き出すんだよ。知ってることは洗いざらい喋ってもらう。だけど、僕たちじゃ言葉が分からないからね。君の助けが必要なんだよ」
「そんなこと悠長にやってる場合じゃないでしょう」
「君は知らないようだけど、シェルケンらは君を確認した途端に襲撃を止めてるんだよ。シャリヤちゃんは囚われの身、助け出すにはシェルケンの基地の構造や配備状況をある程度知っておくべきだろう? 悠長なんてことはない」
「それは……確かに……」
谷山は柔和な顔に戻って、丸眼鏡のブリッジを人差し指で上げる。
「僕は忙しいから、あとは二人っきりでアイスブレイクを楽しんでくれ」
「……一体何処に行くつもりなんですか」
「それは言えないが、数時間したら戻ってくるよ。そのときお互いの情報を共有しよう。何か必要なものがあれば、ドア際の警備に伝えてくれ。それで良いね?」
俺の答えを聞かずに谷山は部屋を出ていってしまった。部屋に残ったのは無気力に机に視線を落としている黒服の少女と俺だけ。一体何処から切り出せば良いのか。もちろん捕虜となんて喋ったことはない。こんなことしている場合なのかという問いもグルグルと頭の中を回っていた。しかし、谷山の言うとおり今俺にできることはこれだけだ。役目を果たして、シャリヤを救い出す。
そう決意して、俺は黒服少女の目の前に座った。
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少女は一瞬だけ顔を上げ、俺の顔をまじまじと見つめたかと思うと、すぐに視線を机に戻した。
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奇妙な喋り方に首を傾げる。シェルケンというのは古典リパライン語を重んじる集団だというのは知っていたが、上手く現代リパライン語を話せない人間も居るということだろうか。
谷山はアイスブレイクなどとのたまっていたが、そんなまどろっこしいことをしている暇はない。単刀直入に行こうと思った。
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おそらく "
どうやら谷山の基本的な認識は間違っていないらしかった。どこかぎこちない喋り方ではあるが、彼女の言いたいことははっきりしている。
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ところどころ良く分からない表現が混ざっているが、その声色は戦場で捕らえられた者の末路を知っているような雰囲気を感じさせる。彼女はそれほどに自分の末路を覚悟しているということなのだろう。俺はこれ以上のことは出来まいと悟って席から立ち上がった。
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彼女に背を向け、ドアノブに触れると背後から困惑したような声が聞こえた。
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俺はそういって、彼女に背を向けたまま部屋から出ていった。少女の視線が背中に突き刺さっていた。
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