異世界転生したけど日本語が通じなかった

#355 無茶な本探し

"Mer（さて）, liestustan klie（もう良いでしょうか）."

　静寂を切ってヴェアンがそう言うと、外交官たちは顔をあげた。

　もちろんこんな短時間で全文は読めない。ニェーチやアルテリスは読めたかもしれないが、内容は理解しきれていないだろう。俺はそれ以前の問題ということになる。

　悔しくて歯ぎしりしたくもなるが、ぐっと抑えて次の指示を待つ。

　おそらく「自分の意見を言え」などが次の指示になるだろう。そんなことを思っていると、ヴェアンは思いもよらないことを言い始めた。

"Mal（それでは）, melfert kranteerl zu（この文章が書かれた） veles krante fgir'd（本を探して） leijuss plax（ください）. Cene coss tydiest（図書館や……などに） krantjlvil adit（行っても構） torparr, et（いません）. melfert la lex mal（それを探して） letixerlst fal（ここに持ってき） fqa plax（てください）."

"Jopp（えっと）...... Pa（でも）, kranteerle'd（本の……） akrapt veles（はここには） niv kranteo fal fqa（書いてませんよ）."

　ニェーチが少し不満げに抗議すると、ヴェアンはため息を付きつつ答えた。

"Melferto la lex es（それを探すのが） sysnulu'd lerssergo（今日の課題です）."

　ヴェアンの声色はこれ以上譲歩するつもりは無いというものだった。

"Cene niv （もし君たち）coss melfert（が本を見つけ） la lex felx mi celes（られなければ） dosnudo coss（あなた方を国に）a'd icco'ct（返すことになります）."

"Tolesestan es harmoe（……はいつですか）?"

　冷静な声色で疑問を投げるのはアルテリスだ。"harmoe（いつ）"という単語が聞こえたことから "toles（トレス）" は「締切」という意味だろうか？

　ヴェアンはそれを聞いて、少し戸惑った表情になる。考えていなかったようだ。

"Mer（そうですね）...... Fqa lususil（ここの閉館が） g'es 17:00（五時ですから）, la lex es toles（それまでにしましょう）."

"Firlex（分かりました）,"

　アルテリスは、それだけを聞くとそそくさと部屋から出ていく。慌てたニェーチがその後を "m, mili ja（ま、待ってよ）!!" といって追いかけていった。

　展開の速さについていけない俺は残されてしまった。ヴェアンを横目で睨み、呟く。

"Fqa es farfel（これが普通の）en lersse（授業なんです）?"

"......"

"Mm（うーん）...... gennun fhasfa（なんか答えて） plax ja（くれません）?"

　ヴェアンは、仏頂面だった顔を崩して、うんざりしたように深くため息をついてから、短く答える。

"La lex es （これは君）delus fua coss（たちのために……です）."

＊　＊　＊

　時間制限があるからどうせ待ってくれないだろうと思っていたが、ニェーチとアルテリスは建物の出口の横で待っていてくれた。

"Mili mi cossa'st（俺のことを待っててくれたのか）?"

"Ja（うん）, Jol liaxi （アルテリス）altelis xici（さんってば） tydiest siteonj gelx（……で行こうとしたから） mi pusnist si ja（止めたんだよ）."

"Es niv viedost（…………）en la firlex（分か……）ili'a'i（するな）. jol niv mi（俺は……） rattelili'aves（しようとはしない）."

　ニェーチは言い訳じみた声色で言うアルテリスをにやにやと見ていた。

"Mal（それで）, harmie miss es（本探しの行くあては） e'i fua melfertostan（見つかったのか）?"

"Lecu miss tydiest（まずは図書館） krantjlvil fal panqa（に行かない）?"

　何処からか取り出した端末を操作して、地図らしきものを表示する。どうやらこのイルヴィツァ都市圏の詳細な地図らしい。一瞬にして経路のようなものが表示され、行く先が表示される。

"Fqa'c mol ly（こっちのほうにある……）! Lecu tydiest（さあ行こう）!"

　意気揚々と歩き出すニェーチの背後を俺とアルテリスの二人はため息を付きながら、追うのであった。

　数十分後、到着した図書館は結構大きめのものだった。レトラにあったものとは比べ物にならないレベルの大きさに、俺たち三人は圧倒されていた。

　いや、これくらいの図書館なら三人とも見たことがないとは言えないだろう。問題は、この蔵書からあの文章を探しださねばならないという絶望感だった。

　図書館の中に入ると、すぐさま三人で手分けして "volci（ヴォルシ）" にまつわる本を探して、集めて内容を探ることにした。俺とニェーチで本を集め、速読の能力が高いアルテリスはそれの中身を見ていく。

　そんな作業を続けながら、数十分が経過したところだった。

"Cene co icve（その本取） kranteerlestan（れそうか）?"

"Hmm（うーん）...... "

　ニェーチは腕を伸ばして、困った表情を浮かべていた。どうやら棚の上の方の本に手が届かないようだ。腕を伸ばすたびに、彼女の頭にあるイヌ耳もひょいと伸びる様は少し可愛らしい。

"Lecu mi celdin（俺がやってみるよ）."

　そういって、ニェーチのサポートに入ろうとした瞬間、彼女が立っていた脚立がぐらりと揺れる。それとともに、幸か不幸か彼女は取りたがっていた本を手に掴んでいた。

"Wagh（うわあっ）!?"

　体勢を崩したニェーチをキャッチしようと滑り込む。一瞬一秒の判断の差だった。しかし、彼女はと言うとアスリート顔負けの身のこなしで着地し、俺が顔面でキャッチしたのは彼女がすっぽ抜いた本と共に抜け出した数冊の本だった。

（あれ、このパターン、前もやったよな？）

　直後、八ヶ崎翠の悲鳴が図書館に響いたのだった。