#356 訴える者


「がばっ!?」


 明滅する意識がはっきりしたとき、自分の周りに本が散乱しているのに気づいた。

 こちらを覗き込むように見つめるニェーチは、頭に付いた犬耳を下げながら心配そうにこちらに視線を向けている。


"Co es vynut大丈夫?"

"Fafsirl mol niv大丈夫だけど...... Deliu missこれ片付 ycax fqassけなきゃな."


 散らばった本を目の前にして、疲労感を感じる。本当にこんな調子であの文章が書かれた本が見つかるのだろうか?

 そんな不安を脳裏に浮かべてながら、俺は足の上に落ちた一冊の本を拾う。その開いたページをさらっと見たその瞬間だった。


"......? Harmie co isどうかした, cenesti翠君?"

"Fqaこれ...... metista es la lexもしかしてあれか?"


 膝の上で開かれた見開き、その出だしは "volciera esヴォルシェーアは panqa fon fafsirlユエスレオネの現代のess fal問題の yuesleone'd no一つである." だ。

 つまり、この本が俺たちが探していたその本なのか……?


「こんな偶然ってありえるのかよ……」

"Arあー, Fqa nasteon esこりゃ完全に kranteerlestanあの文章だね."


 ニェーチは首肯しながら言う。俺はその本を大切にカバンにしまってから立ち上がる。


"Zuそれじゃあ, Melferto ny fas探しものは終わりというわけか?"


 背後から近づく男の声に振り返ると、そこには何冊も本を重ねて運ぶアルテリスの姿があった。

 体の芯がしっかりしていないのか、よろよろと左右によろけている。しかも顔面の前にまで本を積んでいるせいでどうやら前が見えていないらしい。


"Edixa mole co……に…… icveaines ……… desteker'c jaだったじゃん."

"Deroko es人を呼ぶのが cinefъhartkarfel………… fua miなんだよ."

"Lirsまあ, misse'd fafsirlこれで私達の lusus fqa'tj問題は……."


 本を書棚の間にあるデスクに置いたアルテリスは額を拭って、ふうと息をついた。


"Lecu miss ycax fqaこれを片付けてss mal marvelヴェアンに veana'c本を渡そう."


 俺たち二人はアルテリスの言葉に頷いて、本の片付けに入った。


――語学研修所


"...... Edixa coss melfert本当にこの本を kranteerlestan探してき fal cirlaたんですか?"


 借りた本を渡したヴェアンの第一声がそれだった。ニェーチが誇らしげに胸を張って頷づく。


"Malそれでは...... Sysnul io今日のところは lersse lususクラスは……です."


 ヴェアンは疲れた様子でそういった。おそらく "lususルズス" というのは「終わり」という意味だろう。図書館に居たときにアルテリスが同じような文脈で言っていた。

 ニェーチは嬉しがって笑顔を見せ、アルテリスは肩の荷が降りたかのような表情をしていたが、俺は今ひとつ腑に落ちないところがあると思っていた。課題を達成したことを褒めろとは言わないが、ヴェアンがそこに疲労を感じているところが不思議だった。

 そんなことを考えていると、突如ポケットに入れていたPHSが着信音を鳴らした。部屋の隅に移動して、通話ボタンを押すと豊雨の声が聞こえた。


『八ヶ崎ですが』

『あ、もしもし雪沢です。ちょっと急用で、手を借りたいんです』

『急用ですか?』

『少し面倒なことになってまして……』


 少し真面目な声色でそう告げると、豊雨は研修所の前で拾っていくと言って電話を切ってしまった。ニェーチたちが不思議そうにこちらを見つめていたが、事情を説明してからすぐに地上階へと向かった。


* * *


 下の階に降りていくと語学研修所の玄関の先に既に来るときに飛ばしていた公用車が止まっていた。俺の姿を認めた車の中の豊雨は少し急ぎ気味の様子でドアを開け、手招きした。

 乗り込むと車は急発進し、語学研修所を離れていく。


「急用って言ってましたけど、一体何があったんですか?」

「大使館の前にデモ集団が集まってて、解散するように交渉しようにもうちにはリパライン語が分かる職員が八ヶ崎さんしか居ないので困ってしまって……」

「そんなの放っといたら良いじゃないですか」

「外交官とかが巻き込まれる危険を放置しておくわけには行かないので、放置は出来ないんですよ」


 面倒くさそうな顔をする豊雨、彼女自身もあまり関わりたくは無いのだろう。

 しかし奇妙なのは接触してすぐの異世界国家に訴えることがある集団があるということだった。


「もしかして、そのデモ集団ってケモミミが付いてたりしませんか」

「え? ……うーん、確かに付いてたような……」


 豊雨は頬に人差し指を当てながら、考える仕草をする。よく覚えていないようだった。


「デモの内容が何かは分かってないんですか?」

「リパライン語が分かる職員が居ないんだから分からないに決まってるじゃないですか」

「ううむ……」


 豊雨の情報はあてにならない。どうやらとにかく現場に行かなければ、実情は分からなさそうだった。


「ほら、見えてきましたよ」


 豊雨が指す先には白い建物が見えてくる。金属製のプレートには「在ユエスレオネ連邦日本大使館」の文字がある。そして、確かにその前でプラカードなどを持って何かに抗議している集団があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る